ITMA2019 Barcelona

(注: 2019年のITMAから既に3年以上経っている事から、無効化しているリンクが殆どであると思います。又、セキュリティリスクを避けるため、多くの企業 では、こうしたページからはログイン出来なくしているかもしれません。いずれにせよ、雰囲気だけでも感じてもらうため、このページを敢えて残しました。悪 しからずご了承下さい。)

ITMAとは、欧州のテキスタイル分野における先進メーカーの集まり CIMATEX(Comité Européen des Constructeurs de Machines Textiles 欧州繊維機械製造連盟) が核となって開催する国際繊維機械見本市 (International Textile Machinary Exhibition) の事で、60年に及ぶ長い歴史を持っておりその大きさからも並ぶものなき催しで、パリ、バルセロナ、ミラノなど EU の主要都市を廻りながら 4年に一度開催される事から、繊維機械のオリンピックとも呼ばれています。 2007年ミュンヘン、2011年バルセロナ、2015年ミラノに続く今回は、再びバルセロナで 6月20日から7日間に渡って、46カ国1600余りの展示参加企業・団体を迎え行なわれます。

Chapter 8 浸染・連染

Chapter 8(繊維加工関連) の出展総数は、(複数ブースを予定している企業をまとめると)469(2019年4月30日時点)ですが、その内訳ベスト5 は、@イタリア 141、Aドイツ 74、Bトルコ 54、C中国 48(本土 43+香港 5)、Dインド 32 で、前回と同じくこの5者で、ほぼ四分の三に達します。 ちなみに、日本からこのチャプターへの出展者は、日阪製作所、直本工業株式会社(縫製機器)、島精機製作所の三社です。

この内、130社弱が染色加工機器関連の企業で、国別ベスト5は、@イタリア 35、Aトルコ 21、B➃ドイツ/中国 各12(中国:本土 9+香港 3)、Dインド 9 で、以下、台湾 6、USA/スイス/スペイン 各4 と続きますが、パッドバッチ用 Padder や Jigger、更には、表面加工機、自動化支援企業やマテハン関連、パーツメーカーまで参加していますので、 この数の差が直ちに染色機での国別技術力を表わしている訳ではありません。 (日本からは、日阪製作所1 社)。

前回ITMA2015Milan の章でも書いた様に、浸染、連染分野での新染色機へのアイデアは、既に殆ど出尽くしており、 今回も、出展メーカーを問わず、従来手法の延長上にある低浴比、省エネルギー、均染、固着率up、AIコントロールを謳うものが殆どです。 (ちなみに、今年に入って、超臨界CO2染色の DYECOO  (オランダ)が急遽参加を決めました。環境調和を掲げ巻き返しを計る模様です。なお、同社HPによると、使用する分散染料については、 以前より提携関係にある Colourtex 社(インド)、及び、 DyStar より高純度品が供給されるとの事です。)

