乙女会議 4






3年6組の気まぐれで開かれた会議


別名 乙女会議


今回の議題は『彼氏への不満』


菊丸から始まった不満は、とうとう最後の人物へとバトンが渡されようとしていた。



「あの・・・・その・・・・」



だがしかし・・・その最後の人物は額に汗をかき、眼を泳がせ・・・

困惑の色を顔に浮かべて言葉に詰まっていた。




どうすればいいんだ?

不二先輩の話が終わり、『じゃあ次は海堂ね』そう言われて、3人の視線が一気に俺に向いた。

だけど・・・次と言われて、はいじゃあ・・・と、話せるような事は、特にない。

不満を言えと言われても・・・本当に困るんだ。

乾先輩への不満を思い出せば・・・腐るほどあるような気もするが

結局あの人が俺にする事は、最終的には俺にプラスになるような事ばかりで・・・



「ねぇ海堂?まさか恥ずかしいの?」



あまりにも話しださない海堂に菊丸が痺れをきらした。



「照れてるのかな?」



更に不二が付け加える。

海堂はその言葉につい叫んでしまった。



「そっそんな!俺は別に恥ずかくて言えない訳じゃ!」



しかし言いかけて気付いた。

菊丸と不二の目が笑っている事を・・・

海堂が肩を落とすと、横に座っていた越前が呟いた。



「海堂先輩。まだまだだね」






議題:彼氏への不満

ケース4.乾




無邪気に騒ぐ菊丸に、ニコニコ微笑む不二に、不敵な笑いを浮かべる越前

三人三様・・・一筋縄ではいかない人物ばかり

海堂は思った。

蛇に睨まれた蛙というのは、今のような状況をいうのだろう。

いや・・・三竦みで考えれば・・・なめくじに睨まれた蛇なのか?

マムシと言われて怒るわりには律儀にそんな事を思いつつ・・・

最後は同じ答えに辿り着く。


結局話さなければ・・・何も始まらない。

この場から抜け出せないのだ。



仕方ねぇ・・・覚悟を決めるか・・・


海堂は、腹をくくった。



「あの・・・じゃあ・・・」



乾への不満

みんなが『あぁ』と、納得するような話。

そんな話はコレしかねぇ。



「乾先輩の不満といえば・・・い・・」

「乾汁は無しだよ」

「えっ!?」



海堂は不二を見つめた。


乾汁は・・・無し・・?

これしかないと思って、話し出そうとしたのに?


不二はサラサラヘアーを指に絡めて海堂に微笑む。



「乾汁は海堂の悩みというより、青学テニス部全体の不満だからね」



その言葉に菊丸と越前が賛同した。



「そうだよねー!あの汁に何度殺されかけたか!」

「そうっスよね。あれは人が飲むもんじゃないっス!」

「いや・・・それは・・」



そうだけどよ・・・



「いわし水の時なんて、六角のメンバーも花畑が見えたって言ってたぞ」

「コーラの時も見えたっスよ!」



確かに俺も花畑を見た事があるが・・・



「ホントいい迷惑だよなー!」

「人類の敵っスよね」



あーだ。こーだ。と海堂に不満をぶつける2人。

海堂は徐々に苛立ちを覚えていた。



だけどよ・・・

・・・ちょっと待てよ。

確かに・・・あの人の作るものは尋常な物じゃねぇ。

それは俺もよ〜〜く知っている。

身をもって体験した。

だから俺も今、その話をしようと思ったんだ。

だが・・・そこまで言うのはどうなんだ?

あの人はあの人なりに俺達の事を考えてやってる筈なんだ。

・・・たぶん

それをそこまで言うなんて・・



海堂はグッと握りこぶしを作った。



「2人とも・・・」



ちょっと言い過ぎじゃねぇか?

そう言おうとした時、見計らったように、不二が2人を止めた。



「まぁまぁ2人とも落ち着いて、兎に角乾汁はみんなが不満に思ってるって事でいいじゃない」

「でもさぁ〜」

「じゃないと英二。海堂の個人的な不満聞けないよ」

「あっ!」

「それもそうっスね。じゃあこの不満はみんなの不満って事で、海堂先輩どうぞ」

「は?」



どうぞ・・・って急に言われても・・・・

今俺はあの人の不満を口にす、お前と英二先輩を止めようとしたのに・・・


海堂は振り上げようとした拳を、不完全燃焼のまま下げた。


まぁ・・・話が終わったのなら、言う事もないが・・・


また3人の視線が海堂に集まる。


って・・・これじゃあ最初に逆戻りじゃねぇか!


心の中で舌打ちして、頭を抱えた。


クソッ!結局のところ何かは、不満を口にしなきゃ帰れねぇ。

だが不二先輩に乾汁は封じられた。

じゃあなんだ?何ならいい?

やっぱアレか?アレなのか?



「い・・乾先輩の不満と言えば・・デー」



タ、と口にする前に、今度は越前に言葉を遮られた。



「まさかデータとか言わないっスよね?」

「えっ?」

「データも海堂先輩だけの不満じゃないっスから。

 俺も十分嫌な目にあったしね」

「そうそう。乾の場合。テニス以外の事までデータにとってるっしょ。

 アレはプライバシーの侵害になんないのかな?って常々思ってるんだけど」

「・・・はぁ・・」



って、そんな事俺に言われても・・・・

俺だって色々データに取られて・・・恥ずかしい思いもだな・・・



「まぁ。そういう事だから。海堂、データも無しで」

「えっ?」



また?


