第12話  −有難い高知のおじさん−



今回は、車でお遍路をしながら、歩き遍路を励ましてくれる男性の事を書きます。

二十三番薬王寺から室戸へ向かっていた時でした(5月2日)。その日は朝からどしゃ降りの雨で、おまけに風が強く傘もさせない天候でした。雨具の上下と菅笠で風雨をしのぎながら、青森から来ている佐々木さんというお遍路さんと一緒に歩いていました。
前方に止まっていたワゴン車から、我々二人が近づくのを待って一人の男性が出てきて、「お接待です」と言って小さなビニールの袋を手渡してくれました。飴玉が数個入っているのが見えます。
「有難うございます」と合掌していただきました。
宿に着いてから中を見ると、飴玉とチョコレートの他に百円硬貨と五十円硬貨が各一枚と、納札が一枚入っていました。納札には日付と「高知市・26回」とあり、『よい遍路行でありますように』と書いてあります。26回目のお遍路をしておられるのでしょうか。裏面には『むりせずがんばろう』と書いてくれています。胸にジーンと来るものがありました。
その後、高知を済ませて(打ち終えてと書くのが正しいのですが、まだこの表現になじめません)宇和島に入り、四十一番龍光寺に向かっていた日(5月23日)、またこの人に出会いました。前回は雨の中のこと、顔などよく覚えていませんでしたが、それでも〈アレッ、どこかでお会いした人だ〉と、思い出そうとしているうちに、さっと車に向かわれました。いただいたものは前回と同じ物だから間違いありません。後姿に手を合わせました。
なおその後、出会ったお遍路さんにこの話をしたところ、ほとんどのお遍路さんが、この男性からお接待を受けているようでした。新潟のKさんも二度、前述の佐々木さんは三度お会いしたということでした。こうして私たちのような歩き遍路を励まし応援してくれているのです。世の中にはなんとも奇特なお方がおられるものです。
感謝!そして合掌。



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