高野一巳
3 皇帝
「お目覚めはいかがかな。」 腹の底に響くような、大きなザラついた不快な声で、皇帝ゾラが聞いてきた。 ゾラは食事の最中だった。明らかに人間の脚とわかるものにかぶりつき、 いやらしい音をたてながら、口にほうばっていた。 食べながら、しゃべったのである。 かたわらの皿には、丸焼けにされた人間の頭がころがり、手首が盛られていた。 肉のついたろっ骨や内臓が散らばり、汚く食べちらかしていた。 ヒカルは気分がわるくなり、戻しそうになるのを必死にこらえた。 ヒカルは無視したが、ゾラはいっこうにかまわず、うまそうに舌づつみをうちながら
人間の骨をしゃぶりながら、話を進めた。 ギャリオスの方がよっぽどけがらわしいとヒカルは思ったが黙っていた。
それよりも、ギャリオスにも恐れるものがあることに興味をひかれた。 似たようなものではないかとヒカルは思ったがこれも口には出さない。 要するに地球と人類を独り占めにしておきたいだけだろうとヒカルは思った。 作戦はこうだ。わしらは、きゃつらがあるエリアに侵入した時点で攻撃を加える。 これは前哨戦で、すぐ引き上げる。この時、帰っていく敵機にまぎれこむのだ。 そして、マザーシップに入り込んで、最終兵器をお前が不能にするのだ。 マザーシップの情報も苦労の末、かなり入手できた。最終兵器を不能にする方法もわかっている。ウイルスを仕込むのだ。 その直後、総攻撃を仕掛ける。その戦略や準備もできている。 駒はそろった。今をおいて、絶好のチャンスはまたとない。 作戦もすでに練りに練っている。後はお前の準備を待つばかりなのだ。 きゃつらの動向しだいで決行する。お前は3日以内に準備を終えろ。わかったな。 おかしな考えを持たないように言っておくが、お前の体内に爆弾をしかけておいた。 わしはいつでも好きな時にお前を殺せるのだ。お前はもう逃れられない。 わしの言うとおりにするしかないのだ。」 ヒカルは一言も発しないまま、話は終わった。 ゾラはヒカルの返事など必要なかったのだ。それは命令だった。 ワイングラスに入った血のようなものをうまそうに飲みながら、片手でまるで、 蝿でも追い払うようなしぐさをした。出ていけということなのだろう。 今度はポーターではなく、自分の足で、学習室と呼ばれる部屋に 向かわされた。 ヒカルは一歩一歩踏みしめながら、体中に体力がよみがえってくるのを確かめていた。 |