その意味で、特に紹介すべき斬新な染色機が現れる事はないと思いますが、折角ですので、幾つかのメーカーのHPにリンクしておきます。
いま世界でどんな染色機が売られているかご自分の目で確かめて下さい。
   A. MONFORTS TEXTILMASCHINEN GMBH & CO. KG (独)
   ACME MACHINERY IND. CO., LTD. (台湾)   (L.A.I.P. のノーチラス同様コンベアードライブを採用し超低浴比を可能にしています。)
   BRAZZOLI S.R.L. (BRAZZOLI) (伊)    BRONGO SRL (伊)      BRÜCKNER TROCKENTECHNIK GMBH & CO. KG (独)
   BRUGMAN HOLLAND (オランダ)     CALLEBAUT DE BLICQUY (仏)     CANLAR MEKATRONIK SAN. VE TIC. A.S. (トルコ)
   DANITECH SRL (伊)      DILMENLER MAKINA VE TEKSTIL SAN. TIC. A.S. (トルコ)
   EMS MAKINA SANAYAI VE TIC. LTD. STI (トルコ)     FONG'S EUROPE GMBH (独)       GALVANIN SPA (伊)
   GOFRONT GREEN SMART EQUIPMENT (GUANGZHOU) COMPANY LIMITED (中国)
   JOSÉ MARIA ARAÚJO CAMPOS & Cª LDA (ポルトガル)       KTM KRANTZ TEKNIK MAKINA IMALAT LTD STI (トルコ)
   L.A.I.P. S.R.L.(伊)    LORIS BELLINI S.R.L. (伊)      MAGEBA INTERNATIONAL GMBH (独)
   MCS OFFICINA MECCANICA SPA (伊)    MORRISON TEXTILE MACHINERY CO. (米)       PROSES MEKATRONIK AS (トルコ)
   RAMALLUMIN S.R.L. (伊)        SCLAVOS S.A. (ギリシャ)        SKYTEX ENTERPRISE CO., LTD. (台湾)
   SON-TECH PRECISION MACHINERY CO., LTD. (中国)       SUPERBA S.A.S (仏)
   TEKST PAZARLAMA MÜMESSILLIK VE DIS TIC. LTD. STI. (トルコ)      TOLKAR MAKINA SANAYI VE TICARET AS (トルコ)
   TONELLO S.R.L (伊)        TUPESA (スペイン)        VALD. HENRIKSEN B.V. (オランダ)

Chapter 9 捺 染

「Chapter 9.1 Printing machinery」で抽出される企業は58社。 その内訳は、@中国14(本土12+香港2)、Aイタリア 10、BCインド、トルコ 各7、Dオーストリア 4、スイス/英国 各3、 スペイン/ポルトガル/米 各2 、オランダ、日本、独、タイ 各1 です。ただし、ここでも、検反機やコーティング機、ラベルプリンターのみを展示する企業も入って来ますので、これが、 ただちに国別の技術力に結び付かないのは、上の浸染の章と同じです。 フラット・スクリーンやロータリー・スクリーンに私の目を引く新たな捺染機は出ていませんが、ここでも幾つかのメーカーの製品ページを挙げておきます。
   ADELCO SCREEN PROCESS LTD (ADELCO) (英)       ANTEX S.R.L.(伊)       EMBEE GROUP (インド)
   FABRO MAKINA SANAYI VE TICARET ANONIM SIRKETI(トルコ)       FUJIAN JILONG MACHINE TECHNOLOGIES CO., LTD (中国)
   JIANGSU BOSEN MACHINERY MANUFACTURING CO., LTD.(中国)       KTK, LDA(ポルトガル)       L.A.I.P. S.R.L.(伊)
   LOHIA CORP LIMITED(インド)       MACHINES HIGHEST MECHATRONIC GMBH (オーストリア)
   MHMS MECHATRONIC SOLUTIONS GMBH & CO. KG (オーストリア)       SPGPRINTS B.V. (オランダ)
   SULFET BASKI MAK IMALATI SAN VE DIS TIC LTD STI (トルコ)       TEK-IND SRL(伊)      東伸工業

さて、続くは「Chapter 9.2 Degital printing machinery」(分かり易く言えばインクジェットプリントです。) この Key Ward で抽出される企業は61社。内訳は、@中国 12(本土 10+香港 2)、Aイタリア 11、Bスペイン 6、CD日本/独 各4、インド/オランダ/独 各3、トルコ/スイス/ポルトガル/オーストリア/韓国 各2、残りは、 米、ポーランド、イスラエル、マレーシア、ベルギー 各1 となっています。(ただし、欧米勢の中には、エプソンや富士フィルム、ムトー、ミマキなどの関連会社が含まれていますので、 日本勢の実勢は、この数以上に強い事になります。)

この分野でも技術的には特に紹介すべき新しいプリンターは出て来ていません。 Single-Pass システムの IJ 機も、前回のITMA2015のラインアップと余り変わりません。

