次の日、俺は大石との約束をはたすべくHRが終わると一目散に大石のクラスに向かった。
いつもより少しHRが長引いちゃったけど・・・
へへっ昨日あれだけ約束したんだから、今日は大丈夫だよな!
勢いよく大石のクラスのドアを開けて同時に叫ぶ。
「大石〜〜迎えに来たよ!!」
その声に一斉に注目を集めたけど、そこにはいるはずの大石はいなかった・・・。
あれっ?どういうこと?
落ち着いてクラスの中をもう一度確認したけど、やっぱりそこには大石の姿はなかった。
ひょっとして・・・もしや・・・・
心配になってドアの近くにいた、奴に大石の事を聞いてみる。
「ねぇねぇ大石知らない?」
「よぉ菊丸!大石か?ああ〜さっきまで居たけどな。おい!誰か大石何処に行ったか知らないか?」
その言葉に別の女子が反応した。
「ああっ知ってるよ!少し前に先生に頼まれて図書委員の今村さんとたくさん本抱えて、図書室に行ったよ・・・確か昨日も頼まれてたよね」
やっぱり・・昨日あれだけ約束したのに・・なに早速破ってるんだよ!!!クソォ〜〜!!
「ああっありがとね!じゃ俺行くから!」
そう言って大石のクラスを後にした。
俺は図書室に向かって速足で歩きながら、大石になんて声をかけようか考えていた。
さすがに昨日の今日だしな・・
大石だってわかってるはずなのに・・・
あいつどんな顔で俺に言い訳するつもりなんだろ・・・
ホント嫌になっちゃうよ・・・
だけど今日はすぐに許してやるか・・
昨日と同じ事繰り返すのだけは嫌だかんな・・・
色んな事を考えながら歩いたからか意外と図書室に早く着いた。
俺が中にいるであろう大石を呼ぼうと、開いていたドアの側へ近づくと中から大石と今村さんの声が聞こえて俺はおもわず足を止めた。
「だからあの・・私大石君の事が前から好きだったの!!」
「あっあの・・・その・・・・」
なななななっ何?
告白されてんの大石?!
うそだろ・・・俺の勘が当たったわけ?
俺はそっと入口から2人の様子を覗いて見た。
大石と今村さんは窓際で迎え合わせで立って話しているようだった。
「ごめんなさい・・・テニス部が今関東大会に向けて大変な時期だってわかってたんだけど、 どうしても伝えたくて・・・やっぱり迷惑だよね・・・」
今村さんは今にも泣き出しそうな顔をいている。
「あっいや・・そんな迷惑だなんて思ってないよ・・うっうれしいよ」
何言ってんだよ大石!お前自分が言ってる事わかってんの?!!
「本当に・・?よかった・・・迷惑だって言われたらどうしようかと思ってて・・・ 私・・・」
そう言いかけた今村さんはそのまま大石の胸に飛び込んだ・・・・
うそだろ・・・今村さんって意外と大胆なんだな・・って関心してる場合じゃないよ〜
大石はどうするんだろ・・・?
あいつ真っ赤な顔して固まっちゃってるよ・・・・・・
最悪だ・・・
なんで俺こんなの見てるんだろ・・・
大石・・早く否定してくれよ・・・
「あっあの・・今村さん・・俺・・ごめん!君の気持ちには答えられない・・・・ 好きな人がいるんだ」
えっ!?と一瞬固まったように見えた今村さんが思わぬ事を口にした。
「ひょっとして・・・菊丸くん?」
そうだよ俺だよ!!って大石何黙ってるんだよ!
そうだって言ってくれよ・・・・
「いや・・・その・・・英二は・・・」
大石は頭をかきながら、何か言いにくそうにしていた。
「あっごめんなさい・・・私変な事言っちゃって・・菊丸くんは男の子だもんね そんなわけないよね・・・いつも一緒だからつい・・本当にごめんなさい・・」
そうだよ俺は男だよ!だからってなんなんだよ!!男だったらいけないのか?
もう俺堪えれないよ!もういいよ!!!!
そう思って黙ったまま図書室を後にしようとした時に不意に後ろから声をかけられた。
「英二何見てんの?」
俺は不意を衝かれて、思わず驚いて大きな声をだしてしまった。
「うわああっ!!!」
ふっ不二?なんで・・・
「なんでいるの?」
「それはこっちのセリフだよ。僕より先に教室を出たのに、まだ部活に来てないっていうんで手塚に探すように頼まれたんだよ」
「そっそうなの・・・」
不二わざわざ探してくれたんだ・・・
昨日も迷惑をかけたのに・・・
「で・・あそこで英二を見て固まってる人がいるんだけど・・・どうすんの?」
えっ?
