守りたいもの

                                                                  (side 長太郎)





『長太郎は優しいからな』


宍戸さんは何かにつけて口癖のようにこの言葉を口にする。

だけど俺は・・・違う。

宍戸さんに優しいと言って貰えるほど、本当は優しくなんてない。

したたかで傲慢で・・・黒い・・・

俺の中にはあなたへの下心が、こんなにも隠されている。

宍戸さん・・・

俺はあなたが傍にいてくれたら、他の人間なんてどうでもいい。

そんな事を思ったりしているんですよ。

宍戸さん・・・

あなたは、そんな俺に気づいていないだけなんです。
















「悪ぃな。こんな遅くまで」

「いえ。それよりも大丈夫ですかその傷?

俺本気でスカッドサーブ打って・・その・・・」

「バ〜カ。こんな傷屁でもねぇよ」

「でも・・」

「だから大丈夫だって言ってんだろ。こんなの一晩寝たら治ってるよ。

 それよりも気にして手抜くなんて事したら許さねぇからな」







都大会で不動峰の橘さんに負けた宍戸さんは、その日のうちにレギュラー落ちした。

それは俺にとってとても衝撃的な事で、自分を見失ってしまいそうな出来事だったのに



「長太郎ちょっといいか?」

「は・・はいっ!」



宍戸さんはレギュラー落ちした人とは思えない、いつものあの熱い眼差しで俺の前に現れたんだ。



「俺の話・・・もう知ってるよな?」

「・・・はい」



俺は返事をしながら、そんな宍戸さんの眼から視線をそらせなくなった。

どんなに落ち込んでいるだろう?

想像するだけでも怖かった、そのとうの本人が目の前にいる。

自分の予想を裏切る顔をして・・・



「俺はまだレギュラーを諦めちゃいねぇ」

「・・宍戸さん」



だけどその裏切りは、本当に嬉しくて・・・

宍戸さんは、やっぱり宍戸さんだ。

そう思うと本当に嬉しくて・・・



「そこでだ長太郎。お前の力を借りたい。レギュラーの座を取り戻すために・・」

「俺の・・ですか?」

「そうだ。お前の力が必要なんだ。長太郎・・・俺に力を貸してくれるか?」

「そんな・・もちろん!喜んでっ!俺で良かったらどんな力でも貸しますよ!」



俺を頼ってくれたのも、何もかもひっくるめて嬉しくて・・

宍戸さんの申し出を一つ返事で受けたんだ。




それからというもの部活が終わると、俺達二人はここのコートで秘密の特訓をしている。

だけど最近その申し出を受けた事を後悔しだしていた。

宍戸さんは真面目にレギュラーの座を取り戻そうと、毎日血が滲むほどの努力を重ねている。

俺が打つ本気のスカッドサーブを体で受けながら、自分の技を磨いて・・・

それなのに俺は・・・

宍戸さんの長い髪が乱れるたびにその姿に目を奪われ

練習が終わって傷だらけの宍戸さんを傍で心配しながら、溢れる胸の高鳴りを抑えるのにこんなにも必死になっている。


宍戸さん・・・俺、あなたが好きなんです。


いつか無意識にこの言葉を口にしてしまうんじゃないだろうか?

そんな不安に毎日襲われていた。



「おいっ!聞いてるのか?長太郎っ!」

「えっ?あっ・・はい。すみません」

「何ぼーっとしてんだよ?さっさと汗拭かなきゃ風邪引くだろ」



えっ・・!?