敢えて、SinglePass IJ のトピックで、二三つけ加えるならば、
MS(伊)のLaRio は、発表から8年を経て、イタリア 6 (内1台は、転写紙用)、ルクセンブルク 1(Non-Textile用)、スペイン 2、トルコ 5、 インド 1、中国 1 と世界全体で16台売れた様です。(インド、中国分に関しては、前回 ITMA2015Milan の章で紹介済みですから、 それ以後、両地域での設置はなかった訳です。)
・spgprint BV(オランダ)の PIKE では、UV硬化型の顔料インクも提供され、より環境に配慮した形にしています。
EFI Reggiani (伊)も、昨年11月 Single-Pass 方式の IJ 機を Reggiani BOLT Textile Digital Printer と名付け発表しました。 その性能として、600 X 600 dpi(最大 600 x 4,800 迄可変)、ノズル吐出量 5 〜 30 pL/滴、捺染速度 max.90m/分 と謳っています。
コニカミノルタ のSingle-Pass IJ機ナッセンジャー SP-1 については、リヨン (伊)での実機稼働映像が公開されています。 Konica Minolta SP-1

参考までに
1. spgprint の PIKE は、年間2百万mを超える生産を対象として設計されました。性能的には、ロータリー捺染機に並ぶとしています。( PIKE と Reggiani BOLT は、富士DIMATIX のプリントヘッド使用。) PIKE animation (仕組みが分かり易く説明されています。)
2. この分野では、Atexco(HANGZHOU HONGHUA DIGITAL TECHNOLOGY STOCK CO., LTD)(中国)も VEGA ONE と名付けた Single-Pass 機を発表しており、京セラのプリントヘッドを使用したその性能は、 1,200 X1,200 dpi、吐出量 4〜38 pL /滴、捺染速度 max. 80m/分 だそうです。ちなみに、LaRio のプリントヘッドも京セラ製。
3. 同じく、中国の Shenzhen Runtianzhi Digital Equipment Co., からも、Single-Pass 機 (1,200X1,200 dpi、吐出量 2.4〜13.25 pL /滴、捺染速度 Max.120m/分、こちらのプリントヘッドは富士DIMATIX。)が出ています。
4. 今回のITMA出展者リストにはありませんが、HOPETECH DIGITAL CO., LTD (HOPETECH) (中国) も、各社のインクヘッドを使ったSingle-Pass機を提供しています。
(以前にこの HP の第18章でも述べた様に、IJ Printer は、最早アッセンブリー商品となっています。 中国の様に、知的財産権の侵害が日常的に行なわれる国では、先行機をマネし、同じ様な機械を作り出すメーカーが次々現れても何ら驚きはありません。)
5. 今回のITMAでは、ラベルプリンターで実績あるスイスのMOUVENT AG からも、テキスタイル用 Single-Pass IJ 機が展示されるのではないかとされています。
6, 現在までに、世界全体で 30 台の Single Pass IJ 機が設置されたとされています。 (これが事実なら MS LaRioが その半数を占めています。先行機というだけではなく、同社が、Single-Pass 機としては、唯一、オープンインクシステムを採っている事が大きな要素だと思います。)

