さくらひめあずまぶんしょう
桜姫東文章

【見どころ】
高貴な生まれのお姫さまが、実は稚児の生まれ変わり
好きな男の言われるまま女郎になるという趣向がいかにも南北らしー作品。
発端は白菊初々しさが見ものかな。初々しいけど、どっかインビなのさ〜。
桜姫釣鐘権助と再会するシーンはいわゆる濡れ場なんだけど、
髪梳きなんつー奥ゆかしいやらじれったいやら(笑)のしっぽりさ加減じゃなくて、
ずっぽりと濡れ場でするぅ。あ〜〜〜れ〜〜〜!(←ヲイ。笑)
清玄が殺される岩淵庵室は、荒れきった屋台のしつらえがいかにも南北ちっく。
ここで愛する権助と再び出会った桜姫が男の言うなりになって小塚原の女郎に売られ、
やがて風鈴お姫と呼ばれる立派な?女郎になって帰ってくるわけだが、
鉄火な伝法言葉と姫様言葉を混合したせりふを言うのが実におもしろいざんす。
清玄と権助の、ひとり2役の早替りも見ものでする〜。
ところで、「桜姫東文章」が上演されるときは通しが筋なんじゃなかろうか。
ミドリじゃ、この作品のおもしろさが十分に伝わらないかもなぁ・・・。

【あらすじ】
「江の島稚児ヶ淵の場」
長谷寺の所化清玄と相承院の稚児白菊丸衆道の仲。
この世で結ばれるのが叶わぬならと心中を決意し、稚児が淵までやってきた。
ふたりは互いの香箱の蓋に名前を書き、中身を入れ替えて肌身離さず持つことにした。
これが未来までの愛の証・・・。そして、まず白菊丸が海へ飛び込んだ。
が、その水しぶきを浴びた途端、清玄は気後れして、その場にヘタり込んでしまう。
すると海中より、怪しい火の玉が浮かび、岩陰からは白鷺が一羽飛び立った。
おそらくは白菊丸の・・・。怖じ気づいた清玄は、ただただ念仏を唱えるのだった。

「新清水の場」
それから17年後。鎌倉は新清水に、吉田家の息女桜姫の一行がやってくる。
桜姫は生まれながらに左手が開かぬ奇病ゆえ縁談も決まらず、
また、父親と弟は何者かによって殺害され、家の重宝都鳥の一巻も喪失し、
御家の存亡の危機にあった。度重なる不幸に、桜姫は剃髪を決意したというわけだ。
そんな境遇を不憫に思い、いまは阿闍梨となった清玄が称名を唱えたところ、
なんと不思議なことに姫の左手が開き、中から香箱がこぼれ落ちた。
その香箱の蓋には「清玄」と名前が刻まれていた。それを見て驚く清玄。
桜姫は白菊丸の生まれ変わりか・・・(ってこたぁ、桜姫は17歳ってことねん・・・)
そこへ姫の弟の松若がやってきて剃髪を思いとどまるよう頼むが、姫の決意は固い。
元許婚の入間悪五郎も供の松井源吾を連れてなぜかやってきて、
奇病が治ったのなら結婚しようと言いだす。見るからに悪そうな名前のこの男、
やはり悪人で、吉田家の横領を狙っているのだ。
しかし、桜姫づきの局の長浦に一蹴されて苦虫を噛みつぶす。
が、何とかしやしょうと名乗り出たのは中間の釣鐘権助
こいつ、なぜか都鳥の一巻を持っている。怪しいヤツめ・・・。
・・・かくして、登場人物ご紹介の段は終わるのであった。