不二に言われて大石を見ると、大石が俺を見て呆然と立っていた。
「えっ英二・・・お前・・いつからそこにいたんだ?」
さっきまで大石の胸にくっついてた今村さんも今は大石の隣で同じように呆然と立っている。
「やっやあ〜大石・・いっいっ今だよ!」
こっ声が震える・・・こんなんじゃ嘘ってバレバレだよな・・・・
「英二・・お前・・」
大石の顔が青くなるのがわかった。
俺はもういたたまれなくなって、その場から逃げる準備をしていた。
「おっ大石もっモテモテだな!ハハハッ・・邪魔者は消えるからさ!ごゆっくり!」
そう言って大石に背中を向けて走りだした。
「えっ英二ちょっと待てよ!!!」
後ろから俺を呼び止める大石の声が聞こえたけど、無視してそのまま走り続けた。
とにかく外へ、それだけ考えて走り続けた。
大石のバカヤロー!もうあんな奴知るもんか!あんな奴・・・・
何処をどう走ったかは分からないけど、なんとか校舎を出ることが出来てホッとした時に不二に捕まった。
「英二走るの速いよ・・・」
ハァハァと息をきらしながらも、俺の腕を掴んでいる。
「不二・・俺・・・」
俺は泣き出しそうな自分を抑えるので必死だった。
「いいよ・・英二何も言わなくて・・あの状況を見たら大体の想像はつくよ・・・それより大丈夫?」
こういう時に不二が居てくれて本当に良かったと思う。
説明しなくても理解してくれる親友・・・
不二だからこそ俺も本音が言えるんだと思う。
「駄目・・全然大丈夫じゃない・・・」
「そう・・じゃあ今日は急用が出来たから帰ったって、手塚に伝えておくよ・・・」
「うん・・ごめん・・そうして貰えると助かる・・」
不二はニコッと微笑んでさらに一言付け加えた。
「大石にも何か伝えたい事があれば、伝えておくけど」
不二って・・・本当に敵わないなぁ・・・
俺は暫く考えて不二に伝言を頼んだ。
「大石に・・もう俺の事考えなくていいって伝えて・・それで明日からは只のダブルスのパートナーとしてお互いがんばろうって・・・」
不二は一瞬眼を見開いた後、ため息をついた。
「ハァ・・只のダブルスパートナーね・・・英二本当にそれでいいの?」
只を強調したその言葉に少し動揺したけど、心の中では小さな決意が芽生え始めていた。
大石の負担になるぐらいなら別れた方がいいんだ・・・
「うん。お願いするよ」
「そう・・・わかった」
そう言って不二は俺の肩を叩き、じゃあと手を上げて校舎の中へ入っていった。
そして俺もその後ろ姿を見送った後、学校を後にした。
学校を出てからは真っ直ぐ家に帰る気にもなれず、プラプラと街中を目的も無く歩いて 気が付けば、いつも反省会をする高台のコンテナに来ていた。
「どうしてここに来ちゃったんだろ・・・まっいっか・・・」
そう呟いて、コンテナの上に登るとそのまま寝っ転がって空を見上げた。
今頃みんな練習してるんだろうな・・・
明日の部活はグラウンド20周は覚悟しておかないと駄目だろうな・・・
大石・・今頃あの子とどうしてるかな・・・・・。
駄目だ!駄目だ!大石の事は考えないようにしなきゃ・・・
不二に伝言頼んだんだから・・
明日は笑顔で只のダブルスのパートナーとして接するようにしなきゃいけないんだから・・
そう思うと何だか切なくて今まで抑えていた感情が噴出してきて涙が出てきた。
ここならいいよな・・・
今日だけ・・明日からは絶対に泣かないから・・・
「うっっ・・・大石バカヤロ〜〜〜!!」
俺が大石の名前を叫んだ時に誰かがコンテナを登る音がした。
ドンッ!!
