四国〜風と水と、そして走るという事

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それはわざわざ隣に座ったことでも分かる。

瀬戸大橋(児島-坂出)

 5/3、眠れぬ夜を過ごして、予定よりも1時間も早く中国自動車道西宮名塩サービスエリアに居た。渋滞を避けるため? いや、眠れぬのも、とにかく早く走りたかったからに違いない。新しいマシンなのだから余計にそうだろう。私はRF400RVを脇に、ベンチに座って色とりどりのバイクがやってくるのを眺めていた。

 隣にバイク乗りのおじさんが座ったので、渋滞の話から入って雑談する。この旅最初の人との交流だった。そのおじさんも話がしたかったに違いなく、それはわざわざ隣に座ったことでも分かる。一人旅だと人恋しくなるのだろうか。私も暇だったし、そういうのは嫌いじゃないからしばらく話していた。

 しばらくして友人とNSR250R-SPが来て、まずは瀬戸大橋目指して発った。瀬戸大橋をトロトロと流す。橋の上から眺める、見下ろすような瀬戸内海が綺麗だ。単に眺めるのではなく、バイクの鼓動と風を感じながら、流れる景色を眺めるのは立ち止まって見るのとはまた違う良さがあると思う。それが何かは分からないけれど。

「ホントに国道?」と思う様な...

 瀬戸内海上にある与島にて休憩。瀬戸大橋の大きさに見入ったのはここでだった。その橋梁の大きさは、人間の力の大きさをも伝えてくるよう。そして対岸まで続く橋の長さは四国と本州をつなぐ人たちの気持ちを表しているのだろうか。

 昼食はかまあげなるものを食した。讃岐うどんのざるそばのようなもの、と書けばだいたいの雰囲気が伝わるだろうか。その後、高松市から南に下って、晩飯を買ってから大滝山憩いの森キャンプ場へ。テントを張ると、隣にテントを張ったセロー乗りのハタノ氏と共にバイクに乗って奥の湯温泉に行った。310円と安くて、露天がないのは残念だけれども構えたところがなくていい感じの温泉だった。

 朝、ハタノ氏と別れて、さらに南へ。そこから国道439号、通称与作で四国カルストを目指す。この与作という道、改装が進んでいるものの、「ホントに国道?」と思う様な、あまり整備されていない、でも集落と集落を結ぶ、趣のある道だ。私はそういう感覚で楽しかったが、サーキットで速く走るために作られたマシンを駆る友人はあまり楽しめなかったらしい。元々徹底的に軽量化されたマシンに荷物を満載しているものだから、マシンのバランスが崩れていつもの旋回性が出せないのが後ろから見ていてもよく分かる。もっとも本領発揮されたらこちらはついていくのが難しいから、これはこれでよかったりしたが。

 途中、道を間違えて高知市の方に走ってしまった。地図を見て県道18号でショートカット。もっともこの道が凄くて自動車が来てもすれ違えない様な狭さと30km/hまでしか出せないような直線の短さで、木々は迫り路上にコケが生えている様なところだった。途中、あっと思うとずるっと後輪が滑り、思わず地面を足で蹴って立て直した。確実に森か急斜面に突っ込む様な道で転けるわけにはいかない。冷や汗かきつつやりすごした。

ここが大阪でないことを感じさせてくれる...

四国カルスト 12kb

 夕闇迫る頃、四国カルストの上に着いた。高原に白い岩がごろごろしている様な所だ。その景色が夕焼けに染まっていく………元々威容を誇る景色だったが、今はさらに幻想的で、この世のものと思えないくらい、綺麗な景色だった。写真に収めたものの、とてもこんな風に撮れるとは思えなかった(結局今回の旅はほとんどの写真が失敗した)。だから、心に焼き付けるために見入っていたのだ。この日、この時間にしか見られないであろう景色。疲れも忘れ、道を間違えたことを感謝した。そして私達は四国カルストの上でキャンプした。満天の星空を眺めながら。

