3
季節は巡り、再び春がやって来た。
僕達も二年生になって、今までの練習に付け加え、後輩達の基礎を見たりと何かと忙しい日々を送っていた。
そんな中で変わらないのは、相変わらず熱い視線で大石を見つめる英二と・・・
同じ様に熱い視線で英二を見つめる大石・・・
しかしお互いにその事には、気付いていない・・・
お互い意識しあっているのに、その目線が絡む事はない。
もしその目で見つめている時にお互い気付けば、お互いの想いがわかるんじゃないかな?
と思うんだけど・・・なかなかそうは行かないみたいだ。
何だか少しじれったい・・・
だから、つい声をかけてしまう。
「英二なら、向こうで桃の基礎練習見てるよ」
「えっ?」
「英二を探してたんじゃないの?」
「いや・・・その別に・・・英二を探していた訳じゃない・・・よ」
大石が慌てて、言葉を濁している。
だけどかえってそれが、その事を肯定している事に大石は気付いていない。
「そう?」
僕は含みのある笑顔を大石に向ける。
「いや・・・だから・・・ハハハ・・・」
大石は笑って、その場を誤魔化そうとしていたけど、僕は大石の後ろから近づく人物を 目で捉えながら話を続けた。
「僕はてっきり大石は、英二を捜していたのかと思ったよ」
僕がそう言い終わる頃に、タイミングよくその人物が辿りつく。
「誰が俺を捜してるって?」
「えっ!英二?!」
大石が自分の横に急に現れた英二に驚いている。
「大石がね、英二の事捜してたんじゃないかな?って思ったんだけど・・・」
英二は僕にそう言われて、大石をまじまじと見つめている。
「大石。俺の事捜してたの?」
「えっ?」
大きな目で見つめられて、大石が固まってしまった。
「ダブルスの練習でもすんのか?」
「ああっ・・えっと・・そうだな。英二が良ければ、今からダブルスの練習しようか?」
「良ければ?っていいに決まってんじゃん!俺達はパートナーだろ?何言ってんだよ大石。どうしたんだ?」
英二に背中を叩かれて、頭をかく大石
先程僕に『英二を捜していた訳じゃない』って言った事は、英二の出現でどっかに行ってしまったみたいだ。
本当に大石もわかりやすい・・・
「どうやら・・僕はお邪魔みたいなんで、向こうに行くね」
「「不二」」
二人の呼び止める声が背中越しに聞こえたけど、そんなのは無視して歩いて行く。
あそこで一緒にいても、本当にお邪魔虫になるだけだからね・・・
そう思いながら視線を前に向けて歩いていると、苦虫を噛み潰したような顔をした君が立っていた。
「どうかしたの手塚?」
「いや・・・別に・・何でもない」
何でもないって顔じゃない・・・よね
どうかしたのかな?
何かあったのだろうか?
僕は気になって直ぐに聞き返した。
「ホントに?」
「ああ」
「そう・・・ならいいけど・・・」
僕から目線を外し、握り締めたラケットを見つめる君。
これ以上追求するな・・・というような雰囲気
流石に僕も、そんな態度の君にそれ以上追求するような事は出来なかった。
だけど・・・本当はもっと追求したい。
何故君はそんな顔をするのか?
君に何が起こっているのか・・・
君の事をもっと知れば、僕の中にある答えが見つかるかも知れないのに・・・
そう・・・この時も僕は自分の事ばかり考えていて、手塚・・君の変化に気付かなかった。
英二と大石を見ていて、二人の想いにはすぐに気が付いたというのに・・・
君の中で変化していく感情には、気付かない・・・
だから君の想いを知ってしまった時の衝撃は計り知れないものがあったよ。
その日僕の目の前で事件は起きた。
全体練習が終わって、レギュラーと一部の部員だけが残り、大会に向けて練習をしていた。大石は3年の先輩とダブルスの練習をしていて、僕はたまたまそのゲームを見ていた。
右に左に振られている大石
先輩に色々駄目だしをされて焦ったのか、少し危ないなって思った瞬間、バランスを崩して倒れこんだ。
「大石!!」
その場にいた先輩と僕が大石の下に駆け寄ると、大石は足首を押さえていた。
「大丈夫か?大石」
「はい。すみません。大丈夫です」
3年の先輩に問いかけられ、笑顔を作って答えてはいるものの、あまり大丈夫な感じには見えない。
「先輩。僕が大石を部室に連れて行きます」
「そうだな。そうしてくれ」
先輩の了解をえて、僕は大石の横に跪いた。
「大石。僕の肩に掴まって」
「あぁ。すまないな不二」
大石も大人しく、僕の肩に掴まり立ち上がった。
なるべく痛めた足に負担をかけない様に、部室へと歩いていく。
そして部室に着いた僕は、大石をベンチに座らせ氷水を入れた袋をタオルで巻いて、大石の痛めた足の上にそっと置いた。
「しばらくそうやって、冷やしておいた方がいいよ」
「本当にすまないな。不二」
本当に申し訳なさそうな顔で僕を見る大石
「そんな事・・・気にしなくていいよ。それより・・・」
それより・・・この事を英二が知ったら、血相を変えてとび込んで来るだろうね。
と言おうとした瞬間に、部室の戸が勢いよく開かれた。
「大石!!」
しかし・・・とび込んで来たのは、英二ではなく・・・君だった。
「手塚?!」
「大丈夫なのか?」
「あぁ。ちょっとバランスを崩して、足を少し捻っただけだ。心配ない」
「本当にそうなのか?」
「本当に大丈夫だよ。今も不二が足を冷やしてくれたし、すぐに腫れもひくさ」
「不二が・・・?」
そう言って目線を大石から僕に移した君の目は、動揺の色を隠せないでいた。
手塚・・・ひょっとして今・・・僕の存在に気が付いたの?