ここで、Textile 用 Single Pass IJ 機の限界や技術的問題点ついて、初心者の為に少し解説しておきます。
 デジタル捺染については、第18章 にも書いた通り、IJ の働きは、生地にインクを置くまでで、その後の、(染料の)発色や生地の洗浄、 (更に柔軟や樹脂加工等の後加工工程)が必要な事は今までの加工と変わりません。勿論、それなりの乾燥機も必須です。
 裏を返せば、そうした十分なバックアップなしに、印捺速度だけ上げても、発色前の生地が滞留するだけなのです。 私自身は、上に書いた様な高速で、印捺生地の発色・洗浄・乾燥を一貫して行なう設備は見た事がありません。 十分な能力を持たない設備で速度を上げれば、染料の発色・固着が不足します。 補完する為に温度を上げると、分散染料では機内昇華による白場汚染が、反応染料では湿分不足による発色不良が起こります。 洗浄においても、処理速度を上げる事で、洗浄不足による白場汚染や色移りが起こります。 (比較的低温で行なう)最終乾燥も同じ事で、速度を上げれば乾燥不足になりますし、 温度を上げれば、分散の昇華汚染や反応の熱変色を引き起こします。
 つまり、今までにない高速で印捺を行なう為には、それに相応する付帯設備を一から作らざるを得ないのです。 (もっとも、高速 Single-Pass 機を、低速で使ったり、休ませ、休ませ稼働させれば別ですが・・。 余談ながら、滞留状態にある生地をそのまま放置すると、ガス褪色や不均一な湿度分布による発色ムラのリスクが出て来ます。)
 また、“Single-Pass” の名の通り、生地が IJ Head の下を通るのは一回限りですから、“点” の分布密度で濃度を稼ぐ IJ では、何回も同じ領域に Ink Head を持っていける “Multi-Pass” 機よりも不利になってしまいます。 この点を克服するために、各メーカーでは、吐出量の大きい Head を使ったり、 インキを突出するアレイ(生地の通過門)の数を増やしたりしています。 しかし、高速で生地を走らせながらインクの吐出を行う Single-Pass 機で、いたずらに吐出量を増やし過ぎると、 吐出外部へのにじみや、送りベルト面での生地の汚れが発生することになります。 また、加工生地それぞれへの、よりきめ細かい前処理も必要になってきます。 一方、アレイ数を増やす事は、装置全体が、今以上に大掛かりになってしまいます。 (もう一つ、インク中の色素を増やすという手もありますが、Head 詰まりのリスクを考えれば軽々には踏み切れません。)
 今後伸びるであろう、顔料インクの使用においても、Single-Pass 機の欠点が大きく出て来ます。つまり、顔料使用 の最大の難点である、 “濃度の低さ” が、インク付着量の小さい Single-Pass 機では乗り越えられないのです。 又、(水に不溶の)顔料と(固化する)樹脂で構成されるインクは、通常の染料インクよりも、 はるかに Head 詰まりのリスクが大きくなります。 Multi-Pass 機では、仮に Head の一か所が詰まってインクが吐出されなくても、他の Head からの打出しでカバーされる可能性がありますが、 Single-Pass 機にそうしたメカニズムは働かず “筋ムラ” となって現れ、それを見逃すと修正不能の不良反が大量に出てしまいます。 (その意味で、spgprint が PIKES で提供予定の顔料インクが、どの程度の実力のものなのか注目に値します。)
(Single-Pass 機の “筋ムラ” 発生リスクを理解すると、コニカミノルタが、Nassenger SP-1 の開発に当たって、Head 詰まりをカバーする画像処理技術を盛り込んだ理由がよく分かります。   ちなみに、2000年の段階で、世界には、6000台のロータリースクリーンがあると言われていました。(by Ciba)  この数字を信じるならば、30台の Single-Pass IJ 機、の持つインパクトは、未だ取るに足らぬレベルです。)


その他
KORNIT DIGITAL (イスラエル) は、Allegro を自動裁断機と組み合わせる Allegro & cut を紹介する事で、 製品企画から市場販売までの時間を一気に短縮する手法を提案しています。
NEWTECH Textile Technology Development (Shanghai) Co., Ltd. (中国)は、IJ とグラビア捺染を融合し、COOLTRANS と名付けた室温での転写手法を提案しています。 グラビア印刷は、昇華転写用の分散染料転写紙を作る用途で、古くから使われてきた技術ですが、 COOLTRANS では、転写紙を使わず、エンボスシリンダーを介して、生地に直接、染料溶液を印捺させます。 つまり、分散染料だけではなく、水溶性染料である反応染料にも応用できる訳です。技術的に新しい点はありませんが、 生地の通し方を工夫し、両面への印捺を施す事で、通常浸染にも代わりうると謳う点がユニークです。 (グラビア捺染において総エンボスシリンダーを三原色に使い、シリンダー毎に印捺するタイミングや速度を変えることにより、 トライアングル内の全ての色を瞬時に作り出せ、更に、柄シリンダーを加えれば、送り幅に制限はあるものの様々な配色で、 パターンを与えることも可能です。ただ、この工程で得られる濃度限界(低い可能性大)や、 柄シリンダーの作成にかかる手間とコストについては書かれていないのが気にかかります。 ちなみに、COOLTRANS Unit は、ITMA ASIA+CITME 2016 で展示されました。)

