キミがいるだけで

                                                                              (side 英二)





「だから・・・ホントに大丈夫だって!」


大石と鏡見と対戦したその日の夜、大石から電話がかかってきた。


試合中の俺の様子がおかしかったから・・・気になったって・・・

でもさ・・・そんな事言われて、俺なんて答えればいいの?



「ホントに何でもないのか?その割にはミスも目立ってたぞ?」

「それは・・・ペアの相手が桃だったからだろ?

お前と同じ様にはいかないよ・・・」

「確かに・・そうかも知れないけど・・・それでも・・・」



それでもなんだよ!

どうしろって言うんだよ・・・・

お前と鏡見を見て、嫉妬して調子が上がらなかったってホントの事なんて言える訳ないじゃん!!

言ったらお前、困るんだろ?



「わかったって。もっと桃とダブルスの練習してミスが出ないようにすればいいんだろ?」

「英二。俺が言ってるのは、そういう事じゃなくて・・」



もういいじゃん大石・・・引下ってくれよ・・・

どんなに聞かれても・・・俺、答えらんないし・・・

それに・・・



「じゃあ何?俺、疲れてんだけど・・・説教ならまた明日にしてよ」



このままだと、俺言っちゃいそうで嫌なんだ。

お前俺とはまだ1度もペア組んで、バッジ集めの試合してないのに・・・

鏡見とはして・・・まさか鏡見と組んで、大会に出るつもりなのかって・・・

返事を聞くのが怖いのに・・・今、凄く自信無くしてるのに・・・



「英二。だから俺は説教がしたい訳じゃなくて・・・英二の事を心配して・・」



やめてよ・・・そんな事言って、お前試合終わった後、鏡見と帰ったじゃん。

それなのに今更・・・



「心配なんてしてくれなくていい。じゃあ切るね」

「えっ?英二?おぃ!」



俺は大石の返事を待たずに、携帯を切り・・・電源を切った。


大石が気にかけてくれるのは嬉しい。

心配してくれてるのも、ちゃんとわかってる。

だけどさ・・・今は駄目だ。

今日の試合を・・・大石と鏡見を思い出すと・・・わかんなくなる。

大石が何を考えてるのか・・・大石がどうしたいのか・・・

俺を心配しながら、でも鏡見の事も考えてるお前に、俺の気持ちなんて言えない。


怖いんだ・・・大石・・・
















「ふ〜ん。なるほど・・・それで今朝2人とも様子がおかしかったんだ」



不二が机に肘をつきながら、俺の目を覗き込む。


うぅぅぅ・・不二の奴・・・ホント目ざといというか・・・


俺達の今朝の微妙な空気をいち早く察した不二は、練習の隙を見て俺に話しかけてきたんだ。



「休み時間に話、聞かせてよね」



驚く俺に、微笑ながら・・・


そして今まさに休み時間・・・俺は昨日あった事を洗いざらいしゃべらされていた。



「だって・・・仕方ないじゃん・・・」

「仕方ないねぇ・・・」

「他にどうしようもできないだろ?」

「英二・・・ホントにそう思ってるの?」

「だって・・・怖いんだもん・・・」



俺は目線を外しながら答える。


昨日の試合で感じた大石への不安

それを拭い去れないまま、今朝も大石に冷たくあたって・・・

でもさ、こればかりはどうしようもないじゃん。

不二に話を聞いてもらっても・・・こればかりは・・・


そう思ってるのに、不二は容赦なく言葉を続ける。



「英二。昨日僕言ったよね。我慢しないでちゃんと大石に話をしてみれば・・って

武蔵の相手は他にもいる筈なんだから、やはりちゃんと話をすべきだと思うよ」

「でも・・」

「我慢してたら、取り返しつかなくなるよ」

「そんな事言われても・・・」

「昼休みにでも話をしてきたら?」

「だからさ・・・不二・・」

「だから何なの?」

「・・・いや・・うん。いい・・わかった・・・」



不二の目が明いている。


ズルイよ不二・・・それって強制じゃん・・・
















結局不二に負けてた俺は、昼休みに渋々大石のクラスに来ていた。


弁当を食べ終わって、珍しくそのまま自分の席にいた大石の横に立つ。



「大石・・・話があるんだけど・・・」

「えっ?英二・・」



大石は俺が来るなんて思っていなかったのか、凄く驚いた顔で俺を見上げた。



「時間・・・ある?」

「・・・あぁ」

「じゃあついて来て」



俺はそのまま歩き始めた。大石は黙って席を立つと、俺についてくる。

俺達は無言のまま屋上へと向かった。






「やっぱここは、涼しいな」



屋上につくと俺は人気の少ない場所を探して、金網に手をかけた。

風が頬をつたい、髪を揺らす。



「それで、話ってなんなんだ」



大石は俺が話し出すのを待っていたのか、俺の後ろに立つと静かに聞いてきた。

俺は大石の方へ体を向けて、大石を見上げる。



「・・・うん。あのさ・・・」



言いかけて俺は、口を閉じた。


不二に言われてここまで来たのはいいけど・・・・

何て言おう・・上手く言葉がまとまんない。


昨日の事・・・不安な想い・・・鏡見の事・・・

自分の中でまだ答えが出ていないのに、大石にそのままぶつけていいのか・・・


金網にもたれて俯くと、大石のつま先を見つめた。

風が俺達の間をすり抜けていく。

沈黙が流れる。



「・・・英二。俺も話があるんだ」



話しださない俺に、今度は大石が話を切り出した。

大石も話・・?

