高野一巳
2 地獄の案内人
モトムは気がついた。 自分は死ねなかったのだろうか。 体のどこにも痛みがない。 誰かがそこにいる。 しかし、目がぼうっとしてよく見えない。 やがて、目の焦点が合ってきたのでよく見ようとした。 その瞬間、モトムはこの上ない恐怖を感じた。 なぜなら、そこに見たのは今も忘れることのできないいじめっ子の顔だったからである。 もちろん、中学生のままではない。しかし、どんなに年をとろうがわかる。忘れようにも忘れられない。 未だに夢に見てうななれることがあるのだ。 モトムは咄嗟に起き上がり、とにかく必死に走って逃げた。
しかし、すぐに周りの異様な光景に気付いた。
ここには色というものがない。たそがれ時のような感じがあるが、明らかに何か違う。
太陽そのものがここには存在しない。ここは地の底なのか。
空はどんより曇っている。しかし、あれは雲か靄や霧か。重苦しさが圧し掛かってくるようだ。
木が苦しみによじれた末に朽ち果てて化石になったようなものや恐ろしい形相の人の顔のようなさまざまな奇妙な形のものが乱立している。
見るからに汚らわしく、どこまでも冷たく、虚しいものがあった。狂気に近い恐怖が満ちていることをひしひしと感じる。
遠くにいくほど、灰色が濃くなり、真の闇がわだかまっているようだ。
モトムはさらなる戦慄を覚えて立ち止まった。 モトムが振り返ると、かなり走ったつもりだったのに、すぐ後ろにさっきのようにどっかと地面に座ったままで男がいた。
ここには、距離も時間もないのか。 |