ユニオン・ショップ制度

 企業に採用後一定期間内に労働組合に加入しない者、労働組合から脱退しまたは除名された者を、解雇することを使用者に義務づける制度。



労働組合の併存とユニオンショップ協定の効力


− 本四海峡バス解雇事件に関連して −


故  本 多  淳 亮

 大阪市立大学名誉教授



一.本四海峡バスのショップ制解雇事件をめぐる事実閑係

1.この事件は、本四海峡バス株式会社(以下、会社という)の従業員で全日本海員組合(以下、海員組合)の組合員であった者58名が、労働協約改訂交渉等をめぐる海員組合の活動方針に不満を抱き、海員組合に脱会届を出して全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下、全港湾)に加入届を出したところ、会社が全港湾の当該分会の三役3名(分会長・副分会長・書記長)を解雇した。その後海員組合から復帰工作が行われたため、58名のうち14名が脱会届を撤回、残り44名が全港湾の傘下にとどまるという経過をたどった。本件はこのような状況の下で発生した事件である。

2.会社と海員組合の間の労働協約にはユニオンショップ協定が含まれていたが、海員組合を脱退して全港湾に加入した者のうち、中心的な役割を担っていた前記3名の労働者が、海員組合からの脱退行動は統制違反の分派活動であるとして、海員組合から除名処分を受け、さらにユニオンショップ協定に基づいて会社から解雇を申し渡された。

3.これに対し右の3名が、神戸地方裁判所に地位保全及び貸金仮払いの仮処分を申し立てたところ、同裁判所は平成12131日の決定をもってその申立を容認した。

4.同決定の要旨は、ユニオンショップ協定によって解雇の威嚇の下に特定組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の組合の団結権を侵害する場合は許されないというべきであり、したがって、ショップ協定締結組合以外の組合に加入している者、及び締結組合から脱退しまたは除名されたが、他の組合に加入しまたは新組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条により無効である。この場合、労働者に対してなした解雇は、解雇義務が生じていないのになされたものであるから、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効と解すべきである、という。

5.そのうえで、本件において解雇の合理性を裏付ける特段の事由があるかどうかにつき、あらためて検討を加えつつ、その理由がないことを判示する。とくに本件ユニオンショップ協定は、海員組合の組合員の再就職先の確保を実質杓な目的として締結されたものであるから、その目的の限度で海員組合の団結権権が優先され、これ以外の全港湾などの団結権は制約されるべきであるという主張に対しても、結局、ショップ協定の目的は、組合の組織強化を通じて自己の組合及び組合員の利益を図ることにほかならないから、団結権の価値に優劣があると解すべき理由を見いだすことができない、と論じている点が注目される。

6.なお、このような神戸地裁の仮処分決定の要旨は、同決定の中にも引用されているとおり、組合併存の場合におけるユニオンショップ協定の効力に関する2つの最高裁判例、すなわち三井倉庫港運事件・最高裁一小平元・1214判決(労働判例5526頁)及び日本鋼管鶴見製作所事件・最高裁一小平元・1221判決(労働判例5536頁)の判旨にそうものである。

二.本件における問題の捉え方

1.ユニオンショツプ協定は、諸外国においても、わが国においても、長年にわたり実施され、多くの紛争を巻き起こしてきた制度なので、その効力などの法理論についても、論ずべき点は極めて多岐にわたる.しかしもちろんここでは、その多面時な法理を俎上に載せる必要はあるまい。本四海峡バスのショップ制解雇事件にかかわる側面に焦点を絞りながら、以下に論じてゆきたいと思う.

2.その趣旨では結局、企業内に二つの労働組合が併存している場合、あるいは企業内で組合分裂が起こつた場合に、一方の組合が締結していたユニオンショップ協定はいかなる法的効力をもつと見るべきか、という問題が中心にならざるを得ない。つまり、組合併存ないし分裂下のショップ協考の効力いかんという問題である。この論題の解明に焦点を置きつつ、併せてそれに関する周辺の問題点に関しても、論議を展開してゆくことにしたい.