「よっと・・・・やっぱりここにいた!」
登ってきたのは大石だった。
「ふぇっ・・・大石?」
「ああっ英二探したぞ!呼び止めたのに走って行っちゃうからさ・・・それより・・ 英二・・泣いてたのか・・・?」
心配そうに俺の顔を覗き込んだので、慌てて手の甲で涙を拭いて否定した。
「なっ泣いてなんかいるもんか!それよりどうしてここに大石が来るんだよ!不二に会わなかったのか?」
そうだよ・・不二の伝言を聞いてたら来るはずないんだ・・
だってあれは俺からの精一杯の別れの言葉なんだぞ・・・
大石は少し俯いて消え入るような声で答えた。
「会ったよ・・・・」
「えっ?」
じゃあなんで・・・
俺が不思議そうな顔をしたのを見て大石は少し怒ったように言った。
「だから会ったし、英二からの伝言というのも聞いたよ!」
「だったらなんで来んさ!おかしいじゃんか!それとも言葉の意味が解らなかったっていうのかよ!?」
そんなはずはないよな・・
大石がどんなに鈍いっていっても只のパートナーの意味ぐらい理解してるはずだ。
それに俺が伝言頼んだの不二だし・・・
「おかしい事なんてないよ・・意味だって解ったさ・・だけど俺はそんなの認めないよ!」
そう言って大石は俺を睨んだ。
なんだよそれ・・・
「なんだよ!認めないって!どうゆう事だよ!せっかく別れてやるって言ってんのに・・ もっと喜べよ!!!」
大石は真っ直ぐ俺の目を見て目線を外そうとはしない・・
「英二本気で言ってるのか?」
なんだよ・・そんな眼で見るなよ・・俺が悪いのか・・?
「だって大石・・今村さんに俺の事聞かれて何も言わなかっただろ!!俺ちゃんとわかってるんだからな!!
大石最初からずっと気にしてたじゃないか!俺達が男同士だって事!!本当はずっと後悔してたんだろ!!!」
そうなんだ・・ずっとわかってたけど・・俺はそれを認めるのがイヤだったんだ・・
「そうだな・・英二の言う通りだよ・・俺達は男同士だし・・ずっとその事を気にしてたのも本当だ・・」
やっぱり・・・
俺は耳を塞ぎながら叫んだ。
「もういいよ!聞きたくないよ!!あっち行けよ!!」
「英二!!!」
大石が叫ぶように俺の名前を呼んで、耳を塞いでいた手を取ってさらに話を続けた。
「いいから!ちゃんと聞けって!だけど後悔なんてしたことはないよ。昨日も言ったけど 俺は本当に英二が大切なんだ・・
さっき今村さんに英二の事聞かれた時は確かに動揺して、なんて英二の事説明していいのか言葉に詰まったけど・・あの後ちゃんと説明したから」
えっ?説明・・?俺は一瞬にして固まった・・・それって・・
「だから・・その・・俺が好きなのは菊丸英二で・・付き合ってるって言ったよ」
大石は真っ赤な顔をして俺を見ていた。
うそ・・・そんな・・・大石が・・・
「そっそんな事言ったら・・大石変な奴に思われるじゃん・・いいの?」
「いいも悪いも・・もう言っちゃったしな」
大石はハハッと笑いながら頭をかいた。
それはそうだけど・・・
「そっそれに明日になったら、俺達の事がみんなにバレてすごい噂になってるかも知れないんだぞ!!」
「ハハッそりゃ大変だな・・・」
本当に大変だと思っているのか?なんでそんな笑顔なんだよ・・・
俺・・・大石がわからないよ・・・
俺はそのまま黙ってしまった。
「英二・・ひょっとして・・嫌だったか?」
俺の手を握る大石の手が少し震えたような気がした。
「嫌じゃないよ・・・嫌なわけないだろ・・・だけど大石が・・・」
「俺も嫌じゃないよ!英二・・俺が今まで気にしていたのは、他の誰かに俺達の事がバレると困るとかそんな事じゃないんだ・・・」
大石の真剣な声に俺は黙って耳を傾けた。
「英二の事が本当に好きで、でもそれを言葉に出してしまったら歯止めが効かなくなってしまう自分が怖かったんだ・・・
その事でいつか英二を傷つけてしまうかも知れない・・・ そう思うとブレーキがかかってしまって自分から好きだって言えなかった・・」
大石はそういい終わると少し不安そうな顔で俺を見たけど、俺はすごくうれしかった。
大石が俺の事をこんなにも大切に思っていてくれてたなんて・・・・
「英二?・・英二?今の聞いて俺の事嫌いになった?」
黙ったままの俺に心配そうに話しかけてくる。
そんなわけないじゃないか・・・・
「バカだな大石は!俺は最初から覚悟出来てるちゅーの!大石になら何されても嫌じゃないよ!
