よしつねせんぼんざくら
義経千本桜


【別の名前】
各段がミドリで上演されることが多いので、その名前がタイトルとなることが多い。
が、超有名演目なので、どこかに必ず「義経千本桜」の名前が入っているはず。

【見どころ】
もし平家の武将が生きていたら・・・という設定と、
親を慕う子狐の登場が義経の物語に意外性と膨らみを持たせている。

「鳥居前」は芝居の序盤。
忠信が静をボディガードすることになるくだりが展開されます。
敵役として登場する早見藤太は半道敵。見るからにヘンテコで笑えます。
その藤太をやっつける忠信は、ここでは荒事で登場。
幕切れの幕外での狐六法も見ものです。

もし知盛が生きてたら、というのが「渡海屋」の場から「大物浦」の場にかけて。
碇綱を身体に巻き付けて入水自殺をする見せ場から「碇知盛」とも呼ばれます。
合掌し仰向けのままで真後ろにダイブするところは、つい唸っちゃう。

「道行初音旅」は静御前と彼女に付き従う狐忠信の舞踏劇。
桜が満開の吉野山を舞台にしていることから「吉野山」とも呼ばれます。
きれいである(が、苦手な踊りでもある。苦笑)

「木の実」に続く「小金吾討死」独創的なタテが見もの。
放射状に張られた捕手の縄の中央で見得を切る手負いの小金吾が実にカッコイイ。

もし維盛が生きていたら、というのが世話物的な味わいの強い「鮨屋」
小悪党のいがみの権太が本心を語るもどりの演技が見どころで、泣ける一幕。

「川連法眼館」は原作の浄瑠璃では四段目の切りにあたることから
「四の切」とも呼ばれる人気場面で、狐忠信が登場。待ってましたぁ!
主役が狐だけに、けれんがふんだんに用いられていて、
ほんとにもう、見ていてワクワクする面白さ。
それだけでなく、子狐の親を慕う情感が豊かに伝わってきて感動する。
この段の幕切れは、家によって型が違うのも見どころ。

どれか一幕を見るのなら、まずは「川連法眼館」が個人的趣味からいちおしだが、
通しで見ても全幕に見どころがいくつもある素晴らしい芝居である。

【あらすじ】
平家を滅ぼして都に凱旋した義経だが、
平知盛、維盛、教経の首が偽首だったこと(芝居の大前提なんで覚えておいてね〜)
さらに後白河法皇から初音の鼓を賜ったことから、兄頼朝から追われる立場に。
鼓を打つは頼朝を討つ、という意味が秘められていたのだ(こじつけっぽいけど)

「鳥居前」
わずかな家臣と都落ちし伏見稲荷までたどりついた義経を追ってきたのは
愛妾静御前。いっしょに連れていってくれと懇願されても女を同道するは無理と、
静を傍らの梅の木に縛りつけ(ヒドイじゃん!)主従は去っていった。
そこへ、義経を探し回る早見藤太(こいつが半道敵でヘンなヤツなのさ)がやってくる。
静を見つけ、初音の鼓もろとも引っ立てようとした時、
義経の忠臣佐藤忠信勇ましい姿で駆けつけ、静の窮地を救う。
戻ってきた義経は忠信の手柄をほめ、源九郎の名と鎧を譲り、静を託していく。

「渡海屋」
都落ちした義経主従、摂津は大物浦にある船宿「渡海屋」に身を潜めていた。
そこへ北条時政の家来たちが義経の追手としてやってくる。
手荒なことをするふたりを店主の銀平が懲らしめ追い返し、船出を急ぐことにする。
こうした銀平の義侠心に感謝する義経だったが・・・。
どっこい、銀平は実は平知盛(出たぁ!実は○○、がほ〜んと好きなんだから歌舞伎って)
同様に、娘のお安はひそかに助けていた安徳帝女房は安徳帝の乳母の典侍の局
世間の目をごまかし、宿敵義経を討つ機会を狙っていた(!)のだ。
白装束に身を固め、待ちに待った時が来たと胸を張る知盛。
自らを西海に沈んだ知盛の亡霊にしたて沖合で義経を討つ手はずにする。
(海での恨みは海で晴らす、ってことね。芝居がかった手を、って芝居だった。笑)

