「皇帝閣下、ヒカルが姿をくらませたようです」腹心のヒスが皇帝ゾラに告げた。
「そうか。」ゾラは気のない返事をした。
ゾラは人間同士をどちらかが死ぬまで戦わせて、どちらが勝つかを賭けるゲームを
しているところだった。
「思った通りの行動だな。新鮮味がないな。居所をしっかりキャッチしておけよ」
「ぬかりはありません。尾行するものがないので、安心しておりましょう」
「これで、奴らのアジトがようやく突き止められるな。よし、勝った。こちらも予想どおりだ。
このゲームにも飽きてきたな」
1つのゲームが終わり、ひとくぎりついたのを確かめて、ヒスが言った。
「恐れながら、皇帝閣下」
「なんだ」
「我々の命運を左右する大事な作戦に人間を関与させることが、私にはどうも納得しかねる
のですが。信用していいのですか。肝心かなめの部分を奴に全面的に任せていいのですか」
「ありえないことだろう」
「そのとおりで」
「だからこそ、奴を使うのだ。ありえないから意味がある。
わしらは完全にグリゴンの裏をかいてやらねばならない。思いもよらないところを突く
奇襲が必要なのだ。考えに考え抜いた方法だ。何度もシミュレーションをして、
98%の成功率を確かめている。
奴にはわしたちに出来ない侵入のしかたがある。
これにはグリゴンも予想できまい」
「しかしながら、皇帝閣下。それは、奴がこちらの指示どおりに動いた場合のことで
ありましょう」
「奴は指示通りに動くさ。そうしなければ、奴も奴の仲間も確実に終わる。
その点はわしはうそを言ってはいない。奴もそのへんはよく理解しているはずだ。
奴は必ず、わずかでも可能性のある道を選ぶ。手をこまねいて死ぬのを待つような
奴じゃない。
もちろん、成功しても、抹殺しまうが、それはこちらの勝手だ。
指示に従う方が少しだけ長く生きられるということだ。
それに奴の体内に爆弾を仕掛けてある。
作戦開始と同時に時限装置のスイッチが入る。最終兵器を狂わせる
装置を作動させない限り、時限装置のスイッチがきれないようにしてある。
成功すれば、奴の役割は終わりだ。助かろうが、死のうがこちらの知ったことで
ない。成功しなかったり、作戦を放棄したら、待っているのは確実な死だ。
もっとも、この作戦にはもう1つの意味がある。
最終兵器破壊に成功しようが、失敗しようが、こちらの送り込んだ敵機に仕掛けた
爆弾が自動的に爆発するようにしてある。
格納庫で爆発するから、他の攻撃機も巻き込んで損傷を与えるだろう。
これくらいの爆発では、最終兵器が働くことはない。
中枢から最も遠い位置にあるからだ。
でも、これが敵をかく乱させることになり、それに乗じてわれらは一斉攻撃を
しかけるのだ。
最終兵器が駄目になっていれば、われらの完全勝利だ。きゃつらを滅ぼしてやる。
万が一、最終兵器が生きていても、大きなダメージを与えることができる。
その時、ヒカルは生きた爆弾になってもらう。そこまで考えているのだ。
わしらが敵の母艦を占拠してしまう方法も用意してあるのだ」
「そこまで、深く考えていらっしゃるとは。わたしめの浅い考えからの発言、
どうか、お許しください」
ゾラは、すでに勝ち誇ったような不敵な笑いを浮かべた。
もっとも、ヒカルがこれを見ても、醜い顔がより一層歪んだようにしか見えなかった
だろうけれど。