宍戸さんが考え事をしていた俺に痺れをきらしたのか、タオルを手に取ると俺の眼の前に立ち・・・

あろう事か俺の額の汗を拭いてくれた。


・・・宍戸さん・・



「じっ・・自分で拭けますから」



俺は咄嗟に宍戸さんからタオルを取り上げると、横を向いて急いで額の汗を拭いた。


・・・駄目だ・・・



「ったく・・人がせっかく拭いてやってるのに、取り上げる事ねぇだろうが・・・

まっでも・・そんだけ元気がありゃ大丈夫だな。明日も頼むぞ長太郎」

「は・・はい・・」



あなたは俺をただの後輩として、優しくしたり心配したりしてくれているのだろうけど・・

俺はあなたのそんな何気ない行動一つでこんなにも動揺してしまう。

ドキドキが止まらない。



俺は・・・もう本当に・・・

無理かもしれない。
















「ハァ・・・」



俺はため息をつくと、紅茶を一口飲んだ。

午後のカフェテリアは、いつも昼食が終わった生徒達で賑わっている。

普段はあまり来ない場所だけど、今日はその片隅の席で俺は一人落ち着かない気持ちを抑えていた。

それといのも昨日とうとう宍戸さんの練習していた超高速ライジングカウンターが完成したからだ。



『長太郎ありがとよ。これで練習も終りだ・・やっと戦える』



宍戸さんは握り拳を作ると本当に嬉しそうに笑った。

俺は『良かったですね』と曖昧に微笑む事しか出来なかった。

あんなにもう一緒に練習をするのは無理かもしれないと思っていたのに

実際技が完成して一緒に残って練習する事が無くなったと思った時の喪失感。

宍戸さんの技が完成した事は素直に嬉しいと思うのに

どこかで手を抜けばまだ一緒に練習出来たんじゃないか?と思ってしまう身勝手な想い。


俺はどうしたいんだ?



「ハァ・・・」

「自分・・面白いほどため息つくな」



もう何度目かわからないため息をつくと、いつの間にか俺の眼の前に忍足さんが座っていた。



「お・・忍足さん・・いつの間に?どうして?」

「う〜ん・・そやな。いつの間に・・の答えは、2、3分前や。

 で、どうして?の答えは、ここは俺の午後の指定席やからやな」

「えっ?・・・そっそうだったんですか・・」



俺は自分の座っている席を改めて確認して、周りを見た。

そう言われてみれば・・・忍足さんはよくこのカフェテリアで小説を読んでいる。

何度か見かけた事があったのに・・・気付かなかった。

しかも2、3分前からって・・・かなり経っているじゃないか。

席は兎も角・・・忍足さんが現れた事にも気付かないなんて・・

俺は・・・



「まっそれはいいとして・・・俺からも質問してええか?」

「えっ?あっ・・はい」



俺はその言葉に顔を上げて、改めて忍足さんを見た。

忍足さんは両肘をテーブルに乗せると、少し前かがみになった。



「俺が現れた事に気付かんほど、何を考えてたんや?悩み事か?」



控え目な声で、俺の目を覗きこむ。

俺はぐっと顎を引いて、言葉に詰まった。



「・・・いえ・・」

「ほんまか?」



心配してくれている先輩に嘘をつくのは心苦しいけど・・・

でも素直に『そうです』とは、答えられない。

こんな事・・・こんな複雑な想い。

きっと理解されない。



「・・はい」



忍足さんは俺の目を見つめて、小さくため息をつくと背中を椅子にもたれさせた。



「そうか・・・まっええわ・・・ところで鳳。今日の事知ってるか?」

「今日・・の事ですか?」

「そうや。今日宍戸が滝とレギュラーをかけた試合をするらしい。

 さっき宍戸が滝に試合申し込んどったわ」

「えっ!?それホントですか?」



そんな・・・確かに超高速ライジングカウンターは昨日完成したけど

その為に出来た傷はまだ治っていないのに・・宍戸さん・・・



「なんや・・知らんかったんかいな・・まぁでもそういう話やから、

HR終わったらすぐにコートに行った方がええで」

「そっそうですね。わかりました。必ず急いで行きます!」



ホントに無茶をするんだから・・あの人は・・・

でも決まったからには必ず勝って下さい。

あなたの努力が報われるように、俺も精一杯応援します。
















たくさんのギャラリー

それなのにコートを取り巻くその空間は恐ろしいほど静まりかえっていた。


『ゲームセットウォンバイ宍戸 6−1』


コールされると、どよめきが波のように走る。

その瞬間脳裏に浮かんだのは、宍戸さんのレギュラー復帰その文字だけだった。


良かった・・・宍戸さん・・・あの練習が実りましたね。


だけどそこに現れた榊監督は、耳を疑う様な事を口にした。

滝さんに勝った宍戸さんではなく、日吉をレギュラーに入れると言う。

宍戸さんは、一瞬で顔色を変えた。



「監督どうして日吉を・・何故俺じゃない! 奴を倒したのは俺だ!」



悲痛な叫びがコートに響き渡る。


そんな・・どうして・・・

強い者がレギュラーだというなら、レギュラーに勝った宍戸さんは当然復帰出来る筈

それなのに・・どうして監督は・・・


俺は宍戸さんから目を離せなくなっていた。

宍戸さんの悔しい気持が手に取るほど伝わってくる。



「見苦しいぞ 宍戸」

「跡部っ!」



シーンと静まりかえったコートの沈黙を破ったのは



「不動峰の橘といえども無様に負けたんだ。負けた奴を監督は二度と使わん!」



跡部さんだった。


確かに・・今まではそうだったかも知れない。

だけど・・・だからこそ宍戸さんは、頑張ったんだ。

負けた自分を認めて、レギュラーに復帰する為に・・・

更なる高みを目指して、血のにじむ様な努力を重ねてきたんだっ!



