環境 (PIO2が150mmHgになる訳)

≪大気圧≫
大気圧とは、空気の圧力をさす。
大気圧は、その場所の海抜が高くなるほど低くなる。海抜0m(海面)では1気圧(760 mmHg)であるが、海抜8848mのエベレスト山頂では大気圧は240mmHgとなる。
※ だが、大気圧は補足説明がない限り、便宜上1気圧(760mmHg)と考えてよい。
≪大気のガス分圧≫
ガス分圧とは、混合気体(空気など)に含まれるそれぞれの気体分子の衝突で生じる圧力のことで、その圧力は混合気体の濃度分画に比例する。
空気は、酸素と窒素からなる混合気体で酸素と窒素の濃度分画は1:4(正確には21:79)で地球上すべて同じである。
空気の全体の圧力(大気圧)が1気圧(760mmHg)である場合、酸素分圧は160mmHg(∵ 760×0.21)、窒素分圧は600mmHg(∵ 760×0.79)となる。
※ 空気が水蒸気で満たされている場合、大気圧に水蒸気圧を差し引いた残りで酸素と窒素を分担

≪吸入気酸素分圧(PIO2)≫
吸入した空気は、鼻粘膜や咽頭、気管支などで十分に加温・加湿され気道内の空気は飽和水蒸気でみたされている。
吸入気酸素分圧(PIO2)は、大気圧から飽和水蒸気圧(47mmHg)を引いた乾燥大気圧に吸入気酸素濃度を掛けて表される。

大気圧(760mmHg)から飽和水蒸気圧の47mmHgを差し引いた吸入気の乾燥大気圧は713mmHg(∵ 760−47)となり、吸入気酸素分圧(PIO2)は、乾燥大気圧に吸入気酸素濃度(21%)を掛けた150mmHg(∵ 713×0.21)となる。

≪環境で変化する吸入気酸素分圧(PIO2)≫

吸入気酸素分圧(PIO2)は、上記の式で示されるように大気圧(PB)と吸入気酸素濃度(FIO2)によって規定される。
大気圧は、海抜からの高さや高気圧治療装置を利用することで変化し、吸入気酸素濃度は、酸素ボンベ等を使用することによって変化する。

肺胞気に至る各ガス分圧の変化

肺胞レベルのガス交換
≪正常な肺胞でのガス交換と血液ガス分圧≫
| 肺胞気 | 動脈血 | 静脈血 |
酸素分圧 | 約100mmHg | 約95mmHg | 約40mmHg |
二酸化炭素分圧 | 約40mmHg | 約40mmHg | 約46mmHg |
空気呼吸下では肺胞気酸素分圧は100mmHgになるが、動脈血酸素分圧(PaO2)は、健康な人でもPaO2は100mmHgにはなりえない。それは、健康な人でも5〜6億個ある肺胞のうちひとつやふたつは働いていない肺胞があったり、気管支動静脈系や冠循環系の一部は肺を通らず動脈血に合流するため、PaO2は95mmHgぐらいとなる。
≪換気−血流比≫
肺でのガス交換が効率よく行われるには、肺胞内の酸素と肺毛細血管の血流が量的にバランスがとれていなければならない。換気(VA)と血流(Qc)のバランスを換気血流比(VA/Qc)で表す。
呼吸器疾患における低酸素血症の原因の多くは、換気−血流比の不均等分布によるAaDO2の増大にある。
VA/Qc>0.8 | 肺胞死腔 (換気が血流に比べて多く、余分な換気は無駄となる) |
VA/Qc<0.8 | シ ャ ン ト (換気が血流に比べて少なく、十分な酸素化が行えない) |

換気血流比が不均等ということは、換気血流比が大きい過換気な部分と小さい低換気な部分が混在しているということである。
過換気部分を通った血液の炭酸ガスは少なく、低換気部分を通った血液の炭酸ガスは多くなり、両者が相殺し合い、結果換気血流比の影響は小さく、血中の炭酸ガスは変化しない。
一方、過換気部分を通った血液の酸素はPAO2以上には上昇せず頭打ちに、低換気部分を通った少ない酸素と合わさっても相殺せず、換気血流比の影響により血中酸素は低下する。

≪拡散≫
ガス分子が濃度の高い方から低い方へと移動する現象を拡散という。圧力差(圧較差)と拡散面積に比例し、膜厚に反比例する。
ガス交換で言う拡散とは、肺胞から赤血球のヘモグロビンまでの酸素や二酸化炭素の移動をいう。
間質性肺炎や肺水腫では、酸素の拡散は難しくなる?が、二酸化炭素は酸素に比べ40倍拡散しやすいため拡散障害はほとんど影響しない。
≪静脈性短絡(シャント)≫
静脈性短絡(シャント)とは、静脈の血流が直接動脈に流れ込むことをいう。
正常でも心拍出量の3〜5%が短絡している(解剖学的シャント)。
正常シャント | ・気管支動脈→肺静脈 ・最小心静脈→左心室 |
病的シャント | ・心室中隔欠損 ・肺動静脈瘻 ・右→左シャント |
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