「大石っ! 最近変じゃない?」
「えっ?」
不二とタカさんとのダブルスの練習が終わり、コートから出ると、すぐに英二が話しかけてきた。
「今、練習してた時も、たまにボーっとしてたし、いつもの大石らしくないじゃん?」
英二が顔を覗きこんでくる。
それは・・・英二の誕生日の事を思い出してたんだけどって・・・
そんな事言えないよな・・・
「ハハハハハ・・・そうか?」
「そうだよ!絶対変! なんか悩み事あんのか?」
「えっ?」
いや・・・だから・・・それは・・・言えないんだよ・・・
「恋人の俺にも言えないことか?」
「英二・・・」
英二が不安そうに、俺を見ている。
こんなに英二を不安にさせて、俺は何をやっているんだか・・・
「いや・・・ホントに大丈夫だから・・・少しだけ、疲れてただけだから」
そう言って、俺は英二の頭をそっとなぜた。
「ホント?」
「ホント!ホント!」
「じゃあさ。今日は大石の家に行くのは駄目だよなぁ〜」
「えっ?あっ・・うん。今日はちょっと・・・疲れてるから・・・また今度な」
「そっか・・・うん。仕方ないよな・・・でもクリスマスは大丈夫だよな?」
「もっもちろん。大丈夫。ちゃんとあけてあるから」
「うん。ならいいや!今日は勘弁してやる!」
バンっと俺の背中を叩いて、英二が先に部室に向かって走り出した。
「あ痛っ!!英二っ!!」
・・・まったく・・・ハァ〜〜〜〜〜〜
今日は何とか誤魔化せたけど・・・
あの日以来、英二は俺の家に来たがる。
来るのは別にかまはないんだ・・・
一緒に宿題をしたり、雑誌を読んだり、ゲームをしたり・・・
英二と一緒にいると楽しいし、うちの家族も、特に妹なんて英二に懐いてるから、来ると凄く喜んで・・・・
ココまでは、いいんだよ・・・問題は・・・その後。
宿題をした後、雑誌を読んだ後、ゲームをした後・・・・
英二がキスをしたがるんだ・・・
俺の横に来て、あの目で見つめてくる。
俺は拒む事も出来なくて、なるべく英二の目を見ないように・・・
抱きしめてしまわないように・・・すごく気を使って・・・
それなのに、英二は俺からキスしない事に拗ねて怒るし・・・
俺は『そのうちな・・・』って曖昧に誤魔化して・・・・
ホント疲れる・・・とても疲れる・・・
俺の理性はもうかなり限界なんだけど・・・
英二わかってないんだろうな・・・
だからなるべく、英二を家に入れないように、二人っきりにならないようにって頑張ってはいるんだけど・・・
クリスマスは既に英二に先手を打たれていた。
『クリスマスは絶対二人で祝うぞ!』って・・・
ホントなら凄く嬉しい事なのに、なんだか気が重い・・・
どうしたものか・・・
こんな事・・・誰にも相談出来ないし・・・ホント参ったな・・・
「大石っ。いよいよ明後日だな」
「ああっそうだな」
「明日はおとなしく家族とクリスマスして〜明後日は大石。へへっ完璧じゃん」
「完璧って・・・」
嬉しそうにクリスマスの予定を話す英二を見ながら、とうとう明後日か・・・
と未だに悩んでいる俺がいる。
結局自分の中の答えを見つける事が出来なくて、相変わらず英二とちゃんと向き合えないまま今に至っている。
その事を英二に悟られないようにするのも、かなり限界がきていた。
「それでさぁ〜クリスマスなんだけど・・・くしゅん!」
何かを話しかけて、英二がくしゃみをした。
そういえば、最近よくくしゃみをしたり、咳き込んだりしている。
「大丈夫か英二?」
俺は英二のおでこに手をあてて、顔を覗きこんだ。
「平気!平気!大丈夫だって!!」
ホントかな?少しおでこが熱い気がしたけど・・・
英二は『そんな事よりさ』とまた話し始めた。
「クリスマスは一緒に丸いケーキ食おうぜ!」
「丸いって・・・ホールって事?」
「そうそう!丸いやつ!アレ食べたい!」
「でも、それって前の日に家族で食べるんじゃないのか?」
クリスマスといえば、我が家でも当然のようにケーキが出てくる。
クリスマスのメインの1つだ。
だから、英二も当然食べているはずって思って言ったけど、英二は眉をしかめている。