それって・・・もしかして・・・鏡見の事・・?


俺は身構えて、顔も上げらんない。



「何?」



たったそれだけなのに・・・声が震える。



「今度俺と組んで、試合しないか?」



えっ・・?

大石と組んで・・試合?


思いがけない言葉に顔を上げると、優しい眼差しの大石と目が合った。



「それって・・・跡部のダブルスの・・?」



急に試合の話をされて、頭がついていかないけど・・・

大石が俺を誘ってくれてる・・・

そう思うと自分がここに話があるって言って誘った事も忘れて、俺は食い入るように大石を見つめた。



「あぁ。そうだ。バッジ集めの試合」

「いつ!?」

「今度の日曜日なんてどうだ?」

「うん!行く!!!」



俺は人目をはばからず大石に抱きついた。


嬉しい!大石が俺と一緒に試合する事考えてたなんて・・・

そうか・・・そうだよ・・・

深く考えなくて良かったんだ!

やっぱ大石は・・・俺の大石なんだ。

ただ今は鏡見に色々事情があって付き合ってるだけで・・・

きっとあの時の試合もそんな中のひとつなんだ。

ホント俺って奴は・・・・

俺だって梓真の練習付き合ってんのに、自分の事は棚に上げてやきもち妬いて・・・



「それで、英二は何の話だったんだ?」



大石が俺の背中をポンポン叩いて、あやすように聞いてくる。

俺はさっきまでの暗い気持ちなんて忘れて答えた。



「えっ?あぁ俺も・・俺も大石と組んで試合したいなって、言おうと思ってたんだ」

「・・そうか」

「うん!」



やっぱ話をするのは必要だよな。

こうやって向かい合えば、大石の苦笑いが目に入る。

いつもの大石だ。

俺の大石だ。


その日から俺は大石と組んで早く試合がしたくて、その日を指折り数えた。


早く・・・早く試合がしたい・・

















それなのに・・・・やっときた日曜日

ハイテンションの俺をコートで待っていたのは・・・

嫉妬という深い闇だった。



「大石。今日はどんな奴が相手かな?」



逸る気持ちを抑えられず、早足で歩きながら大石へ顔を向けると大石は顔を前に向けたまま答えた。



「今日の相手はもう決まってるよ」

「えっ?」


そうなの?そんな事一言も言ってなかったじゃん。



心の中でそう呟きながら、大石を見つめると大石はコートの方へ手を上げた。



「武蔵!!」



えっ・・・武蔵・・・?

それって・・・まさか・・・


俺が答えを出すより先に、コートから声が返ってくる。



「秀一郎!!遅いぞっ!!」



やっぱり鏡見・・・だ。


鏡見が大石に答えるように、手を上げている。


って・・・ちょっと待ってよ・・・何?

今・・・秀一郎って言ったよね?



「英二。今日の相手は武蔵と桃だよ。ほら元気出して行くぞ!勝つんだろ?」

「えっ・・あぁ・・・うん・・」



武蔵って・・・大石、お前鏡見の事・・・いつのまに下の名前で呼んで・・・


大石は俺の動揺に気付いていないのか、二人の前につくと俺の背中を叩いて前に押し出した。

鏡見と桃が一斉に俺を見る。



何・・・なんで鏡見が大石の事・・・秀一郎って・・・下の名前で呼ぶの?



「どうした英二?ほら・・」



ヤダ・・何・・・?

何がどうなってんの?

こんな気持ちで・・・2人になんて声をかければいいんだよ・・・



「英二?」



大石が俺の肩に手を置いて言葉を促す。

・・・大石・・・クソッ!!!

何だよ・・・もうっ!!大石のバカ!!!!



「呼ばれて飛び出て、絶対無敵の黄金ペア参上だよん!

 はーっ、やっと青学黄金ペアで試合が出来るよ

 俺はずーっと大石と組みたかったのに、大石呼んでくれないしさ

 もう待ちくたびれちゃったにゃー」



動揺を隠すように、いつもの俺を演じようとして・・・変な事を言ってしまった。


これじゃあまるで・・・負け惜しみみたいじゃん・・・・

最悪だ。

ホント・・・最悪だ。


それなのに、俺の気も知らないで大石は笑顔で真面目に答える。



「ははっごめんな。でもダブルスなら部活で毎日組んでるじゃないか」



何笑ってんの?

何でそんな事言えんの・・・?



