乙女会議 3



3年6組の気まぐれで開かれた会議

別名 乙女会議


今回の議題は『彼氏への不満』


菊丸から始まった不満はルーキーの悩みが解決した所で、3人目へとバトンが渡されようとしていた。

ただ・・今回は今までの2人のように、お菓子に手をつけて気軽に聞く者はおらず、静かにその人物が話し出すのを待っている。




「ん〜〜〜そうだね・・・」




それもそうだろう。

今回バトンを託されたのは、青学の影の支配者

不二周助

彼の爽やかな人柄やテニスの腕が全国レベルだという事は、青学に通う者なら誰でも知っている人物像だが・・・

それだけではないテニス部員だけが知っている人物像があった。


彼の腹黒さ


それもまた全国レベルなんだと・・・

全国で1.2を争う腹黒さなんだと・・・


そんな不二が選んだ恋人が言わずと知れた、青学の生徒会長であり

自分達をまとめるこの青学テニス部の部長手塚国光なのだ。

物静かで威厳がある彼は、青学の憧れの的であり尊敬に値する存在だが・・・

それゆえに近寄り難い人物でもあった。

そんな彼が不二と、どんな風に付き合っているのか・・・

普段どんな会話をしているのか・・・笑う事はあるのか・・・

2人は何処までいってるのか・・・

不二の親友菊丸でさえ、その大部分を把握してはいなかった。

謎の多い2人の関係


3人は食い入る様に、不二を見つめた。




議題:彼氏への不満

ケース3.手塚




「僕の不満は・・・」



不二の声が静かな部室に響いた。

菊丸は固唾を呑んで見守った。



いよいよ・・不二と手塚の話が聞ける。

今まで聞きたくても聞けなかった事・・はぐらかされた事・・・

それがわかるんだ。

うわぁ〜なんか緊張してきた。

おチビの流れから行くと・・やっぱ手塚が堅物で、とかとか・・そんな話になんのかな?



じっと上目遣いに不二を見る菊丸の前で、やはり後輩の2人も固唾を飲んだ。



やっぱ部長って・・・不二先輩にたらし込まれたくちかな?

不二先輩と部長・・・聞きたいような・・・聞きたくないような・・・



「やっぱり・・アレかな・・・」



3人の視線が不二の口元に集中する。



「手塚のお笑い好き・・かな」

「「「はっ???」」」

「ほらっ手塚ってお笑いが好きじゃない。一緒にいるとお笑いの話ばかりするんだよね」

「「「・・・・」」」



って・・・お笑いって何だよ!



菊丸は心の中でツッコンだ。



あの流れなら・・・普通下ネタじゃないッスか!



越前もツッコンだ。



へ〜〜部長ってお笑い好きなんっスね。



海堂だけが、そのまま受け止めていた。


不二は3人の様子を伺いながら話を続ける。



「今年の年末こそはね・・・」



そこで我に返ったルーキーが、新たな疑問に口を挟んだ。



「ちょっと待った!不二先輩。部長ってホントにお笑い好きなんっスか!?」

「そうだよ」

「あの顔で?」

「あの顔は失礼だな・・あんな顔でもお笑いは好きなんだよ」



不二が嬉しそうに笑う。

そこに菊丸も加わった。

「あっ・・そういえば、こないだ大石もそんな事言ってたな・・・

 手塚に『昨日のレッドカーペット面白かったな』って言われたんだけど・・・

 そんなにレッドカーペットって番組面白いのか?って・・・

 俺、『面白いよ』ってって答えながら、手塚がレッドカーペットなんて観んのかな?