そんな事言わなくてもわかってると思ってた・・俺・・何度も大石が好きだって言っただろ!」
「そうだったな・・・」
そう呟いた大石の眼差しは真っ直ぐ俺に注がれ、握られた手に力が入るのがわかった。
「英二・・俺はお前が好きだ・・ずっと側にいてほしい・・だから只のパートナーとか 言わないでくれ・・」
言い終ると同時に握った手を前に引いて、もう片方の手で俺の頭を引き寄せて、俺の唇に自分の唇を重ねた。
優しくて、長いキス・・・・
うわぁぁぁ〜〜〜〜〜大石・・・
俺もう死んでもいいかも・・・・
ずっとこうやって大石から好きだって言って欲しかった・・・
キスして欲しかった・・・
大好きだよ大石・・・
そっと唇を離すと大石はそのまま俺を抱きしめて耳元で囁いた。
「もう知らないぞ・・・俺とまんないから・・・・」
「へへっ望むところだ!!」
勢いよく答えた俺に大石が苦笑する。
「ハハッこりゃ大変だな・・・」
「明日になってあれは無かった事にしてくれって言っても、もうダメだかんな」
「言わないよ」
俺達は暫く抱き合った後、コンテナの上に一緒に寝っ転がて空を見上げた。
「ねぇ大石・・・俺が告白したのもここだったよね」
そうだいつもこのコンテナなから始まるんだ・・・
あの時は俺が好きだって言って、キスして一生懸命だったよな・・・・
でも今日は違う・・・大石が俺の事好きだって言ってくれた・・・
「そうだったな英二・・・今度は俺がお願いするよ・・・俺と付き合ってくれるか?」
体をゴロっと俺の方に向けて大石が聞いてきたので、俺も大石の方に体を向けて答えた。
「もちろん!よろしく!」
そしてチユッと今度は俺から大石にキスをした。
「へへへっ・・」
「ハハハッ・・」
俺達はおでこをつけて見つめ合いながら笑った。
今日からが俺達の本当のスタートかもしれない・・・
これからもいろんな事があるだろうけど、一つ一つ大石となら越えていけるよな。
大石・・俺絶対に大石から離れないからな・・・
「あっそうだ英二!」
急に大石が思い出したように叫んだ。
「なっなんだよ!どうかしたの?」
ちぇ〜せっかくいい雰囲気だったのに、どうしたってんだよ?
「ああっその・・不二の事なんだけど・・これから不二に伝言頼むのだけはやめてくれないか・・・怖い」
不二?あいついったい大石になんて言ったんだろ・・・怖いって・・・
「ああっうん・・わかった・・・」
「本当か?絶対に何かあれば俺に直接言えよ・・絶対だぞ」
大石はフ〜と息をついて額の汗を拭いている。
そんなに恐ろしい事があったのか・・・?
今度なんて言ったか不二に聞いてみよっと・・・
「それよりさぁ〜大石今日も部活休んじゃって大丈夫なの?」
そういえば大石は昨日も部活休んでたし、今日はなんて言ってここまで来たのかな?
不二は俺達の事知ってるけど、手塚は・・・・・・。
「それは・・不味いな・・俺は昨日も休んでるし・・明日はグラウンド50周ぐらい覚悟しておかないとな・・だけど今は英二とこうしてる方が大事だから・・
練習は明日からまた頑張るよ。英二・・・一緒に全国のナンバーワンダブルスになろうな。
そして最後はみんなで優勝だ!だから明日こそは一緒に部活に出ような」
そう言いながら大石は体を起こして俺に手を差し伸べた。俺もその手を取って体を起こした。
そうだな怒られる時は一緒に怒られよう・・大石と一緒ならなんだっていいんだ!
俺のパートナーは大石だけだから・・・
「うん!絶対だぞ大石!明日こそは何が何でも一緒に部活に行こう!俺大石とだったら何十周でも走れるよ!
そして必ず大石と2人で全国ナンバーワンダブルスだ!」
俺達は見つめ合いながら、ガッチリ握手を交わした。
「ハハッこれは頼もしいな・・・ではよろしく相棒!」
「へへっ任せてよ!こちらこそよろしく!相棒!」
テニスのパートナーとしても私生活のパートナーとしてもこれからもよろしくな大石・・・
お疲れ様!ここまで読んでくれた方どうもありがとう。この話でようやく大石から好きという言葉を貰えた英二ですが、
ここにいたるまでの話はまたのちのち出てきますので、良ければそっちもよろしく。