「ストリートテニス大会の試合で組むのは初めてだろ!全然違うんだかんな!」



大石の笑顔に苛立って地面を蹴って睨みつけると、鏡見がどうしたらいいのかわからないとでも言いたげに大石に目を向けた。



「えーと・・・」

「おっと、ビックリさせてゴメンな武蔵。

 試合中もこんな感じかもしれないけど、よろしく頼むよ」



そんな鏡見に大石は頭を下げた。


何だよ・・・それ・・・イライラする・・・



「こんな感じって、どんな感じなんだよ!?

・・・まぁ、いいけど・・・ほいじゃあ鏡見、今日はよろしくな」



俺はもう半分以上、投げ遣りに鏡見に声をかけた。


何なんだよ・・・一体どうなってんだよ・・・?






その後の試合は最悪だった。

思うように体が動かなくて、集中できなくて・・・

大石が1人奮闘して、辛うじて試合は拮抗したけど最終的には負けた。

俺は情けなくて、悔しくて、今すぐ叫びたい気分だったけど・・・

鏡見の前でそんな自分を見せたくなくて、精一杯やせ我慢して笑顔を作った。



「お前、やるじゃん!でも次は絶対勝つからな!」

「そんなに力をつけていたとは・・・正直驚いたよ武蔵。

 俺達にも目標が出来たよ。次はお前達を倒すという目標がね」



大石は俺の横で息を整えながら、鏡見に手を伸ばす。



「そうか・・・じゃあ次も勝てるように俺も頑張るよ」



鏡見が笑顔で大石の手を握った。



「ああ」


見つめ合う2人

俺はそんな2人を歯軋りするぐらい睨んだ。


なんだよ・・・なんだよ・・・なんだよ!!!!

2人の世界なんて作っちゃってさ・・・・

もういいよ・・・そんなの見たくないよ・・・



「ほいじゃあ、俺達は反省会があるからここら辺でな」



俺はそう告げると、みんなに背中を向けて歩き出した。



「またな秀一郎!菊丸!」

「またな武蔵、桃」



大石はそんな俺の後ろを遅れないようについてきながら、2人に別れを告げる。

俺は更に加速をつけて、歩き始めた。

















「おい・・ちょっと待てよ英二。歩くの速い」



暫く歩くと大石に腕をつかまれた。


・・・触んないでよ。



「それにこっちの道はコンテナのある方じゃないぞ。どうしたんだ?」



・・・離してよ・・



「・・・行かない」

「えっ?」

「コンテナには行かない」

「でも・・さっき反省会があるからって・・・英二自分で・・・」

「反省なんてすること無い。それより腕、離してくんない?」

「どうしたんだよ急に・・・負けたら反省会するのがいつもの俺達だろ?」

「だから・・・離してって!!!」



俺は俺の腕を掴 む大石の手を振りほどいた。



「英二・・・」

「反省する事なんてないよ!もう大石とはペア組まないんだから!」

「なっ・・・何言ってるんだ英二!いい加減にしろよ!どうゆう意味だよ!」

「そのまんまじゃん!大石とは組まない!お前は俺より鏡見がいいんだろ!?」

「なんでそこで・・・武蔵が出て来るんだ」



大石が俺を睨む。


なんだよ・・ずっと・・・ずっと・・・我慢してたのに・・・

あと少しだって・・・色々事情があって仕方ないんだって・・・

それなのに、お前ちっとも俺の気持ちわかってないじゃん・・・

それどころか、もっと酷くなって・・・

大石のバカ

もういい・・・もう我慢なんてしない・・・



「・・・武蔵」

「えっ?」

「いつから呼んでんの?」

「英二・・?」

「いつからアイツはお前の事、下の名前で呼んでんだよ!!」

「・・・英二」



大石が戸惑いを顔に浮かべてる。

だけど、もう俺も自分自身を止めらんない。



「何なんだよ!俺だって大石の事、名前で呼んでないのにさ!なんでアイツが・・」

「英二それは・・」



それは・・・なんだよ!!!


目線を外した大石に、俺の中の何かが弾けた。



「許せない!!絶対許せない!!」



なんで目を逸らすんだよ!

やっぱ何かあんのかよ!


怒り狂って大石に手をあげると、大石がそんな俺の腕を掴んだ。

俺は空いたほうの手で、大石の胸を叩いた。



「ちょっ!落ち着けよ英二っ!俺の話を」



大石は暴れる俺のもう片方の腕も掴んで、俺の動きを止める。

両腕を掴まれた俺はなすすべも無くて、目からは止め処なく涙が溢れ出した。



「なんでアイツが・・・大石の事を・・・なんでアイツが・・」

「英二。だから落ち着けって、俺を見ろ!なっ!英二っ!」

「い・・・やだ・・・・もうヤダーーーーー!!!!!」



頭の中が真っ白になった。

ずっと我慢していた事が、塞いでいたものが・・・一気にあふれ出して

俺の思考を飲み込んでいく。



もう何も考えられない・・・・






ゲームに出てきたセリフとかを混ぜたりして、ちょっと苦しい部分もありましたが・・・


いよいよ次でラストです!

もう少しお付き合いを・・・☆

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