「それとこれとは別じゃん!俺はちゃんと大石とクリスマスパーティーがしたいの!クリスマスといえば、クリスマスケーキだろ?ホント大石はわかってないんだから」
イヤ・・・わかってるつもりだけど・・・
そんなに、ケーキを毎日食べれるかな・・・
そう思いながら横にいる英二を見ると、『ホントにもうっ』と膨れている。
その膨れた顔が可愛くて、ついつい頭をなぜてしまう。
結局英二には敵わない・・・
「わかった。じゃあ当日一緒に買いに行こう」
「ホント?やりぃ!!」
英二の喜んでいる姿を見ていると、自分の悩んでいる事を忘れそうになる。
こんなに喜んでいるんだから・・・
取り敢えずクリスマスは、楽しく過す事だけを考えよう。
そう思い始めていた。
学校はすでに冬休みに入っていたけど、部活は毎日変わらずある。
それはクリスマス・イヴ当日でも関係なく、俺はいつものように手塚と練習メニューの確認をしていた。
そこへ不二が現れた。
「えっ?英二が休み?」
「そうなんだ。今朝家を出る前に電話があってね」
「それで、どんな様子だった?」
「うん。今日は取り敢えず休むって。明日までには治すって言ってたけど・・・かなり咳き込んでたね」
「そうか・・・」
そういえば、こないだからよくくしゃみをしたり、咳き込んだりしていたよな・・・
もっと俺が英二の事を気遣っていれば・・・・
昨日だって・・・おでこを触った時、熱いって思ったのに・・・
自分の事ばかり考えてて、英二の体調の変化を見落とした事を悔やんだ。
「練習終わったら、一緒に様子見に行ってみる?」
「そうだな・・・イヤ・・俺一人で行くよ。不二に英二の風邪がうつってもいけないし」
「それは大石だって一緒じゃ・・・まぁいいか。君に任せるよ」
そう言って不二は微笑んだ。
英二が練習自体を休むのは珍しい。
朝が弱いから、ごくたまに遅刻をする事はあるけど、それでも練習にはちゃんと顔をだしていた。
それだけ、風邪の状態が悪いって事か・・・
よりによって、クリスマス・イヴに・・・相当落ち込んでいるんじゃないかな?
そう思うと練習にも集中出来ず、いつもならしないようなヘマばかりした。
練習が終わって、本当ならすぐにでも英二の家に向かいたかったけど、3年生が引退した後、副部長になった俺は同時に鍵当番になっている。
だから帰るのも必然的に最後になった。
それがこんなにもどかしいと思う日がくるなんて、英二の事が絡むと自分でもビックリするぐらい平常心じゃいられない。
それでも表向きはなんとか副部長としての威厳を保ちつつ、最後の一人まで見送って、部室の戸締りを確認した後、英二の家に向かった。
「ごめんね大石くん。せっかく来て貰ったけど、英二まだ熱があってね。寝てるのよ。
この調子だと、明日もテニスはお休みすると思うんだけど、先生に伝えておいて貰える?」
「はい。わかりました。英二くんにお大事にって伝えて下さい。後、無理しないように」
「ええ。わかったわ。本当にありがとう」
「いえ。そんな・・・また明日お伺いします。では失礼します」
「本当にありがとう大石くん。さようなら」
玄関先で出迎えてくれたのは英二のお母さんで、結局英二には会えなかった。
どうやら病院には行ったみたいだけど、まだ熱が下がらないらしい・・・
出来れば英二の顔を見て帰りたかったけど、寝てるんじゃ仕方ないよな・・・
玄関先を出て少し歩き、英二の事が気になって、英二の部屋のある二階の窓を見上げた。
そこに人影らしきものが見えたが、スッと消えてしまった。
英二・・・?
一瞬だったからよくわからなかったけど、何となく英二が見ていた気がする。
まさかな・・・寝てるって言ってたし・・・英二の部屋にはお兄さんもいるから・・・
お兄さんだったかも知れない・・・
そう思おうとしたけど、やっぱり英二だったような気がして、暫くそこから動けなかった。
明日は無理かな・・・部活も・・・・
英二が楽しみにしていたクリスマスも・・・
二人だけのクリスマスパーティー
それなのに俺・・・気が重いなんて・・・思ってごめんな。
大石反省の日々?(残り1ページ)