きいちほうげんさんりゃくのまき
鬼一法眼三略巻

【別の名前】
             きくばたけ  いちじょうおおくらものがたり
よく上演される段の名前が 「菊畑」 「一條大蔵譚

【見どころ】
菊畑」の方については、残念ながら、ほとんど記憶にございません。
きれいな色がいっぱいだった、という残像のみ・・・(寝てたのかなー。苦笑)
なんで「一條大蔵譚」の方だけを主に解説いたしまするが、
こいつぁ、おもろいですぜー(笑)。とくに前半部分の阿呆の大蔵卿が!
他の人のしどころなのに、大蔵卿から目が放せない! 困るーーー!
っつーほど、めちゃ面白いでおま(笑)
あ。そうだ、ここでちょっと補足説明しとくと、歌舞伎って演劇は、
基本的に、誰かが何かをしていたら、他の人はじっとしてるものなのね。
そうゆー約束事みたいなの。微動だにせず、じっと息を殺してるふうにも見える。
最初見たときは、何してんのかなー???と思ったですよ。
そのうちに、あぁ、そうか、画面から消えてるんだー、と納得しました。
つまり、登場人物が一度に動いているときは“引きの画面”で、
誰かがせりふを言ったり見得をしたりするときは、そこだけ“クローズアップ”なのね。
だから、他の役者さんは息をひそめて画面から消えてるんだろう、と。
わっちゃぁ、これを勝手に“歌舞伎の映画的手法”と呼んでたりするんだけど・・・。
で、話を戻すと、大蔵卿は決して画面から消えないの(笑)。出ずっぱり(爆)
お京が舞を舞ってる間、他の人は消えてるのに、大蔵卿は遊んでるんだもの!!!
いったい、どこ見りゃいいのーーー?と困るので、
前の方の席じゃなく、なるべく引きの画面でご覧くだされ(笑)
で、この大蔵卿がキリリと引き締まった態度で登場してくるのが、後半の「奥殿」の場。
これまでの阿呆ぶりは実はつくり阿呆だった、というのが語られる場面では、
ぶっかえりという演出もござりますれば、とくとご覧あれ。

【あらすじ】
源氏に味方した罪で切腹して果てた熊野の別当弁真の妻は、7年以上前に
なぎなたを授かる夢を見て懐妊したが、いまだに出産していない。
身重だというのに、清盛の命令で殺されてしまうのだが、
なんと、その傷口から大きな赤ん坊が生まれた。
この子は鬼若丸と名づけられ、書写山の阿闍梨のもとに引き取られた。
それから十三年後、弁真の娘お京は許婚の鬼次郎と巡り合って夫婦となり、
書写山を訪れ、大きくなった鬼若丸に出生の不思議を語る。
それを聞いた鬼若丸は、名前を弁慶と改める。
ところで、鬼次郎の長兄鬼一は京都に住み、平家に仕えていた。
清盛から「持っている兵法の虎の巻を差し出せ」と催促されていたのだが、
鬼一は病気を理由に渡すのを一日延しに延していたのだった。
・・・という話が、本来は前段にあって「菊畑」がはじまります。

「菊畑」
あまり覚えがないので(すんません)簡単に。
源氏の再興を志す牛若丸は家臣の鬼三太とともに、虎の巻を手に入れようとします。
それぞれ虎蔵知恵内と名前を変えて、鬼一の館に奉公するのですが、
それを知った鬼一は(って、兄弟だもん、そりゃバレるだろー。苦笑)
実は鞍馬山で牛若丸に兵法を授けたのは自分だと明かし、牛若丸に虎の巻を与え
源氏と平家の二君に仕えた身を恥じて切腹して果てるのだった。
(・・・というのが大筋。改めて見たら、もっと詳しく紹介しますねー。)

「一條大蔵譚」
「檜垣茶屋」
牛若丸の母親である常盤御前は、夫亡きあと、敵の清盛に身を任せたかと思ったら、
今度は阿呆で有名な一條大蔵卿の妻になってしまった。
お京鬼次郎は、常盤御前の真意を知るために何とか近づこうと手はずを整え、
大蔵卿をもてなす能が行われている白川御所の外にある檜垣茶屋を訪れた。
やがて能が終わり、多くの従者を従えて、一條大蔵卿があらわれた。
その様子は、まさに阿呆。どう見ても頭が弱そうに見える。
大蔵卿に付き添っていた成瀬が、お京を女狂言師という触れ込みで、
さっそく大蔵卿に引きあわせた。お能狂いの大蔵卿は、さっそく舞いを所望する。
しずしずと舞うお京。その舞いに見とれてズッコける大蔵卿。
お京が美人なのも気に入ったのか、大蔵卿は上機嫌で、お京を召し抱えることに決定。
そのまま、お京は大蔵卿の館へと向かうことになった。

「奥殿」
大蔵卿の館に潜入したお京は、こっそりと常盤御前の様子をうかがってきた。
だが、常盤御前は源氏のことなど忘れたようで、日夜楊弓にうつつをぬかしている。
その知らせを聞いた鬼次郎が、お京の手引きで館に忍び込んだ。
実際、お京の言う通り、常磐御前は着飾って、楊弓で遊んでいるではないか。
カッとなった鬼次郎は御殿に上がり込むと、取り上げた弓で常盤御前を打ちすえた。
お京も、よくも二度三度と夫を替えられるものだ、となじる。
それを聞いた常盤御前、ふたりに真の忠義を感じ、はじめて真意を明かしはじめる。
楊弓に興じていたのも実は平家調伏のためと、的を取り払えば、
なんと下には清盛の姿絵。その胸に楊弓の矢が突き刺さっているではないか。
しかし、この場を矢剣勘解由(やつるぎかげゆ)に見られていた。
勘解由は成瀬の夫だが、野心家で、一條大蔵家の横領を企て、清盛とも内通していた。
さっそく常磐御前の件を清盛に注進しようとする勘解由を、
鬼次郎が押しとどめて斬りあううちに、御簾越しに突き出した長刀が勘解由を斬った
なんと、日頃の阿呆ぶりとは打って変わった勇壮な姿の大蔵卿の仕業だった。
源氏の血を引く大蔵卿は、平家全盛の世の中を生き抜くために、
若いときから阿呆を装ってきたと真相を語り、常盤御前を貞女の鑑と褒め称える。
そして、源氏の重宝友切丸(あれ? 助六も確か友切丸・・・)を鬼次郎に託すと、
長刀で勘解由の首を打ち落とし、素襖の袖で包むと「清盛の首、こうして見せよ」と
鬼次郎に示した。清盛討伐を促したのだ。言うべきことを言った大蔵卿は、
また元のつくり阿呆に戻って高笑いをするのだった。

【うんちく】
享保十六年(1731年)、人形浄瑠璃で初演。文耕堂、長谷川千四の合作。
歌舞伎化されたのは、享保十七年(1732年)だって。つまりは丸本物ですねー。
通しだと五段からなる時代物らしいのですが、現在上演されるのは、主に
三段目の切にあたる「菊畑」と、四段目にあたる「一条大蔵譚」だけみたいです。