 なんて思ってたけど・・・やっぱ観てんだ」

「あぁ。毎週ね」

「へ〜〜意外・・・何かイメージ狂っちゃうな・・」

「ホントッスよね!手塚部長って、常にNHK観てるって感じっスよね!」

「相撲とか?ニュースとか?」

「そうそう!そんな感じっスよ!」



菊丸と越前が手塚のイメージで盛り上がる。

不二はハバネロに手を出した。



「駄目だよ。固定観念に囚われてちゃ。それ以上・・伸びないよ」

「「うっ・・」」



2人は同時に口を閉じた。

・・・伸びない

それが何を示して伸びないのかわからないが、不二のやけに優しい声が二人の恐怖を煽った。



「まぁ・・うん。手塚がお笑い好きっていうのも有りだよなっ!おチビっ!」

「そっそうっスよね。部長が笑点好きでも何の違和感もないっス」

「あっバカ!笑点なんて一言も言ってないじゃんかっ!」

「あっ・・」



菊丸が前のめりに言うと、越前は口を押さえた。

不二はパクパクとハバネロを口に入れると、溜息混じりに答えた。



「いいよ。実際笑点は観てるから。

 それと付け加えるなら、手塚はお笑いとつくものは、全て観てるよ。

 リアルタイムに観れる番組はリアルタイムに観るし・・

 観れない番組は録画してでもちゃんと観てる」

「マジで?」

「凄いっスね?そんなに観る時間あるんっスか?」

「だから不満なんじゃない」

「「・・・あ〜〜」」



なるほどと2人の同意する声が響く。

真面目な手塚の事だ。

お笑いといえども、手を抜かないのだろう。

そんな事は容易に想像が出来た。



「そっか・・そりゃ不満だよな」

「だから不満だって、最初から言ってるじゃない」


不二のハバネロを食べる速さが加速する。


そうでした。

菊丸は心の中で思った。

これ以上不二の機嫌を損なうと、明日からの3年6組の生活に支障をきたす。

何かフォローしなければ・・・

そんな時またもや話しについて行けてなかった海堂がようやく口を開いた。



「で、あの・・不二先輩最初に何か言いかけてったっスよね?」



海堂は手塚がお笑い好きというのを聞いて、ずっと考えていた。

乾先輩はこの事・・知っているのだろうか?

最近もったいぶるように『実はあの全国大会で手塚が笑うところをカメラに収めたんだよ』

そう言って、ビデオを観させられた。

だが肝心の乾の言う手塚の笑いは、海堂にはわからなかった。

何度『ココだよ』と言われても、笑っているようには見えない。

そんな手塚がお笑いを好きだなんて・・・やっぱりそんな時は笑うのだろうか?

この情報は乾先輩に教えた方がいいのだろうか?

いや・・あの人の事だ。もうそんな事は知っているに違いない・・・・

ん?・・そういえば・・・不二先輩何か言いかけていたな・・・?

何を言おうとしたのだろう?

それは新しい情報なのだろうか・・・?


ここで意識が戻って来たのである。

なので海堂は菊丸と越前のやり取りを全く聞いていなかった。

だがその絶妙な話題転換は、不二のハバネロを食べる手を止めさせた。




「あぁ。そうそう。年末の話ね」



不二は紅茶を一口飲んで、一息つくと机に肘をついた。



「手塚ったら今年こそは、ガキ使観ながら年を越したいっていうんだよね」

「ガ・・ガキ使ぁ!?」



菊丸は叫んだ。

やはり手塚のイメージはNHK・・・紅白&ゆく年くる年なのである。


それがガキ使・・・ホントにイメージ狂うなぁ手塚の奴・・

なんて心の呟きは声に出さずにいると、越前がポテチに手を伸ばした。



「部長は紅白っていうの観ないんっスか?