 朝、風の音で目を覚まし、四万十川目指して四国カルストを発った。四万十川の畔でキャンプ場を見つけ、午前中から陣取った。今日はゆっくりするということにしたのだ。正直、私はもっと走っていたかったが、友人は長時間乗り続けるのには向かないバイクだったから休息は必要だったのだろう。温泉に入り、昼食を食べ、そしてスーパーで晩飯を買って帰って、それからは四万十川で遊んだりしていた。

 晩飯はスパゲティとシチュー。スーパーでパスタとシチューの素を、農家のおばあさんがやっている露店(?)で都会で売っているように綺麗ではない野菜等を買っておいたのだ。キャンプ場と言っても意外にたき火できないところが多いのだが、ここはできたので、ガソリンコンロを使わずに料理した。火があるってのはそれだけで風情があっていい、と思う。そうそう、小夏という柑橘類も買ったのだが、あれは美味しかった。あれほど酸味と甘味がバランスよく効いている柑橘類はそうはないと思う。大阪では見かけないが、絶対売れると思うのだが。でもそれはそれで現地の物を食べるという楽しみが薄れるのかもしれない。たまたま入ったスーパーで買ったミカンでもここが大阪でないことを感じさせてくれるのが旅の良さなのだろうから。

「与作はもうやめよう」

 晩飯の後、朝食の後は私達のこだわりの時間だったりする。書かなかったがこれまでも、毎日夜には私が紅茶の葉を出して紅茶を煎れて、朝には友人がコーヒー豆を取り出して挽いてからコーヒーを煎れて、お隣さんにもお裾分けしていたのだ。特にこの日は四万十川の水で、だ。それだけで美味しい気がする。もちろん生水も飲んだし、掛け値なしにうまい。“四万十川に紅茶を飲みに”そんな旅ってのはもしかして最高の贅沢かも知れない、そんな風に思い、だからそれができるバイクに乗っていてよかったと思うのだ。

「与作はもうやめよう」と言うので与作を避けて、フェリーに乗るべく高知市に向かって走り出した。土佐湾に出て、3日ぶりの海を見る。今回は太平洋だから、水平線を見るのは今年初めてだ。海岸沿いで名物アイスクリンを買ってしばらく海を眺めていた。アイスクリンってのは、アイスクリームと氷菓子の中間くらいの感じだろうか。少しシャリシャリしていて、これがなかなか美味しい。どこか懐かしい感じのする、そんな味で美味しかった。

 高知港のフェリーポートに着いて大きな間違いに気が付いた。何を勘違いしたのか、予定のフェリーはここからは出ていないのだ。四国の東、徳島市辺りからだったので、昼食後、不本意ながら高速道路を使って急いで徳島市に向かった。

 徳島市に近づいた辺りで「ここまで来たら鳴門大橋行きましょう」というので、そうすることに。失敗から楽しみを見つける辺り、いい性格しているなぁというか。もっともそれくらいでなくちゃ、バイクで予定は未定の旅なんてしていないだろう。

ただひたすら走り続けるだけの様な旅でも...

 鳴門大橋は、瀬戸大橋ほど大きくはないのと、止まって見なかったのでそれほど感動はなかった。割とあっという間に過ぎてしまうのが残念。今はあまり利用者がなかったが、淡路島から本州につながれば利用者が増えるんだろう。しかし淡路島にとってそれがいいことなのだろうか。

 夕暮れの中、フェリーが船着き場から離れていく。私たちはそれを見ながら、旅の思い出や次の旅の話をしていた。旅が終わりに近づきつつあることを実感しながら。

 キャンプ地で会ったある人に「本当にバイクが好きなんですね」と言われた。同じバイク乗りにそう言われるほどとは自身では感じていなかったので、正直言って驚いたけれど、後で考えてひとつの答えを得た。私は“バイクが好き”というより“バイクで走ることが好き”なんだってことに。観光地巡りをするわけでもなく、そんなに景色の写真を撮るでもなく、ただひたすら走り続けるだけの様な旅でも満足なのは、そういう理由なんだ。もちろんそれ以外の楽しみもあるけれど、そのことがバイクに乗る一番の理由。それを確認できたことは今回の旅の大きな収穫だった。そしてそれを教えてくれた名も知らぬあの人に、感謝を。


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