赤い水中花


                                                        (side 英二)


ホントに毎日何でこんなに暑いんだろ?

誰かが、暑い時は反対に涼しいって思えば、涼しくなるって言ってたけど・・・

アレは嘘だな・・・暑い時は暑い!

涼しいなんて想像してる間に、頭沸騰しちゃうよ。

だから俺は涼しいなんて思わないし、暑い時はアツイ!って叫ぶ。

そんでもって、気持ちを発散させるんだけどさ・・・

今日は、流石にバテた。

毎日こんなに暑かったら、体力続かないよ・・・

だけど・・・俺のこの体力のなさが、大石を心配させるんだよな・・・

わかってるのに、今日は体がゆう事を効かない。

本当は心配顔のアイツに『大丈夫だよ!大石っ!』って言ってやりたいのに実際はコートからこの木陰まで連れてきて貰って

今は俺の為にタオルを濡らしに行って貰っている。

俺は寝転がりながら、自分の体力の無さを、持久力のなさを改めて考えた。

これじゃあ・・・駄目だ。

大石の足を引っ張っちゃう・・・

何とかしなきゃ・・・

いつの間にか俺は、どうしたら体力が付くか?持久力が付くか?って事ばかりぼんやり考えていた。

そんな時に、風がすっと通って木の葉を揺らした。

揺らされた木の葉から、光がキラキラ差し込んでまるで水面のようで・・・

俺は水底から水面を見上げてるような感じで・・・

アレ・・?何だろ?不思議な感じだ。

こうゆうのデジャブっていうのかな?

今日見た夢も、こんな感じだった。

力を入れたいのに入らなくて、どんどん水底に落ちていく夢

凄く不安で、何度も大石の名前を呼んだ。

大石っ・・・大石っ・・・て

それで目が覚めたんだ。

起きた後も何だかドキドキして、汗いっぱい掻いて凄く怖かった。

あの夢は一体何だったんだろう?

俺は両腕を伸ばして、夢の再現をしてみた。

背中から水底に落ちる俺は、コの字型で落ちてるって感じだった・・・

怖いのに・・・水面はキラキラしてて綺麗で・・・



「何やってるんだ?」

「わっ!!」



タオルを濡らしに行っていた大石が、急に顔を出すから驚いた。

急に至近距離で、顔見せんなよ!



「何でもないよ!」

「ホントか・・・?」



大石が眉を顰めてる。

まぁ確かに・・・寝転がりながら両腕を空に向けて伸ばしてて、何でもないはないな・・・

でも大石に夢の話はしたくなかった。

今も心配かけてんのに、こんな夢の話しても・・・

大体よくわかんない夢だしな・・・

俺はちょっと恥ずかしくて、そのまま目を瞑って大石に、顔の上にタオルを置いて貰うように頼んだ。



「じゃあ英二。暫くこのままジッとしてろよ」



えっ・・・?

俺の顔にタオルを置いた大石が、そのまますぐに立ち上がる気配がした。

俺は乗せてもらったタオルを剥ぎ取って、急いで大石の腕を掴んだ。



「何処行くの?」

「竜崎先生に昼からの練習の事で相談に行ってくる」



立ち上がろうとしていた大石が、顔だけこっちに向けてる。



「すぐ行かなきゃ駄目?」

「そうだな。みんな相当バテてるみたいだからな・・・午後練を今日は休みにして貰えないかって相談だし・・・」


そっか・・・そうゆう事なら仕方ないよな・・・

でも変な夢思い出しちゃったから、すぐに俺の傍を離れて行ってしまうのは寂しい。

何ていうか・・・不安なんだ・・・だけど・・・大石に迷惑もかけられない・・・



「じゃあ・・・あと1分でいい。傍にいて」

「あぁ。わかった」



優しく微笑んでくれた大石は俺の横に座り直してくれて、1分って約束は・・・5分位まで伸びた。



「じゃあ英二。俺、竜崎先生探してくるから」

「うん」



そう言って約束どおり・・・多少時間はオーバーしたけど・・・

俺の横を離れた大石は、すみれちゃんを探しに行った。


大石行っちゃったな・・・

暫く横になってごろごろしてたら、体が少し楽になったきた。

大石はジッとしてろって言ってたけど・・・・もういいよな。


俺は目の前を通りかかった海堂を捕まえて、半強制的にコートの中に入り練習を再開した。

そして軽くラリーをしていたら、ようやく大石が現れた。

スタスタと真っ直ぐ俺の所にやってくる。

ラリーの最中だっていうのに、わざわざそれを止めさせてコートの中まで入って来た。



「英二!動いて大丈夫なのか?」



ホント大石は心配性なんだよな。

まぁ俺が心配かけるような、バテ方したんだけど・・・



「うん。もう大丈夫!少し横になったから復活した!」

「そうか・・・でも、あんまり無理はするなよ」

「わかってるって。で、大石の方はどうだったんだよ?スミレちゃんと話ついたの?」

「あぁ。昼からの練習は無くなった。午後からはみんなに体を休めて貰う」

「そっか。じゃあ昼からはフリーなんだ!」



休みって聞くと何だかテンション上がるよな。

それまで少しだけ楽になったかな?って思ってた体が、また楽になったような・・・

声まで元気になっちゃって・・・俺ってゲンキン。

たぶんそれが顔にも出たんだな・・・



「英二。あくまで体を休める為の休みであって、遊ぶ為に休みにして貰ったんじゃないぞ」



大石に釘を刺された。

チェッなんだよ・・・体楽になったんだからさ、少しぐらい遊んでもいいんじゃないか?



「なんだよ。大石のケチ」

「ケチって・・・そんな言い方はないだろ?」



コートの中で言い合っていたら、いつの間にか乾が俺達の間に立っていた。



「すまないが、後18分と45秒、午前中の練習が残っている。言い合うならコートを出てからにして貰えないか?」



俺達は一斉に乾の方を見て、顔を見合わせた。

そういえば、俺がラリーしてたのって海堂だった・・・

相手コートを見たら、海堂がジッと俺達の様子を見ながら待っている。



「残り18分と30秒・・・」



ううっ・・・乾の奴・・・



「わかったよ!コートから出るって!大石いこっ」



俺は大石の腕を掴んで、コートから出た。

だけど・・・出たのはいいけど、改まって話って何かしずらくて俺達は暫く、乾と海堂のラリーを見ていた。

どうしよう・・・ここは大石の言うとおり、昼からは家で大人しく過ごすしかないかな・・・

そんな事を考えていたら、大石から不意に声をかけられた。



「英二・・・本当に大丈夫なのか?」



これは・・・ひょっとして、遊んでくれんのかな?って思うと、自然と体に力が入っちゃって、俺は思わず大石の腕を掴み直して答えていた。



「ホントにホントに大丈夫だから!」



大石はそんな俺を見て、苦笑していた。







まだまだ続きます。(残り2ページ)