首を横に傾げ、不二が爽やかに微笑む。


データもなし?

そんな簡単に決めてもらっても・・・じゃあホントに話す事なんてねぇじゃねぇか・・・・

海堂は思った。

元々乾に対して、特に不満を持っていた訳じゃない。

ただこの場の話の流れ上・・・何か話さなきゃいけない。

そう思って考えただけで・・・

それなのに・・・汁もデータもなし。

密かにこの時点で、海堂はお手上げ状態だった。


もう無理だ。

俺には話す事はねぇ


そしてなすすべもなく、俯く。

その姿に横に座っていたルーキーが呟くように話しかけた。



「海堂先輩・・・まじで不満ないんっスか?」



海堂は横目で越前を見つめて、少し間をおいて答えた。



「・・・ああ」



部室の空気が一瞬シンと張り詰めた。

が、次の瞬間弾ける様に菊丸が叫んだ。



「嘘でしょっー!!それは無いって!」

「ホントっスよね!あの乾先輩の不満がないだなんておかしいっスよ!」



越前もそれに続くように声を大にして言う。



「海堂。時間はたっぷりあるからゆっくり考えていいんだよ」



不二だけは、変わらない口調で諭すように言った。

海堂はその声で、顔を上げた。



「・・・不二先輩」



・・・おかしいという越前の言葉は・・・引っ掛かるが・・・

確かに無い。というのも・・・変なのかもな・・・

この際ちゃんと考えて、相談した方が・・・



「乾って絶っ対!マニアックだよね!」



えっ?マニアック?



「きっと凄ーく、ねちっこいと思うっス!」



ねちっこいって・・・?



「こらこら。まだ海堂が話し出す前に、そんな事言っちゃ駄目じゃないか」

「でもさっ!この場合こっちから言ってあげた方が言いやすいかもじゃん」

「そうっすよ。時間がいっぱいあるって言っても、海堂先輩すぐ黙っちゃうし」



ちょっ???それって・・・どういう意味だ???



「ねぇ海堂・・・乾ってピーーーーーーーーーーーーーなの?」

「・・・・なっ?」

「っていうか、そんな時海堂先輩はピーーーーーーーーーーーなんっスか?」

「・・・・・・☆△×○!!!!!」



海堂は一瞬にして茹だこのようになった。


何を言ってるんだこの2人は!?

伏字になるような事を、よくもまぁ口に出来るな!?

羞恥心というものは無いのか!?


・・・っていうか、待てよ・・・・

コイツラの中で、俺の不満はそっちだと思ってたのか!?

乾先輩と俺の・・・・・



海堂が悶々としていると、ルーキーが両肘を机について海堂を覗き込んだ。



「あっ・・やっぱ黙っちゃったっスね」

「やっぱストレート過ぎたかな?」

「だから言ったじゃない。こういうのはもっと本人が言いやすいように話をもっていかなきゃ」

「めんどくさいっスね」

「まぁでも・・・海堂だもんな。もっと違う話から持っていくべきだった」



『ニャハハハハ』と笑う菊丸に、不二が『仕方ないなぁ英二は』と優しく頭をコツいた。

越前はそんな2人を気にも止めず、ジュースを飲んでいる。

海堂は呆然と3人を見た。



何なんだこの2人・・・いや3人・・・何でこんな和やかムードなんだ?

・・・・ついていけねぇ・・・誰か何とかしてくれ!!!!



「あっそうだ!違う話で思い出したけどさ」



急に菊丸がパンと手を叩き、海堂の肩がビクッと反応した。



「俺ずっと海堂に言わなきゃって思ってた事あるんだ!」



えっ?俺に?言わなきゃ・・・・?

いや・・いい!言わなくていい!!

どうせ、ろくな話じゃねぇに決まってるんだ!!



「前にさ海堂に、柳は乾の元カレっていったじゃん!」



頼むから言わないでくれ!!



「あれ元カノだった」

「・・・・・・・・・」



・・・・言いやがった。



「あっ!っていうか付き合ってんだから、そんなのもうとっくに知ってるかっ!」



しかも・・・柳が元カノ・・・それって・・・・



「そうっスよ!今更っスよ!ねぇ海堂先輩」



それってやっぱ・・・



「コラコラ英二。その訂正はおかしいよ。柳くんも男なんだから・・・

 例えそうでも元カレでいいんじゃない?」



そういう意味か、あのクソ眼鏡・・・・後でぶっ殺すっ!



「あっそうか・・・そうだよな。柳も男だもんな。ごめん海堂!今のナシ!」

「なるほど・・・言われてみれば、1つ勉強になったじゃないっスか。海堂先輩!」



笑顔で海堂の肩を叩く越前。

海堂の我慢の糸が、プチッ!と切れた。



「・・・・越前、そんなのものはな・・・・・・・」



和やかに弾む会話・・・乙女会議



「勉強になるわけねぇだろーーーーー!!!!!」




それは、乙女による乙女の為の会議なのである。






                                                                            END





最後まで読んでくださりありがとうございます!


乙女会議・・・一応終了しました☆

結局・・不満というより、ただのダラダラした世間話なんですが・・・

楽しんで頂けたら嬉しいですvvv

という訳で・・・改めて、2日遅れだけど・・・

ユッキー25歳おめでとうvvvv

2010.05.31