親父が大晦日は、紅白にゆく年くる年が日本の伝統だって言ってたっスよ」



怖いもの知らず・・・

やはりスーパールーキーは、大物だった。

菊丸が口に出さなかった事を、サラッと口にしたのである。

不二は気だるそうに、髪をかきあげた。



「そうだね。いつもはそうなんだよ。

 おじいさんの意向で、紅白にゆく年くる年を観ていて、

 ガキ使は録画してるみたいなんだけど・・・

 よりによって今年こそは観たいって言うんだよ。酷いと思わない?」

「酷い・・っスか?」



ここでまた海堂が参加した。

今の今までは、『へぇ・・部長・・ガキ使観てんだ・・』と心の中で反復していた海堂だったが

それが酷いに繋がるなんて意味がわからない。

海堂は窺うように、不二を見た。

菊丸も越前も同じ様に不二を見る。

不二は顔を上げて、笑顔で答えた。



「僕がいるのにガキ使を観るだなんて酷いでしょ?ムカつかない?」

「「「あ〜〜・・・・」」」



3人はハモるように声を揃えた。

手塚のお笑い好きが不満

それは不二という恋人がいながらも、お笑いを優先させようとした事への不満なのである。

ようやく3人は理解した。

不二は更に笑顔を作って続けた。




「だからさ・・言ってやったんだよね。

 みつこは僕よりガキ使なんだ?ってね。」

「みつこ?みつこって誰っスか?」

越前が首を傾げる。

菊丸はケラケラ笑いながら答えた。



「馬鹿だなぁ〜おチビっ!手塚に決まってんじゃん!他に誰がいんだよ!」

「いや・・それは何となくわかったんスけど・・でもみつこって・・女の名前だし・・

 あっそうか・・国光だから・・光子・・・」



越前はブッとふきだすと、肩を揺らして笑った。

菊丸も更にゲラゲラと腹を抱えて笑っている。

その姿を横目に、海堂は心配そうに不二に聞いた。



「それ言われて部長なんて言うんスか?」



あくまで海堂は、常識人である。

手塚が光子と言われて、笑える筈もなかった。



「ん〜・・そうだね。暫く黙ってるかな?

 でもね。『みつこ!』って何度も呼んで・・・最後に僕に謝る気ないの?って聞いたら

困った顔して『どうも・・・すいませんでした』って言ったかな」



不二が極上の笑みで微笑む。

菊丸と越前はピタリと笑うのを止めた。


それって・・・ネタ?

あのお笑いのネタだよね?


目で菊丸が越前に話しかける。

越前も目で答えた。


そうっスよね?あの太った人の・・・

アレを部長に強要したって事っスか?

それってやっぱお笑いを選ぼうとした、報復っスよね?



・・・・怖い・・・怖すぎる・・・



2人は身を小さくして、不二を見つめた。

そんななか、ただ海堂だけが・・・



「部長・・謝ったんスか・・・そうっスか・・」



と感慨深げに下を向いていた。

どうやら海堂は、不二の話の本当の意味を理解できなかったようだ。

不二はここで目を明けた。



「まぁそういう訳だぁからさ・・・今年は手塚と一緒に越前の家に行くから」

「はっ?」



越前は突然の事に、一瞬時間が止まった。



「どういう事っスか?何で俺んちに2人が来るんっスか?」



意味がわかんない!

憤りを感じながら、越前が前のめりに反論する。



「越前の家はお寺でしょ?手伝ってあげるよ。除夜の鐘つくの。

もちろん英二と大石も一緒にね」

「えっ?俺達も!?」



菊丸も弾ける様に、前のめりになった。



「別にいいじゃない。どうせ暇でしょ?」



不二が冷たく笑う。



「・・・・・・」



菊丸は何も言い返せなかった。

というよりも、不二の笑顔にもう何を言っても無駄だと悟った。

そこら辺りは、流石親友同士なのである。


あぁ・・不二の奴・・・NHK発言・・結構根に持ってんな・・・


不二の顔色を見ながらそんな事を思っていた。

だが、スーパールーキーは、まだ納得行ってなかった。

何故なら密かに桃城と格闘技を観る話になっていたのだ。

ここは何とか食い止めねば・・・そんな心境になっていた。



「そんなの親父に聞いてみないと・・・」



だから切り札をだした。

家の人の了承

これを言えば、大体の人は『そうだね』となる筈・・・

しかし相手は、不二だった。



「あのお父さんなら、逆に喜ぶんじゃない?反対なんてされないよ」



・・・全くもってその通り。

越前は心の中で舌打ちした。


クソッ親父の奴・・普段からあんなだから、こんな時にも使えないんじゃん。


俯いていると、不二が更に追い討ちをかける。



「何なら桃にも僕から伝えようか?」



顔をあげると、優しく微笑む不二と目が合った。

越前は白旗をあげた。

不二は、何もかもお見通しなのである。



「わかりました。親父にも桃先輩にも俺からちゃんと伝えとくっス」



不貞腐れるように言うと、不二は満足そうにうんうんと頷いた。

そして今度は、ずっと何やら考え込んでいた海堂に目を向けた。



「海堂も乾と一緒に大晦日、除夜の鐘をつきに越前の家に来るよね。

 お手伝い一緒に頑張ろう」



不二の声に海堂は顔を上げると、真面目な顔で頷いた。



「わかりました。そういう事なら必ず行きます」



海堂薫(14)・・・どこまでも素直な男であった。



「じゃあ決まりね」



不二は手をパンと一回叩くと、ニコリと微笑んだ。




                





40000HIT!ありがとうございます


毎回同じ事を言っていますが・・・

これもひとえにいつも足を運んで下さるみなさんのおかげです。

これからもスローペースですが、ボチボチと頑張りますのでまた遊びに来て下さい

宜しくお願い致します。

2010.1.30