アブレーション関連不整脈
発作性上室頻拍(Paroxymal Supraventricular Tachycaridia;PSVT)
発作性上室頻拍は、ヒス束分岐部より上位の組織で発生した頻拍性不整脈の総称である。
≪臨床症状≫
≪分類≫
発生機序により以下のように分類される。
≪心電図波形≫
@ | 心拍数は、140〜250/分程度 |
A | 狭い幅のQRS波形(narrow QRS)である(QRS時間≦0.10秒) |
B | 心拍が規則的であることが多い(RR間隔一定) |
≪治療≫
・ | 迷走神経刺激(頸動脈洞マッサージ・バルサルバ法・眼球圧迫など) 無効ならATP又はベラパミル(Ca拮抗薬)静注 |
・ | 根治治療は、カテーテルアブレーション |
WPW症候群
心房と心室を直接連結する副伝導路(ケント束)が存在し、その経路を伝導することで通常の刺激伝導系よりも早期に心室の興奮が生じる。 房室リエントリ頻拍(AVRT)の原因となる。
≪心電図波形≫
@ | PQ時間が短縮0.12秒(3mm)以内 |
A | δ(デルタ)波が存在 |
B | QRS時間が延長0.12秒(3mm)以上 |
房室リエントリ頻拍(Atrioventricular Reciprocating Tachycaridia;AVRT)
房室結節を順行伝導し、ケント束を逆行伝導するWPW症候群に房室リエントリ頻拍が合併した上室性頻拍である。 ケント束を経由する早期心室興奮が起こらなくなるためδ(デルタ)波は消失する。 心室興奮後に、心房は副伝導路の逆行伝導を介して房室弁輪から上に向かって興奮するのでQRS波の後に心房波(P'波)が認められる。
≪心電図波形≫
@ | 洞性P波がみられない |
A | δ(デルタ)波が存在しない |
B | 逆行性P波(P’波)はQRS波の直後に認めることが多い |
※ 上記心電図は、心拍数166/分のnarrow QRS(≦0.10秒)の上室性頻拍である。 洞性P波は見られず、QRSの直後に逆行性P波が1:1で認められる。
偽性心室頻拍(Pseudo Ventricular Tachycardia;pseudo VT)
WPW症候群に発作性心房細動(Paf)が合併するとpseudo VT(偽性心室頻拍)と呼ばれる心室頻拍様心電図波形を呈する。 心房細動の興奮は、房室結節よりも不応期の短い副伝導路(ケント束)を通りやすいためδ波によってQRS幅広がり、心室頻拍のような波形を呈する。 WPW症候群に合併したPafは通常の心房細動と異なり、心房の興奮がケント束を介しそのまま心室に伝わりやすく、受攻期(T波の頂点)に心房の興奮が伝わり心室細動(Vf)になりやすい。
≪心電図波形≫
@ | 洞性P波がみられない(基線の動揺(f波)を認めることがある) |
A | RR間隔が不整 |
B | QRS波の立ち上がりが滑らか(δ波)でQRS時間が0.12秒(3mm)以上 |
※ 上記心電図は、立ち上がりは滑らかな幅広いQRS波が不規則に認められる(心拍数約150〜300/分)。 洞性P波は見られず、時折基線の揺れ(f波)が認められる。
房室結節リエントリ頻拍(Atrioventricular Nodal Reetrant Tachycaridia;AVNRT)
房室結節付近に遅伝導路(slow pathway)と速伝導路(fast pathway)の二重伝導路が存在することで、これをリエントリ回路とする頻拍が生じる。 遅伝導路を順伝導し、速伝導路を逆伝導するものが圧倒的に多いためこの伝導路を通常型(common type)と呼び。通常型とは逆に速伝導路を順伝導し、遅伝導路を逆伝導する伝導路を稀有型(uncommon type)と呼ぶ。
≪心電図波形≫
@ | 心拍数150/分以上 |
A | 洞性P波がみられない |
B | 通常型 : 逆行性P波(P’波)はQRS波に重なって認めないことが多い 稀有型 : 逆行性P波(P’波)はlongRP'頻拍(RP'間隔>P'R間隔)を示す |
※ 上記心電図は、心拍数166/分のnarrow QRS(≦0.10秒)の上室性頻拍である。 洞性P波は見られず、逆行性P波も認められない。
※ 上記心電図は、心拍数166/分のnarrow QRS(≦0.10秒)の上室性頻拍である。 洞性P波は見られず、T波の頂点あたりに逆行性P波を認めRP'間隔がP'R間隔より長く、longRP'頻拍がみられる。