気付いたら俺は宍戸さんの横に走りよっていた。



「宍戸さんはあれから二週間想像も絶する特訓をしてたんですよ!」



必死だった。

宍戸さんの頑張りを認めて貰いたい。

ただその一心だった。



「で?」



だけど跡部さんは、それがどうした・・・と言わんばかりに鼻で笑った。

俺は跡部さんに負けないように、強い視線で跡部さんを見続けた。


負けない。

絶対に負けない。


跡部さんは俺と宍戸さんを交互に見ると小さく舌打ちをした。



「バーカだったら俺に言うな。監督に直接言ってこいよ。みっともねぇ」



そして少し呆れたように言うと、俺達を追い払うように手を振った。


・・・跡部さん・・


宍戸さんは弾かれる様に、監督の下へと走り出した。
















コートを出て猛スピードで走る宍戸さんの背中を追いかけると、宍戸さんは校舎に入る前の監督を捉まえていた。



「まだ何か用か?」



無表情で振り向く監督に、躊躇なく土下座をする。



し・・宍戸さんっ!?



「お願いします!自分を使って下さい!」



・・・・あなたは・・そこまでして・・・


宍戸さんは、頭を地面につけて監督の答えを待っていた。

強い想いが辺りを包む。

俺はもう黙って見ているなんて、出来なかった。



「監督!自分は宍戸先輩のパートナーをつとめこの2週間・・・

 血の滲むような特訓を見て来ましたっ!

 自分からもよろしくお願いします!」



どうか・・・宍戸さんを・・・


必死に頭を下げた。

緊張が走る。



「では鳳・・・お前が落ちるか?」

「「!」」



えっ・・・俺が・・・


俺は一瞬、監督の言っている意味がわからなかった。

・・・・宍戸さんの代わり・・そうか・・

だけど顔色一つ変えず、俺の返答を待っている監督に俺は覚悟を決めた。


わかりました。俺がレギュラーを出る事で、本当に宍戸さんが復帰できるのなら・・・



「構いませ・・・」



言いかけた時に、宍戸さんが急に立ち上がった。


しっ!!?



「宍戸さん!!?」



宍戸さんはいつの間にか持っていたハサミで、自慢の長い綺麗な髪をどんどん切り落としていく。

俺は監督がいる事も忘れて叫んだ。



「一体何を!?自慢の髪だったじゃないっスか!!」



バサッバサッと無造作に落ちていく髪、俺は強い眩暈に襲われた。


そんな・・俺のせいで・・・俺が余計な事を言ったせいで宍戸さんの大切な髪が・・・


俺は放心状態になりながら、宍戸さんを更に窮地に追い込んでしまった無力な自分を嘆いた。


俺は何も力になれなかった。


否応ない雰囲気が、辺りを包みこんだ。



「監督・・・そこにいる奴はまだ負けていない」



凛とした声が響いて顔を向けると、そこに跡部さんが立っていた。



「跡部!?」



宍戸さんが、戸惑うように跡部さんを見つめている。

俺も跡部さんを見つめた。



「自分からもお願いします!」



えっ?

あ・・とべさん・・・?