その目を見た瞬間、僕の心臓が早鐘を打ち始める。
いつも冷静な君が、大石の怪我に周りが見えなくなるほど動揺したという事なの・・?
何故?
どうして?
言葉が出ない・・・
そんな目をした君に、なんて返事を返したらいいのか・・・・わからない。
重い沈黙が部室の中を流れた時、それを打ち破るかのように、また勢いよく部室の戸が開かれた。
「大石っ!!!」
今度は本当に英二が現れた。
部室に入ってきた英二は、そのまま大石の元に駆け寄る。
「大石、怪我したんだって?足か?」
冷やしている足を確認して問いかけた。
「大丈夫だよ英二。今ちゃんと冷やしてるし・・・」
大石がそう言いかけた時に、大石の言葉を英二が遮った。
「嘘つくな!お前・・・無理した顔してるじゃんか!」
英二に言われて、大石が驚いた顔をしている。
「英二・・・」
「帰るぞ大石!今から帰って病院で診てもらおう。俺が連れてってやるからさ」
「いや・・・でも・・」
「いやもでもも無し!菊丸様が着いて行ってやるって言ってんだから、大石は黙って一緒に行けばいいの!わかったか?」
英二の言葉に押されて、大石が苦笑する。
「そうだな・・・わかったよ英二。念の為に診てもらう事にする」
「よし!決まりだな!じゃあさ、早速帰るとするか、俺が大石の鞄持ってやるよ」
英二が大石のロッカーから、制服と鞄を取り出して来て、僕の肩を叩いた。
「って事だからさ不二・・・後の事はよろしくな」
「えっ?」
余りにも一瞬の出来事で、言葉に詰まっていると、英二が更に続ける。
「今の話・・聞いてなかったのか?俺達先に帰るからさ、先輩に宜しく伝えといてよ」
「あっ・・・うん。わかった」
僕の返事を聞いて、あっというまに帰り支度を済ませた英二は、大石に肩を貸しながら扉の方へ歩いていく。
「んじゃな不二、手塚・・・後よろしくな」
「本当にすまないな不二。後の事は頼む。それと手塚心配かけてすまない」
英二に続いて、大石も僕達に声をかけて、二人は部室を出て行った。
また部室の中に重い空気が流れ始める。
僕はそっと君を見つめた。
君は眉間にシワを寄せ、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
この表情は、前にも見た事があった。
あの時も、確か英二と大石がいた・・・大石・・・
そうゆう事なの?
おぼろげに見える真実・・・
僕は黙ったままの君に声をかけた。
「手塚・・・大石は英二が一緒なら大丈夫だよ」
「あぁ・・そうだな」
僕の顔を見ないまま答える君
心ここに在らず・・・ってとこかな・・・
「じゃあ僕は、今の話を先輩に話さなきゃいけないから・・・ 先にコートに戻るね」
「あぁ・・・」
僕は君を部室に残して、外へ出ようとドアノブに手をかけた。
「手塚・・・」
「何だ?」
「いや・・・何でもない・・・」
部屋を出る時に見た君の顔が、余りにも苦しげだったから・・・
思わず声をかけてしまった。
かけたところで・・・言葉など見つかる筈もないというのに・・・
部室を出た僕は、パタンっと閉まったドアにもたれかかる。
手塚・・・
やっぱり・・・そうゆう事なんだね・・・
見えてしまった真実
気付いてしまった君の想い
男が男を好きになる・・・
それは、英二や大石だけに起こる出来事じゃない・・・
誰にでも、その可能性はあったんだ・・・
だけど・・・それが君だなんて・・・
しかも・・・その相手が大石だなんて・・・
手が震えて止まらない・・・
今まで君を見続けていた筈なのに、君の想いにまったく気付かなかった。
いや・・・気付きたくなかっただけなのかな・・・
君が大石を気にかけている事は知っていた。
だけどそれは友達として、気にかけていると思いたかった。
もし君の気持ちを認めてしまったら、僕の想いも・・また認めなくてはいけなかったから
君との試合・・・出なかった答え
あの時から、僕達は試合をしていない。
何度かチャンスはあったのに、無意識に君との試合を避けていた。
知りたかった答えは、いつの間にか、気付きたくない答えになっていた。
だって僕はもう本当はわかっていたんだ。
何故こんなに君が気になるのか・・・・
英二と大石の熱い目線を見た時に・・・.
二人の想いに気付いた時に・・・
僕もまた、同じ目で君を見ていることに・・・
そして君を求めているということに・・・
だけど、認めたくなかった。
認めることが出来なかった。
不毛な恋
だって君は僕を見ていない。
その現実が、僕の心を塞いだ。
そして気付いていないふりをさせた。
なのに・・・避けては通れないんだね。
認める事が、こんなに苦しいなんて・・・
胸が張り裂けそうだ。
君は大石を想い・・・
僕は君を想う・・・
不毛な恋
僕達は似ている・・・
報われない想いを抱きながら、それを捨てることも出来ない。
そう・・・あの氷帝戦を見るまでは、僕は君と僕は似ていると思っていたんだ。
不二が自分の想いを認めた時の話・・・なんですが・・・なんだか暗い☆
たぶん手塚が暗いから、不二まで暗くなってきたんだと・・・
(手塚のせいにしてしまいました☆手塚ファンの方すいません・・・☆)
しかし・・・もう暫くやはりこのペースで進みます。
なんとか、みなさんついて来て下さい☆
2007.5.29