「桜谷草庵の場」
剃髪を決意して経文を読んでいた桜姫のもとへ権助が悪五郎の使いとしてやって来る。
最初は取りあわなかった桜姫だが、権助の腕の彫り物が目に入った途端に態度が変わり、
長浦をはじめ供の物を去らせてふたりっきりに。
恥ずかしそうに袖をまくった姫の腕には、なんと釣鐘の彫り物が!
実は、以前、桜姫は吉田家に盗みに入った権助と肌をあわせていたのだった。
はじめての男がわすれられず、権助の腕にちらりと見えた刺青をまねて
じぶんの腕にこっそりと彫ったというから、なんとまぁ・・・。
そのうえ、そのとき赤ん坊を身ごもったのだが、これまた密かに生んで、
今はどっかに預けてあるとか。姫さま、やるねぇ(笑)
でもって、恋しい男に会えたからは、と尼さんになりたい気持ちもどこへやら、
御簾をおろして権助としっぽりと・・・。
だが、これを悪いやつらに見とがめらた。権助は体よく逃げたのだが、
桜姫は持っていた香箱の名前から不義の相手は清玄ではないかと追及される。
いえいえ相手はどこの誰ともわからぬ盗賊です、とは言えない桜姫。
濡れ衣を着せられた清玄だが、白菊丸の生まれ変わりである桜姫の罪を被る
こうして、ふたりは追放されることになった。

「三囲(みめぐり)の場」
三囲神社に、今は乞食同然となった清玄がとぼとぼとやってくる。
その腕には、深い縁で結ばれた桜姫が生んだ赤ん坊が抱かれている。
赤ん坊は百姓夫婦に預けられていたのだが、姫がお家追放となってからは
養育費が払えなくなり、百姓夫婦はしかたなく、清玄に赤ん坊を託したのだった。
やがて桜姫も破れた傘に身を隠しながら、神社の境内にやってきた。
清玄は桜姫に、桜姫は我が子に会いたいと願いながら、互いに気づかずにすれ違う

「岩淵庵室の場」
清玄桜姫とともに、やはり不義の罪で追放された
清玄の弟子残月長浦といっしょに住んでいた岩淵の地蔵堂に、
葛飾のお十という若女房が、なくした子の回向に訪れた。
実は、ここには、桜姫の赤ん坊を連れた清玄がやっかいになっていたのだが、
その赤ん坊が泣くのを聞きつけて、お十が預かろうと言いだす。
渡りに船とばかり赤ん坊をお十に預けた残月と長浦は、今度は清玄から金を盗もうと、
青蜥蜴を煎じた毒を無理やり清玄に飲ませようとするが抵抗され、
しかたなく首を絞めて殺す。が、金とばかり思っていたのは例の香炉でガッカリする。
やがて女衒に連れられて女がやってきた。編笠を取ると、なんとそれは桜姫
すけべな残月は桜姫に言い寄ろうとするが、そこへ権助が割って入り、
残月は長浦ともども身ぐるみをはがされ追いだされてしまう。
やっと愛しい男と会えたと喜ぶ桜姫。権助にとっても姫は可愛い女だが、
どうも姫様言葉が気に入らないから、いっそ女郎にして(ヲイヲイ、何でそうなる?! 苦笑)
世話にくだけさせようと女衒の所へ相談に出かける。
ひとり桜姫が残されると、死んだはずの清玄が息を吹き返し
白菊との因縁を恨めしく語り、いっしょに死のうと出刃を振りかざして襲いかかった。
懸命に逃げ惑う桜姫を追ううち、清玄は権助の掘った穴に落ち、
はずみで喉笛を出刃で突いて死んでしまった。
ほどなく権助が戻り、ほっと胸をなで下ろす桜姫。姫の勤め先も決まったと
出かけようとすると(どろどろ・・・)なんと権助の顔が清玄に
振りきって出ていくふたりを、人魂が追いかけていく。