跡部さんは当たり前のように頭を下げた。

俺はその光景を驚きと戸惑いで見ているしか出来なかった。


あの跡部さんが・・・・誰かの為に頭を下げるなんて・・・

宍戸さんの為に・・・頭を下げるなんて・・・



俺は固唾を呑んで監督を見た。



「勝手にしろ」



・・・監督・・・


監督はそれだけ言うと、校舎へと消えていった。

宍戸さんのレギュラー復帰

今の一言で、それが現実の物になった。

だけど・・俺が頭を下げた時には出てこなかった言葉が、監督の口から出た。

跡部さんの後押しで、宍戸さんは救われた。

その事実が、重くのしかかった。

嬉しいのに・・・喜ばなきゃいけない場面なのに・・・

俺は歯軋りする思いで、地面を見つめた。



「チッ余計な事を・・・」



宍戸さんの舌打ちに目線を戻すと、宍戸さんがばつが悪そうに跡部さんから目線を外すところだった。

「言っとくけど二度目はねーぞ」



跡部さんはそう言うと何事もなかったように、ゆっくりとコートへと戻って行った。


偉大な部長の背中


俺は二人から目線を外すと、そっと宍戸さんの髪を拾った。
















「宍戸さん・・・」



跡部さんの姿が見えなくなって、ようやく俺は宍戸さんに話かけた。



「何だよ」



宍戸さんがぶっきらぼうに答える。



「髪・・・ホントに良かったんですか?」



俺のせいで・・・あなたの綺麗な髪が・・・


宍戸さんに謝りたかった。

俺が余計な事をしなければ、この人の長い綺麗な髪は今もまだそこにあったかもしれない。

跡部さんに全てを任せておけば・・・


俺は拾った髪を握りしめて宍戸さんを見つめた。



「あ゛あ゛!?良いも悪いも・・・んなの気にしてねぇーよ!

 それよりお前・・さっき監督に俺の代わりに落ちるかって言われて

 構わないって言おうとしただろ?」



えっ?だけどそれは・・・


宍戸さんは髪の事より、俺のレギュラー落ちの話の方に話題を変えた。

鋭い目で俺を睨む。



「それは・・・ホントに構わないって思ったから・・

 俺より宍戸さんの方が上手いし・・それにあんなに練習だって・・」



俺が一番傍で、その姿を見ていた。

あなたの為なら・・・俺はどうなったって構わない。

心の底からそう思ったんだ。


宍戸さんから目を逸らすと、宍戸さんは大きな声で叫んだ。



「バカ野郎!!!お前何寝ぼけた事言ってんだよ!

 お前にとってレギュラーはそんな物なのか?」

「いえっ!そんな・・俺だって他の人に譲るつもりは・・・」



レギュラーを軽視していると思われた?

違う・・・俺だって必死に掴んだレギュラーの座を誰かに譲るなんて考えていない。

あなただかただ!

宍戸さんだから・・・



「なら徹底しろ!俺に同情をかけるような事はするな!」

「違います宍戸さん!俺は別に・・」



くそっ・・こんな事、あなたには言えないじゃないですか。


「長太郎。いいか・・・俺は後輩に情けをかけてもらう程落ちぶれちゃいねぇ。

 レギュラーの座だって自分でもぎ取れる。

 だから二度とこんなマネはするなよ。わかったか?」

「・・・・はい」



俺はもう宍戸さんに何も言えなかった。

自分がしてしまった事、宍戸さんの髪。

言いたい事や、謝りたい事もたくさんあったけど・・

俺は黙って宍戸さんの髪を拾う事に専念した。
















宍戸さんの髪・・・どうしよう。

昨日宍戸さんは俺を一人残し先に部室へと戻って行った。

取り残された俺は黙々と髪を拾った後、追いかける様に部室に戻ったけれど宍戸さんの姿はもう無かった。

手元には切り落とされた髪

捨てればいい。そんな事は聞かなくてもわかっていたけど、どうしても出来なかった。

俺は結局、宍戸さんの髪をロッカーに入れておく事にしたんだ。

宍戸さんに会ったら、髪の事を言った方がいいんだろうか?

また怒られるかな?

『そんな物残してどうなる?』きっとあの人ならそう言うだろうから

でも俺の手で捨てるなんて・・・

いや・・それよりもレギュラーの話の方が・・・

俺がした事、まだ怒っているかな?

昨日の事を思い出すと、足取が重い。

このまま練習を休んでしまいたい。

心の中でため息をついた、そんな俺の前へ宍戸さんが急に現れた。



「よぉ長太郎。昨日はすまなかったな。あんな言い方をして・・・」


し・・!?


「宍戸さん・・いえ、俺の方こそ余計な事をして・・ホントにスミマセンでした・・・」



突然現れた宍戸さんに驚いて目を丸くすると、宍戸さんは手で額を隠した。



「いや俺の方こそ・・お前の気持ちを踏みにじるような言い方をして・・・

 庇ってくれたのは嬉しかった・・・ありがとよ・・・」

「宍戸さん・・・」



宍戸さんが礼を言ってくれるなんて・・・

まさか・・それを言う為に、ここで俺を待っていてくれたのだろうか?