ここでも、このチャプターで展示予定の幾つかのメーカーのHPへリンクしておきます。 (それぞれに工夫を凝らし、2ロールを同時に捺染出来る機械など、なかなか面白い機種も出てきます。)
   AEOON TECHNOLOGIES GMBH (オーストリア)       ALEPH SRL (伊)       ARIOLI (伊)    A-TEX WORLDWIDE SDN BHD (マレーシア)   
   BEIJING JHF TECHNOLOGY CO., LTD (中国)      COLORJET INDIA LTD (インド)       D.GEN,INC (韓国)        DGI (韓国)
   EPSON EUROPE B.V. (オランダ)        FTEX SRL(伊)        GUANGZHOU BIHONG PRINTING EQUIPMENT CO., LTD. (中国)
   KERAJET (スペイン)        MIMAKI EUROPE B.V. (オランダ)        SHENZHEN CNTOP PRINTING EQUIPMENT CO., LTD. (中国)
   SHENZHEN HOMER TECH CO., LTD. (中国)       島精機        TWINE SOLUTIONS (イスラエル)

私見として - 日本におけるインクジェット捺染の将来は?
 
さて、今回の ITMA でも、(既成分野で目新しいトピックがない分、) IJ 機コーナーは花盛りに見えます。しかし、正直なところ、テキスタイル製品の染色(着色?)部門での IJ 捺染が持つインパクトはどの程度のものなのでしょう。今年は珍しく、婦人服の分野で花柄がプチ・ブームの様ですが、私達の大部分が日常的に着る衣服は、 いわゆる “無地” のものがほとんどで、 “柄” を持つ物の多くは、違った色の布帛を縫製で組み合わしたもの、更には、織りや編みよるものなど本来の意味での “プリント” 製品は見当たりません。(無地に、ロゴなどを施したものもよく見ると “刺繍” や、 “色布の縫い付け” によっている場合が大多数です。)
 現実に、2018年度の経済産業省繊維統計を見ても、捺染品は、浸染品の1/6 以下(色もの総量に対しては15%。これに精練漂白品を加えると、その割合はほぼ1/10。)であり、しかも、その90%以上が、 寝具やカーテン、エプロンなど、いわゆる、“日用品” にも多用される “織物” です。しかし、こうした“日用品” の多くは、 比較的ロットサイズが大きく、加工賃が低い割に、配色濃度の対比、三原色では出し得ない特色への要求、更には、厚物での色浸透などが重要であり、 いまなお、IJ 捺染は従来法に及びません。 (より技術的に言うと、非接触で限られた色数のインク粒子を生地表面にバラ撒く IJ と、色毎に予め調整した色糊を力学的に擦り込む現行法との間には、超えられない品位差が存在するという事です。 表現を変えれば、“0ゼロ次元(点)” と “二次元(面)” の間に立ちはだかる大きな壁と言えるかも知れません。)
 こうした状況は、世界的にも同じ様で、IJ によるデジタル捺染の実際のシェアは、各メーカーが示す “お手盛りシェア” よりかなり低く、今なお、3%(*9億平米/年)をかなり下回るものではないかと思います。 (ちなみに、私が現役の頃は、世界の捺染品の総生産量は300億平米/年であり、人口の増加と共に年2〜3%伸びるとされていました。 - と言っても、私が60歳で退職し、お気楽年金生活に入ったのは2010年ですから、遥か昔の話でもありません。 - ところが、最近の資料の幾つかは、それを、200億平米/年としています。 300億を200億として計算すると、シェアは1.5倍となり、一気にメーカーにとって好ましい数字に近付きます。 元来、世界を相手にした “統計” なるものはかなりいい加減なものですから、こうした数字も単なるセールストークとして聞き流すのが正解かも知れません。 もっとも、昨今の国会での騒動を見る限り、日本人自体 “統計” の信憑性について、大きな事は言えませんが・・。) 参考までに - Archroma(旧クラリアント)は、 2015年の世界全体のデジタル捺染での生産量を、4億m2と見積もっています。
