長老達が結界を張って何千年かたったある日の事です。
その日、白い森はいつもにもまして、穏やかな日でした。

「まぁ。今日はとてもいいお天気だわ。
 笛の練習に行こうかしら?あら?あそこを歩いているのは、
 ジェニファーだわ。ジェニファ〜。どこへ行くの?」

 2階の白いベランダから、
花かごを持ったジェニファーにその少女は声をかけました。





「こんにちわ〜。ジェニファー。どちらへ行かれるの?」
「あら。こんにちわ。これから白い泉のお花畑へお花を積みに行くの。
 貴女も一緒にどう?」
「まぁ。素敵ね。ちょうど笛の練習をしようと思っていたところなの。
 一緒に行くわ。支度するからちょっと待っててね。」
「ええ。いいわ。」


 2人の愛らしい少女が、
小鳥の鳴き声がさえずるような感じでおしゃべりしながら、
お花畑への小道を楽しげに歩いていきます。





「ねぇ、ねぇ。今日は本当に穏やかでいいお天気ね。」
「そうね。本当に気持ちいいお天気だわ。
 ね、貴女知ってる?」
「え?何を?」
「いやぁね〜。伝説の事よ。貴女ご存知ないの?」
「伝説?」
「そう。白い泉の伝説よ。」
「いいえ。初めて聞くわ。」
「そうなの?」
と、愛らしい小首をかしげました。

「なら、お話してあげるわ。あのね。」
ジェニファーは親友の少女に話し始めました。

「昔々のそのまた昔の言い伝えなのよ。
 白い泉で出会った男女は、劇的な恋をするんだって。
 何てロマンチックなのかしら〜♪」
「恋?」
「そう。恋が成就するまでは、すごく辛い恋になるんだけれど、
 でもね。恋の女神様が必ず力を貸してくださるんだって。」
「まぁ〜。初めて聞いたわ。」
「うふふふ。だって、この伝説は、大人たちの間では、タブーなのよ。
 だから、あなたがご存知ないのも仕方ありませんわ。」
「どうして大人たちの間では、タブーなの?」
「だってね。白い泉で出会った男女は、
 この白い森では暮らせなくなっちゃうから。」
「まぁ。でも、どうして?」
「さぁ・・・。そこまでは、よく解らないのだけれど・・・。
 ね、ホワイトストリートに住んでらした、キャロラインさんご存知?」
「え?ええ。何でも遠い親戚の所へお嫁にいかれたとか。」

 急にジェニファーは、立ち止まって辺りをキョロキョロしながら、
小声で話し始めました。

「ここだけの話よ。約束してね。」
「え、ええ。」
「キャロラインさん。実は神隠しに遭われたんですって!」
「え?本当?」
「えぇ。間違いありませんわ。
 だってキャロラインさんのお父様とお母様が、泣いて
 家にご相談に来られましたもの。私、偶然立ち聞きしてしまいましたの。
 それでね・・・」

 いっそうジェニファーは、辺りの様子を伺いながら、
少女の耳元にその愛らしい唇を近づけました。
「キャロラインさんのご親友のアイリーンさんから、こっそりとお話を
 伺ったの。キャロラインさん、あの白い泉で出逢った、
 殿方と恋をなさっていたのですって。」

「まぁ。キャロラインさんのご両親は、この事をご存知なの?」
少女は小さな手を口元にもっていきながら、ジェニファーに質問しました。





「ええ。ご存知よ。
 でも、キャロラインさんのご両親は、
 2人の仲を猛反対されていたそうだから・・・。
 本当は、神隠しにあったんじゃなくて、駆け落ちしちゃったのかも?」

「どうして、ご両親は反対なされていたの?」

「相手の殿方が、白い森の出身の若者ではなくて、
 結界を乗り越えてやってきた方だったからだそうだわ。
 それと、キャロラインさんに相応しいお見合いの相手をと
 ご準備されている最中だったからだそうよ。」

「そう・・・。え?ちょっと待って。
 結界を乗り越えて来られたの!その方。」

「ええ。そうらしいですわ。
 運良く保安官に捕まらなかったみたい。」

 この白い森では、ごくまれに外の住人が迷い込みます。
白い森の住人達は、外の者との交流を完全に遮断する為、
迷いサルは、刑務所に捕まえて、魔法で強制的に外の世界へ
放り出すのです。

「でもどうやって白い森を出られたのかしら?
 長老以外は、魔法は使えないでしょう?
 魔法以外では、外の世界に出られないんじゃあ・・・。」

「そこよ!やっぱり恋の女神様が、お二人に力をお貸しくださったのかも?
 あぁ〜。ロマンチックだわ〜。私もそんな恋がしてみたいわ。」

「ね、ジェニファー。」
「なぁに?」
「今日行く所は白い泉のお花畑でしょう?
 もし誰かに出会ったら・・・。
 それに、あそこは立ち入り禁止になっていないのはどうして?」

「くすっ。だって、大人たちの誰も知らないんですもの。
 白い泉でそういう事があるらしいって事は解っていても、
 白い泉のどの場所で、誰と出逢うかなんて。
 白い泉も結構広いから、立ち入り禁止にしてしまったら、
 不便で仕方ありませんわ。
 ね、それより、貴女はどう?劇的な恋してみたい?」

「え?私??」

 急に聞かれて少女は顔を真っ赤にしてしまいました。
だって、そんな事今まで考えもしなかったから。

「私は・・・、何だか怖いわ・・・。」
「そうなの。あ。お話している間に、お花畑についたわね。
 私、これからお花を摘むわ。この籠いっぱいにお花を摘んで帰って、
 ドライフラワーにしますのよ。」

「まぁ。素敵。今度ドライフラワーの作り方教えてくださいね。」
「えぇ。いいわ。」
「じゃあ、私は、これから笛の練習を致しますわ。」
「うふ。じゃあ後でね。」 



第一章・・・白い森の少女
「白い泉の伝説」