「だけどな・・お前が甘いというのは事実だ。

 誰かに自分のレギュラーの座を譲るなんて、そんな馬鹿げた事は絶対するなよ」



・・違う・・のか・・やはり宍戸さんは、俺がした事を怒っているんだ。

だけど・・



「何だよ?何か反論があるのか?」

「俺が・・俺がレギュラーを譲るなんて考えるのは宍戸さんだけです!」



他の人だったら、俺だって口を出したりしない。



「ハァ?何言ってんだ・・・お前なら誰にでも同じ事をするに決まってるじゃねぇか。

優しいからな・・・まっ・・そんな事より・・・」



優しい?

まただ・・・またあなたはその言葉を口にする。

俺の本当の姿なんて知らないくせに・・・

俺がどんな想いであなたを見ているかなんて知らないくせに・・・

俺が優しいのは・・・優しくするのは・・・・



「・・・違う・・・」

「ん?何か言ったか?」

「違うんです!宍戸さん!」



もう無理だ。

もう黙っていられない。


俺は宍戸さんの肩を力まかせに掴んだ。



「ちょ・・おい!何だよ。何が違うんだ?」

「俺は・・俺は優しくなんてないんです!」

「ハァ!?」



気付いて下さい!

俺の優しさは、あなただけに向けられている事を・・



「ホントに宍戸さんだから・・だったんです。

 俺ずっと・・ずっと好きで・・・宍戸さんの事・・・」



俺の想いを知って下さい。

宍戸さんは俺の言葉が理解できないのか、眉をひそめた。



「ハ?」



戸惑っている事が、表情でよくわかる。

でも・・もう後戻りは出来ない。



「先輩としてって言うんだろ?」



・・・・・・そうなら良かったのかも知れないですね。

だけど違う・・



「先輩としてじゃなく・・・本気で好きなんです!

 こんな事・・急に言われても戸惑うと思いますが・・俺はホントに・・」



本当に好きなんです。



「ちょっ・・ちょっと待った!長太郎!落ち着け!まず手を離して・・・なっ!」

「あっ・・・スミマセン・・・」



俺は自分の想いでいっぱいで、宍戸さんの肩を強く握ってる事に言われるまで気付かなかった。

急いで宍戸さんの肩から手を離す。

宍戸さんは肩を擦ると、俺を見上げた。



「長太郎・・・お前今、自分が何を言っているのか、わかっているのか?」

「はい」



俺は宍戸さんの目を、真っ直ぐ見て答えた。

嘘は言わない。



「俺が男だって事は、わかっているんだよな?」

「もちろんです」

「男の俺が好きだっていうのか?」

「はい」

「その好きは・・その・・・憧れとかじゃなくて・・一般的な恋愛感情・・・」



宍戸さんの目が揺れた。

信じられない・・・そう言いたげに・・・

だけど俺はあえて言葉を続けた。



「そうです。その恋愛感情です。俺はずっとあなたが好きでした。

今もずっと・・・あなただけを見ています」

「・・・・・・・」



宍戸さんは言葉を失った。

目をそらして俺を見てくれない。


すみません宍戸さん・・でも俺もう無理なんです。

あなたが俺を優しいというたびに後ろめたくなる。

こんなのもう・・・



「・・・困る」



宍戸さんはポツリと呟いた。



!!!!!!



そう・・・・ですよね・・・・

俺だって・・いい返事を期待していた訳じゃない。

もし伝えれば、こうなるだろうとずっと思っていた。



「俺は・・・そんなの困る」



でも実際にその言葉を聞くのと、想像するのでは雲泥の差だ。



「そう・・・ですよね。スミマセン宍戸さん。今のは無しにして下さい。

 俺は、ちょっと頭冷やしてきます」

「えっ・・?」



宍戸さんの顔を見れないまま、俺は水飲み場へと走り出した。



「おい!長太郎っ!」



終わりだ。

何もかもおしまいだ。

宍戸さんとの関係もテニス部に居続ける事も・・・何もかも・・・



『・・・困る』



・・・宍戸さん・・・

だけどもう・・・限界だったんだ。

宍戸さんに優しいといわれるたびに苦しかった・・・



どうしようもなかったんだ!!




                                                            (side 宍戸へ)





最後まで読んで下さってありがとうございますvvv


今回の話は前回の宍戸の話とかぶってるので

話的には進んでないのですが・・・・

長太郎の切なる想いを感じて頂けたら嬉しいです。

そして次の宍戸・・・長太郎・・・で、二人がどうなるのか!?

あきらかになると思います☆

まだ続きますが、ついてきて下さると嬉しいですvv

2010.4.16