 それはさておき、先の経産省の統計を今一度じっくり眺めてみると、浸染品の生産量がほとんど変わっていないのに対し、 捺染品は年々減少し、平成25年から平成29年の5年間で、約2割も減っていることが分かります。 (この統計では、H26年から輸出用ニット捺染品の数字が外されていますが、全体の0.01%にも満たない無視できる数字です。)
 “5年で2割” と聞いても、余り驚かないかも知れませんが。捺染生産量が、平成の30年間で六分の一にまで縮小したと聞けば、 その深刻さが理解できる筈です。
 私がこのHPを開設したのは、6年前の平成25年。その時、これからの捺染産業には IJ の導入が不可欠だと書きました。 実際に、その後 IJ での生産を増やした方も少なからずおられる様ですが、 これらの数字を見る限り、それが、捺染工業の退潮を緩和する手段とはならなかった様です。
 結局の所、むくわれない加工賃体系と、 何かとクレームをつけ、それさえまともに払おうとしないアパレルが横行する日本の現状そのものに捺染産業衰退の根がある訳で、 これが変わらない限り、これからも、廃業したり破産したりする “捺染工場” は出て来るでしょう。 更なる人口減少が続くこの国で、このトレンドは、増しこそすれ止まる事はありません。
 こうして、 IJ が “産業捺染” の救世主とは成り得なかった事は明らかになりましたが、“工芸捺染” の分野でも、 未だ “手作り” = 付加価値 のイメージが根強く残っているため IJ でカバー出来る製品は、ほんの一握りにすぎません。 一方、IJ が得意な筈の産業資材捺染(サイネージやバナー)分野は、それ自体がニッチで加工賃も低い為、既に IJ 捺染で行なう部分は飽和状態にあり、今後起こるのは、旧型機の買い替えに過ぎません。 つまり、この分野でも IJ 機による生産が大きく伸びる事は無いのです。 (ちなみに、中小アパレルやインディーズが、IJ を使って行なっている昇華転写や顔料捺染での self-production もほぼ同じ状況です。)
 いずれにしても、仮に、現在の捺染品の10%が IJ に移行したとしても、テキスタイル製品全体では、なお 1%です。 と言う事で、(あくまで私個人の考えですが)日本において、今後ますます厳しくなる人手不足を補う手段として、 IJ を使用する場面が増えるのは間違いないのですが、同時に起こる捺染産業そのものの縮小は避けるべくもなく、 相殺される事で、その生産量が増えることはないと考えます。 (メーカーが示す過大な幻想に振り回されるのは愚かな事、このマーケットでは、Single-Pass IJ 機などは、「鶏を割くに牛刀を用いる」 たぐい でしか有り得ないのです。)

 私が ICI の技術者として、Dr.John Provost と共に、カネボウ長浜や東伸工業を、乞われ訪ねてから既に30有余年、当時、間違いなく日本はこの分野で 世界の Top を目指していました。(現に、'99 ITMA で、世界で初めて生地搬送ベルト方式を組み込んだ IJ を発表したのは、東伸工業に他なりません。) それが今ではこのていたらく、これを日本の繊維業界が持ついびつな産業構造の結果とするのは、 悲しい事ですが、否定しようのない事実です。
(余談ですが、カネボウの IJ テクノロジーは、セーレンに。ICI のインクテクノロジーは、Avecia を経て富士フィルムへとそれぞれ継承されています。)