「大物浦」
衣裳を改めた典侍の局幼帝が戦況を案じているところに、知盛苦戦の知らせ。
典侍の局は幼帝を抱き上げ身を投じようとするが、
いつのまにか(ほんと、いつの間にぃ?)戻ってきた義経主従に止められる。
一方、幼帝の身を案じた知盛は、深手を負いながらも大物浦に戻ってくる。
裏をかいたつもりがバレバレだったことを知り悔しがるが、抵抗する余力がない。
幼帝も、義経を仇に思うな、とか言ってくれるし・・・。
それ聞いた典侍の局は自害しちゃうし・・・。もはや、これまで!
知盛は碇綱を身体に結びつけ入水する(これが、あ〜た、スゴイの。必見よん)

「道行初音旅」
今は吉野の山中に身を隠している義経をたずねる旅に出た静御前
その胸にしっかりと抱かれているのは初音の鼓
義経を思って初音の鼓を打つと、いずこからともなく忠信があらわれた。
その忠信は義経からもらった鎧を背負っている。
静は夫を、忠信は主君を慕っての旅である。きれいだよ〜ん。でも舞踏劇だよ〜ん。)

「木の実」
大和は下市村の村外れの茶屋で旅の疲れを癒すのは
平維盛の御台所若葉の内侍と若君の六代の君、そして旧臣の小金吾
若君のなぐさみに椎の実を拾っているところに男があらわれ金を強請ろうとする。
いがみの権太とあだ名されるならず者だ。
騒ぎを起こしたくない小金吾は、仕方なく金を出して去っていく。
この様子を物陰から見ていた茶屋の女房、実は権太の女房小せんは夫をいさめる。
女房の言うことには聞く耳を持たぬ権太だったが、息子にせがまれて家に帰る。

「小金吾討死」
追手に行く手をはばまれ、若葉の内侍たちと離れ離れになってしまった小金吾
大勢の追手を相手に派手な大立ち回り(カッコイイっ!)をするが、
多勢に無勢、ついに息絶えてしまう。

「鮨屋」
下市村にある釣瓶鮨屋。ここにいる下働きの弥助こそが、実は平維盛
店主弥左衛門がかくまっていたのだ。その弥左衛門は娘のお里は維盛とも知らず、
弥助にぞっこん。ウキウキはしゃぐほどに、まだ若い(可愛いよぉ)
夜も更けたころ、一夜の宿を乞いやってきたのは、なんと若葉の内侍六代の君
初恋が破れて泣きぬれるお里だったが、追手の手から親子三人を逃がそうとする。
それを見ていたのがいがみの権太(実はお里の兄で、勘当の身の上)
三人を売って金にすると言い捨て駆け出していく(あんれ〜、どうなんのぉ?!)
入れ違いに、追手の梶原景時があらわれ、維盛の首を討って出せと迫るところに
権太が若葉の内侍と六代を縛り上げ、維盛の首を鮨桶に入れて持ってくる(げげっ!)
梶原が帰った後、弥左衛門は怒りの余り、我が子権太をブスリと刃で刺す。
が、実はすべて権太が仕組んだ身代り劇であったことが判明する。
権太の女房が若葉の内侍に、権太の息子が六代に化けていたのだ!(よよよ・・・)

「川連法眼館」
一方、義経主従は吉野の川連法眼の元にかくまわれていた。
そこへ佐藤忠信が義経を訪ねてくる。静もいっしょかと思えばさにあらず、
預かった覚えもないと言う忠信に疑いをかける義経。
すると、再び静の供で忠信が来たという取り次ぎの声忠信がふたり?!
心当たりがあるという静御前に詮議が任されることになった。
ひとりになった静が初音の鼓を打つと、
どこからともなくもうひとりの忠信があらわれた!(ここ、驚くよぉ!)
鼓の音色に聴き入っている忠信の油断をついて切りかかる静。
ヒラリとかわす忠信(この辺り、身が軽くないといけないのよ。見れば分かるけど)
正体を尋ねると、実は、初音の鼓の皮は親狐で、自分はその子どもだと言う。
親恋しさの一心から鼓を持つ静の供をしてきたのだ、と(泣けるざます)
奥の間で仔細を聞いていた義経は、源九郎狐に初音の鼓を与えることにする。
喜びにうちふるえる源九郎狐(よかったねーっ!で、またもや涙、涙)
そのお礼なんでしょう。夜討ちを企てた悪僧どもを化かして館に引き入れ、
狐の神通力で懲らしめると、初音の鼓を手にいづこかへ(パチパチパチ。拍手喝采)

以下、吉野の山中で、忠信と平教経の激しい一騎打ちとかがあって
最後の幕となるみたいだが、あまり舞台にはかからない。

【うんちく】
竹田出雲、三好松洛、並木千柳の合作。延享四年(1747年)人形浄瑠璃で初演。
その翌年、すぐに歌舞伎化された丸本物の傑作で、三大名作のひとつ。