ハァ〜家に帰って来たのはいいけど、あれから大石どうしたのかな?
あの女の子と用事済ませた後、ひょっとして家まで送ってたりして・・
大石ならありえるな・・あの子大石の事好きみたいだし・・
今頃告白タイムとか・・ハハハッ・・・なんか悲しくなってきた・・・
いつもなら賑やかな家なんだけど、今日に限って誰もいないし1人でいると余計な事ばかり考えてしまう。
このままじゃ駄目だ・・・俺はお気に入りの熊の大五郎を抱きしめた。
よしっ!ここは思いっきり叫んでみるか・・
「大石のムッツリスケベー!!」
ハァーすっきりしたと思った時に背後から思いがけない人物の声がした。
「誰がムッツリスケベだって?」
「うわっ!!!!」
ななななななんで大石がここにいるの!!!?
「どっどうやって入って来たのさ?ここは俺の家だぞ!?なんで大石がいるんだよ!」
そうだよ・・今日は俺以外の誰も居ないはずなのに・・
なんで大石が俺の部屋に居るの?
俺の言葉に大石は気まずそうに頭をかき、言葉を選びながら慎重に答えた。
「あ〜すまない・・呼び鈴鳴らしたんだけど、誰も出ないし・・念の為玄関のドアを確認したら開いてたから中をのぞいてみたんだ・・・
そうしたら英二の声が聞こえたから、そのまま上がってきた。あっでもちゃんとおじゃましますって言ったぞ!」
そういう問題なのか・・・?
大胆なのか真面目なのか・・・
ハハッと笑う目の前の人物に、俺の気持ちはまだ晴れるわけもなく、わざと突き放すように質問した。
「それで・・何しに来たの?」
大石が俺に会いに来てくれた事はわかっているけど・・・
「不二に聞いたら英二が帰ったって聞いたから来たんだよ・・その・・ごめん!!」
「なんで謝んだよ!!」
頭を下げる大石に思わず言ってしまった言葉・・・
あ〜駄目だ・・さっき不二に言われたばっかなのに・・・
大石が悪い訳じゃないのに・・・
急に大石が現れるから・・もう止められない・・・
困った顔をしている大石に向かってどんどんいろんな事を言ってしまう。
「さっきの子はどうしたんだよ!ずっと一緒だったんだろ!!!」
「今村さんとは学校でわかれたよ」
今村さん?・・って言うんだあの子・・
「へぇ〜ふ〜ん・・でなんで大石がその今村さんの手伝いをしてたわけ?」
ああっ俺ってすごく嫌な奴になってる・・・サイテーだ・・・
「さっき一緒だった今村さんは同じクラスの子で図書委員なんだ。それで担任の先生に 返却された本を図書室に運ぶように言われて、側にいた俺も頼まれて・・
図書室に運んだまでは良かったんだが、今度はそれを片付けなきゃいけなくて・・
英二が待ってるのわかってたけど、図書室に運んだ以上の本がまだ整理されてなくて・・その・・彼女一人置いて部活に行けなくて・・・本当にごめん!
俺一生懸命急いで片付けたんだけど部活に間に合わなかった・・終わってから急いで部室に行ったんだけど、不二に英二は帰ったって言われて・・」
やっぱり・・・いつもそうだ!
大石は頼まれたら嫌だとは言わない・・・
困ってる人をほっておけない・・・
頼まれた事を途中で放置できない・・・
それが大石・・・・
だけどそんなの嫌だ!俺だけの大石でいてほしい!
わがままな事だってわかってるけど・・・
やっぱりただのわがままだよな・・・
俺がうつむいて考えてると、心配そうに大石が声をかけてきた。
「英二・・英二・・どうしたんだ?」
「大石・・本当に悪いと思ってる?」
「ああっだからここまで来たんだ・・・」
真っ直ぐ俺を見つめる大石・・・眼が潤んでる・・・この雰囲気・・・
ひょっとして大石とうとう自分から好きって言ってくれるのかな・・・
どうしようドキドキしてきた・・・・
「全国に向けて一緒に練習していかなくてはいけない時に1人にして悪かった。1人じゃダブルスの練習は出来ないもんな!
明日は必ず一緒に部活に行こう!約束する!」
・・ってそっちかよ!!
なに爽やかに言ってんだよ!ちょっと期待しただろ!
俺のドキドキ返せっ!!
てあれっ・・ひょっとして・・・
こいつ俺の気持ち全然わかってないんじゃないか・・・・?!
なんか・・腹が立ってきた・・・
「ちょっと大石ここに座って!」
「あっああ・・」
大石は俺の椅子の前に正座して、俺は腕組みして椅子に座り、踏ん反りがえりながら話た。
「大石は俺の何?」
大石は急に聞かれて少し驚いた顔をした後、頭を傾けて考えてる。
「俺のって・・・う〜ん・・」
何考えてんだよ!悩む事か?