染料メーカー

「Chapter 15 - COLOURANTS AND CHEMICAL AUXILIARIES FOR THE TEXTILE INDUSTRIES」には、100社余りが登録していますが、その中で染料メーカーと言えるのは、四分の一、ただし、 ここでも全く新しい話題に出会うことはありませんでした。
先ずは、老舗の流れを汲む三社から、
Archroma  前回ITMA2015の話題を踏襲。 有害成分を排除した製造法によるインジゴ等が売りです。 Archroma in ITMA2019
DyStar   技術的に特に新しいトピックは見当たりませんが、昨年来、幾つかの分野で、環境保護へ向け、“Cadira” のシンボルワードの下に、新たに編成された染料群の紹介や加工工程全般への提案などが行われています。(ちなみに、Cadira の言葉は、Carbon Dioxide Reduction (二酸化炭素削減)から来ており、元々は、デニムのインジゴ染め領域で使われました。具体的には、電気分解法によって供給される還元インジゴの提供や、 2015年に紹介し、その後実績を積んでいるインジゴスプレー染色がこれに当たります。)
Huntsman  新規の話題はありません。(ちなみに、今回同社は、IJ インクのコーナーのみで登録しています。)

これだけで終わるのも何なんで、「COLOURFUL WORLD」の名にふさわしく、世界各地の新興メーカーを紹介しておきます。
   CHT GERMANY GMBH (独)       COLORBAND DYESTUFF PVT. LTD (インド)      NINGBO DCC CHEMICALS CO., LTD. (中国)
   ERCA SPA (伊)       SOZAL KIMYA VE SANAYI VE PAZARLAMA STI (トルコ)       T&T INDUSTRIES CORPORATION (台湾)

最後は、デニム分野を得意とするメーカーを一社。関係のない皆さんも多いと思いますが、知識の一つとして。
   OFFICINA+39 DIVISION - A TECHNA ITALIA SRL DIVISION

中国の環境規制が強化される中で染料価格が暴騰しています。 これは、染色業には死活問題ですが、(販売品目のほとんどを自社で生産している染料メーカーを別にして、) 中国製品に依存し改名・配合技術で自社製品としてきたメーカーにとっても他人事ではありません。 国産メーカーを含め、メーカー各社が、今後どの様な道を歩んで行くのか当分の間目が離せません。

サマリーに代えて

ITMA2019 Barcelonaは、つつがなく終わりました。 見本市の成果はどの様なものだったでしょう? 終了から一週間、 前回の様なまとまった形でのサマリー映像は出ていませんが、その代わりにITMA事務局から“ITMA 2019 News Flash”が8回に渡って発表されています。
  ITMA 2019 News Flash 1    ITMA 2019 News Flash 2    ITMA 2019 News Flash 3    ITMA 2019 News Flash 4
 ITMA 2019 News Flash 5    ITMA 2019 News Flash 6    ITMA 2019 News Flash 7    ITMA 2019 News Flash 8

全体を見終わって、テキスタイル加工業界全体の動きは理解できましたが、このHPに関して言えば、 特に付け加えたり修正する様な内容を見つけることは出来ませんでした。 (敢えて言えば、インジゴの昇華性を利用して、レーザー光で行うジーンズの“ビンテージ加工”くらいでしょうか。 もっとも、これも日本では既にお馴染みの技術ですが。)

本年6月に、ITMA2023が、イタリアのミラノで開催されます。ただし、下のJETROの紹介ページを見る限り、“染色”の文字は見当たりません。 染色機械がこのイベントの花形であった時代を知る者には、時代の流れを感じざるを得ません。もし、画期的な染色機械が紹介されれば、ITMA2023とし て、 別章を作成しますが、余り期待せずにお待ちください。 ITMA2023 by JETRO