洞(房)結節リエントリ頻拍(Sinoatrial nodal reentrant tachycardia;SANRT)
洞結節および近傍の心房をリエントリ回路とする頻拍である。
≪心電図波形≫
@ | 心拍数140/分以下であることが多い |
A | 逆行性P波(P’波)は洞調律のP波形に一致する(T・U・aVFで陽性波、aVRで陰性波) |
B | P’Q時間は様々で正常である場合も延長することもある |
※ 上記心電図(U誘導)は、心拍数136/分のnarrow QRS(≦0.10秒)の上室性頻拍である。 P’波は、洞調律のP波形(陽性波)に一致している。 洞性頻脈との見極めは、心臓電気生理学的検査(EPS)を行わないと12誘導心電図のみでは困難である。
(発作性)心房頻拍((Paroxymal) Atrial Tachycardia;(P)AT)
心房内に起源を有する頻拍である。
≪分類≫
心房内リエントリ性頻拍 | : | 洞結節・房室結節を含まない心房内のリエントリに起因する頻拍 |
異所性心房頻拍 | : | 心房内にある洞結節以外の異常自動能に起因する頻拍 |
心房瘢痕部心房頻拍 | : | 心臓手術後に生じる心房切開線やパッチ閉鎖を行った瘢痕部周辺を旋回する マクロリエントリに起因する頻拍 |
≪心電図波形≫
@ | 心拍数は130〜250/分 |
A | 洞調律と異なる形の逆行性P波(P’波)(T・U・aVFで陽性波、aVRで陰性波ではない) |
B | P’Q時間は不定で種々の程度でブロックを伴うことがある(PAT with block) |
※ 上記心電図(U誘導)は、心拍数125、150/分のnarrow QRS(≦0.10秒)の上室性頻拍である。 P’波は、陰性波で洞調律のP波形と異なる。 P’Q時間は徐々に延長し8つ目のP’波(S波内)にQRS波が伝導せずブロックされ、9つ目のP’波にQRS波が伝導している。 心房頻拍に伴う房室ブロック(PAT with block)は、ジキタリス中毒時みられる特徴的な不整脈である。
心房細動(Atrial Fibrillation;AF)
多くは肺静脈で生じる期外収縮のトリガーによって多数のマイクロリエントリが形成され、心房の各部位で無秩序な電気的興奮が起こり、心房の細かな興奮が心室へ不規則に伝導するため心室の興奮は全く不規則となる。 心房の無秩序な興奮は350〜700/分と高頻度であるため基線の細かい動揺(f波)として心電図上記録される。
≪臨床症状≫
≪心電図波形≫
@ | 洞性P波がない |
A | 基線の細かい動揺(f波)がみられる |
B | RR間隔が全く不規則 |
※ 上記心電図は、P波が認められず基線が全く不規則な波(f波)を示し、RR間隔も全く不規則である(心拍数約80〜135/分)
≪合併症≫
心房細動は、左心房(特に左心耳)に血栓を生じやすく、洞調律に戻った後に飛ぶことが高く脳塞栓や肺塞栓、四肢塞栓をおこしうる。
≪治療≫
・ | 薬物投与(ベラパミル(Ca拮抗薬)、β‐blocker、ジキタリス) |
・ | 血行動態が悪化している場合は、カルジオバージョン |
・ | 塞栓症予防に抗凝固療法(ワルファリン、ヘパリン) |
・ | 発作予防にカテーテルアブレーション(肺静脈隔離) |
心房粗動(Atrial Flutter;AFL)
下大静脈・三尖弁・冠静脈洞入口部を通常反時計方向に旋回するマクロリエントリ回路により生じる頻拍である。 マイクロリエントリによる心房の興奮は約250〜350/分の規則的な高頻度興奮であるため鋸歯状の基線の揺れ(F波)として心電図上記録される。
≪臨床症状≫
≪心電図波形≫
@ | 洞性P波がない |
A | U・V・aVF誘導で規則的な鋸歯状の基線の揺れ(F波)がみられる(約250〜350/分) |
B | 種々の程度の房室伝導比(通常は2:1もしくは4:1伝導) |
※ 上記心電図は、P波が認められず規則的な鋸歯状の基線の揺れ(F波)を示している。 2・3・5・6・8拍目は4:1伝導(F波4つにQRS波1つ)し、4・7・9拍目は2:1伝導(F波2つにQRS波1つ)している。
≪治療≫
・ | 薬物投与(ベラパミル(Ca拮抗薬)、β‐blocker、ジキタリス) |
・ | 血行動態が悪化している場合は、カルジオバージョン |
・ | 発作予防にカテーテルアブレーション(興奮旋回路の解剖学的峡部隔離) |
|