ラスト・ファイター

高野一巳



6 たくらみ

「皇帝閣下、ヒカルが姿をくらませたようです」腹心のヒスが皇帝ゾラに告げた。
「そうか。」ゾラは気のない返事をした。

ゾラは人間同士をどちらかが死ぬまで戦わせて、どちらが勝つかを賭けるゲームを しているところだった。
「思った通りの行動だな。新鮮味がないな。居所をしっかりキャッチしておけよ」
「ぬかりはありません。尾行するものがないので、安心しておりましょう」
「これで、奴らのアジトがようやく突き止められるな。よし、勝った。こちらも予想どおりだ。 このゲームにも飽きてきたな」

1つのゲームが終わり、ひとくぎりついたのを確かめて、ヒスが言った。
「恐れながら、皇帝閣下」
「なんだ」
「我々の命運を左右する大事な作戦に人間を関与させることが、私にはどうも納得しかねる のですが。信用していいのですか。肝心かなめの部分を奴に全面的に任せていいのですか」
「ありえないことだろう」
「そのとおりで」
「だからこそ、奴を使うのだ。ありえないから意味がある。 わしらは完全にグリゴンの裏をかいてやらねばならない。思いもよらないところを突く 奇襲が必要なのだ。考えに考え抜いた方法だ。何度もシミュレーションをして、 98%の成功率を確かめている。 奴にはわしたちに出来ない侵入のしかたがある。 これにはグリゴンも予想できまい」
「しかしながら、皇帝閣下。それは、奴がこちらの指示どおりに動いた場合のことで ありましょう」
「奴は指示通りに動くさ。そうしなければ、奴も奴の仲間も確実に終わる。 その点はわしはうそを言ってはいない。奴もそのへんはよく理解しているはずだ。 奴は必ず、わずかでも可能性のある道を選ぶ。手をこまねいて死ぬのを待つような 奴じゃない。 もちろん、成功しても、抹殺しまうが、それはこちらの勝手だ。 指示に従う方が少しだけ長く生きられるということだ。 それに奴の体内に爆弾を仕掛けてある。 作戦開始と同時に時限装置のスイッチが入る。最終兵器を狂わせる 装置を作動させない限り、時限装置のスイッチがきれないようにしてある。 成功すれば、奴の役割は終わりだ。助かろうが、死のうがこちらの知ったことで ない。成功しなかったり、作戦を放棄したら、待っているのは確実な死だ。

もっとも、この作戦にはもう1つの意味がある。 最終兵器破壊に成功しようが、失敗しようが、こちらの送り込んだ敵機に仕掛けた 爆弾が自動的に爆発するようにしてある。 格納庫で爆発するから、他の攻撃機も巻き込んで損傷を与えるだろう。 これくらいの爆発では、最終兵器が働くことはない。 中枢から最も遠い位置にあるからだ。 でも、これが敵をかく乱させることになり、それに乗じてわれらは一斉攻撃を しかけるのだ。 最終兵器が駄目になっていれば、われらの完全勝利だ。きゃつらを滅ぼしてやる。 万が一、最終兵器が生きていても、大きなダメージを与えることができる。 その時、ヒカルは生きた爆弾になってもらう。そこまで考えているのだ。 わしらが敵の母艦を占拠してしまう方法も用意してあるのだ」
「そこまで、深く考えていらっしゃるとは。わたしめの浅い考えからの発言、 どうか、お許しください」

ゾラは、すでに勝ち誇ったような不敵な笑いを浮かべた。 もっとも、ヒカルがこれを見ても、醜い顔がより一層歪んだようにしか見えなかった だろうけれど。


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