「あっ!ダブルスのパートナーだよな・・・」
悩んで出した答えがそれかよ・・ったく
「それもあるけど・・他にもう1つあるでしょ!」
「ああっ!えっと・・・恋人かな・・・?」
何おそるおそる言ってんだよ!他に何があるんだよ!
「そうだよね!俺達付き合ってるんだよね!」
「そっそうだな!付き合ってる!」
「じゃあなんで恋人をほっておいて、他の子に優しくするんだよ!」
「いや・・でもあれは・・・」
「ああっそう男の俺より、かわいい今村さんの方がいいって事だな!!」
俺がそう言い終ると、大石の顔は怒りに満ち溢れていて眼は俺を睨みつけている。
「なっ!何言ってんだよ!俺そんな事一言も言ってないだろ!いいかげんにしろよ英二!怒るぞ!!!」
んんんん〜〜〜!!!なんだよ大石の奴逆ギレか!?絶対負けないかんな!
「なんだよ!大声だしちゃってさ!図星だろ!大体大石は今村さんがお前に惚れてるのわかってて接してるの?」
思ってもいなかった事だったのか・・大石は顔を赤くして言葉に詰まっている。
本当になんて鈍いんだ・・・
「そっ・・・そんなの知らないよ!誰かにそう言われたのか?」
「いいや!俺の勘!!」
「なんだよそれ・・・・」
がっくりと頭を下げてうな垂れる大石は、先ほどの勢いはまったく無く、かなりへこんでいるようだった。
でも俺の勘は当たるんだ!特に大石の件に関しては・・
少しの沈黙の後つぶやくように大石が話始めた。
「なぁ英二・・・俺が悪かったよ・・・なるべく他の子に優しくしないようにするからさ もう許してくれよ・・・頼むよ・・」
むっ〜そんな懇願するような眼で見るなよな・・・
もう怒れないじゃんか・・・でも・・・
「本当に他の子に優しくしないんだな」
「あっああ・・約束する!」
「じゃ英二が一番大切で、一番好きだって言って」
大石があからさまに、動揺しているのがわかる。
「そっそんな事言わなくてもわかるだろ!」
「じゃあ許さない・・・」
俺って意地悪だ・・・
大石がなんで好きって言葉を言ってくれないのか、わからない。
何か考えてるのはわかる。
だからいつも誤魔化して、言わないのか・・・言えないのか・・・
今だって困ってるのわかってるけど、やっぱり言葉にしてちゃんと聞かないと不安なんだ・・・
好きぐらい言ってくれてもいいだろ・・・
大石は少しうつむいた後何か決心したように、俺を見つめた。
俺はその姿を固唾を呑んで見守る・・
「よし・・わかった! 俺は英二が一番大切で一番すっ・・すっ・・・すっ・・・」
あああっ〜〜もうっ!!!何回すって言ってるんだよ!!!
「もういいよ!わかったよ!許してやるよ!」
そんなに好きが言えないのか・・・俺、ホントにへこんじゃうよ・・・
「ごめん英二・・・俺・・・悪い・・・」
「だから本当にもういいよ・・・大石の事は俺が一番わかってるから・・・本当は今回の事も俺の只のやきもちの八つ当たりだし・・・」
「英二・・・」
そのまま暫く沈黙が続いた・・・・
あ〜やだな。この沈黙・・・
こんな事になるならもっと早く許してあげれば良かったかな・・
このまま愛想つかされるかもしれないな・・・
そう思ってた時に大石が沈黙をやぶって話始めた。
「英二・・俺本当に英二が大切なんだ・・今回の事は本当に済まなかったと思っている。 これからはなるべく他の子に手を貸さないように努力するからさ・・・
笑顔見せてくれよ じゃないと俺帰れないよ」
「おっ大石・・・・」
うれしい・・・好きって言葉じゃないけど・・・
黙ってる間にちゃんと俺の事考えてくれてたんだ!!
俺ってすごく単純だと思う・・けどもう好きが止まらない・・・
「大石!俺大石が大好きだよ!」
大石は目を丸くした後ハハッと笑った。
「ああっわかってるよ」
わかってるよの言葉がまたうれしくて、俺は大石が返事を返すと同時に飛びついた。
「わっあああ〜英二!」
飛びついた俺をしっかり抱きとめながら動揺する大石をよそに暫く抱きついていた。
そして少しでも大石と一緒にいたいと思った。
「ねぇねぇ大石!俺が家まで送って行ってやるよ!」
抱きつかれて固まっていた大石もいきなりの俺の提案にビックリした様子で慌てて否定した。
「いいよ!俺一人で帰れるから」
「ダ〜メ!俺が送りたいの!」
ニコニコ顔の俺を見て、『仕方ないな』と言いながら、ため息をつくとそこには笑顔の大石がいた。
「じゃあ途中まで一緒に帰るか・・」
「うん!!」
もうすでに暗くなった帰り道で、明日こそは一緒に部活にでようと再度約束をかわした俺達はその日ようやくお互いの家へと帰った。
取り合えず仲直り・・・取り合えず・・・あともう少しお付き合いを・・・(残り1ページ)