「山の宿権助住居の場」
権助は、桜姫を売った金で長屋を買い大家におさまっていた。
その長屋には、桜姫の子どもを預かったお十も夫の仙太郎と住んでいた。
ある日、町の衆が捨て子を連れてきた。それは、お十が預かっていた例の赤子。
とすれば仙太郎が子どもを捨てたのかと、権助は罪を言い立て、
金の代わりにお十を置いていけと言う。仙太郎は何か考えでもあるのか、
お十を置いて去っていく。やがて、女衒が桜姫を連れてやって来た。
桜姫は、今では「風鈴お姫」と異名をとって人気女郎となっていたのだが、
その枕元に幽霊が出ると怖がられ客足が遠のき、権助のもとに返されてきたのだ。
金を返せと言う女衒に、強欲な権助は、代わりにお十でどうだと持ちかける。
お十もお十で、嫌がる素振りもなく、簡単に了解する。何で〜〜〜?
と思ったら、なんと、仙太郎は実は吉田家の旧臣粟津七郎で、
主家の息女の難儀を救うため、自らの女房を納得ずくで差し出したのだった。
(とか言われてもなぁ・・・なぜに、そこまで?! だいたい姫は好きでやってんのにねぇ。苦笑)
なんにせよ、お十も去り、権助は町の寄り合いに出かけて行って、
姫は、それが我が子とも知らずに、赤子とふたりきり、権助内に残された。
と、いつものように清玄の幽霊が現れた。慣れたのか度胸のすわった姫は悪態をつく。
すると清玄の幽霊は、赤子は姫の子(うんうん)権助は自分の弟だと言う(えっ?!)
姫はがく然(こっちも唖然。そりゃまた意外な事実でんな〜。どっからそんなことを???)
それでも必死に我が子に近づこうとする姫。それを清玄が邪魔をするので、
権助から手渡されていた刀を抜いたら、不思議なことに清玄の幽霊は消え去った
そこへ酔っぱらった権助が帰って来た。その袂から密書が落ちる。
それには「松井の源吾様へ、信夫の惣太」と書いてあった。
姫は密書を懐におさめ、何食わぬ顔で権太に酒を飲ませ、昔のことを聞こうとする。
権太も酔いにまかせ、昔の悪事をぺらぺらと喋りはじめた。
以前、権太は信夫の惣太という侍で、都鳥の一巻を持っていた吉田少将を殺し
梅若という若衆も殺した、と。(つまり桜姫の父親、弟を殺したのは権助だったとゆーわけ)。
やがて眠りこけた権助の懐から都鳥の一巻を取り上げ、桜姫は家の再興を誓う。
そして、可愛い我が子でも敵の子と赤子を刀でグサリ! 権太も討ち取るのだった。

この後、大詰めの「三社祭の場」があるのだが、演出はいろいろみたい。
いずれにしても、桜姫はもとの高貴な姫の姿に戻って御家を再興する。

【うんちく】
文化十四年(1817年)初演。作者は四世鶴屋南北。
清水寺の僧清玄が桜姫の色香に迷い堕落したあげく殺され、その執念やまず、
桜姫にしつこくつきまとうという内容の清玄桜姫の世界が元にあるが、
南北はこれに江の島の稚児ケ淵伝説(自久という坊さんが白菊という稚児に恋をし、
ともに手を取りあい心中し、江の島の海の藻くずと消えたという)を入れ込み、
桜姫を清玄が可愛がっていた稚児白菊の生まれ変わりとした。
さらには吉田家のお家騒動を綯い交ぜにし、御家物としての決着のつけ方をしている。
また、当時の江戸の巷の話題も巧妙に仕組んであり、
これが「風鈴お姫」という特異なキャラクターを形成することになった。
巷の話題というのは、当時、品川の遊女屋に、官女の格好をして
京の日野超納言の息女と称する遊女がいて、評判をとっていたらしいんですね。
が、この遊女自体は、三日月おせんという女郎が頼まれて十二単の官女に化けて
敵方に乗り込んだという歌舞伎の話を逆手にとってたそうなんですけどもね。
結局、偽物とバレで追放されちゃったらしいんですが、
客もわかってて足しげく通ったのだろうに、ねー(笑)ま、おもしろい話です。