3.そして本意見書では、わが国におけるユニオンショップ制の実態や、その効力をめぐる学説・判例の動向などをさぐりつつ、それらを踏まえて私見を展開することとする。

三.ユニオンショップ制の実態と機能

1.わが国で普遍的・一般的に行われているショップ制は、ユニオンショップである。これは、企業に採用後一定期間内に労働組合に加入しない者、労働組合から脱退しまたは除名された者を解雇することを使用者に義務づける制度である。企業に採用される前からすでに組合員であることを要求するクローズドショップ制とは、採用の際の要件が異なるが、脱退者・被除名者の解雇を使用者に義務づける点では、両者は共通しているわけである。

2.このクローズドショップ制は、本件の海員組合のような産業別組合のもとでは本来採用可能な制度であるが、実際には海員組合もクローズドショップ制は取り入れず、ユニオンショップ制にとどまっている。この海員組合以外のわが国労働組合の圧倒的部分は企業別組合であるため、労働者に採用前から組合員資格をもつことを要求するクローズドショップ制は導入できず、ほとんどが、「従業員となった者は組合に加入しなければならない」というユニオンショップ制をとっていることは、周知の通りと言える.

3.ところが、このユニオンショップ制も、組合不加入・除名・脱退の場合は必ず解雇すると定めるもの(完全ユニオン)はむしろ少なく、使用者が解雇しない余地を残すもの(不完全ユニオン、尻抜けユニオン)や、解雇について全く規定しないもの(宣言ユニオン)がかなり多い。それが現実の状況である。

4.このユニオンショップ制は、労働者に組合加入を強制するという機能をもつ点で、組織強制の手段であることは疑いがない。とくに企業別組合の場合は、企業別従業員の一括加入を使用者に認知させ、それをテコにして、全従業員を組合に結集することにより組合組織の強化をはかる制度である、と認めることができる。

5.しかるに、この制度が現実に果している役割を見ると、対使用者の関係における組織強化というよりはむしろ、組合が組合員への統制を強める手段として機能していると認めざるを得ない面がある。除名が解雇に結びつくため、個々の組合員にとっては、組合幹部に睨まれ統制違反として除名の対象にされないようにというプレッシャーがかかる。その結果、組合内部における組合員への統制機能が一段と強化されることになるわけである。

6.また、この状況は、使用者側にとっても利益をもたらすことが認識されるようになった。ユニオンショップ制により全従業員が一つの労働組合に組織されていることは、労働組合対策や労務管理にとって有用であることが明らかになってきたからである。そこには、次のような事情が伏在していると言えるであろう。

7.使用者側は当初、ユニオンショップ制に否定的な態度をとっていたが、今日では労働組合の62.1%においてこれが認められるようになっている(労働大臣官房政策調査部編・平成9年版日本の労働組合の現状U19頁)。そして大企業を中心にこの制度が廣く定着するに至っている。これは、判例などの上にも明確に現れているとおり、ユニオンショップが使用者に対して組合組織の強化を図るというよりも、むしろ労使一体となって、組合の統制に従わない積極的活動家を企業外に排除し追放する役割を現実に果たすようになっていることと無関係ではない。近年はその実態と機能から見て、このような指摘がなされるようになっている点にとくに注目する必要があろう。

四.ユニオンショップの効力をめぐる学説・判例の動向

1.今日の学説や判例の多数意見では、ユニオンショップ制を一応有効な制度と認める傾向にある。そこには、労組法71号但書にユニオンショップを是認するごとき規定がおかれていることの影響もあるのかもしれない。しかし、同但書規定の文意は本文と直接的には結びつかないし、この規定はたんにショップ協定を結んでも不当労働行為にはならないと推定できるというだけのもので、ショップ協定の有効要件を定めたものではないと見るのが、ほぼ現在の定説になっている。結局、今日の多数意見では、ユニオンショップの有効性は、憲法28条による団結権の保障から直接導き出されるものと判断しているのである。つまり、組合組織の強化を意図する団結権(積極的団結権)は、個々の労働者の団結しない自由(消極的団結権)よりも優位に立つがゆえに、個人の団結しない自由を制限するにとどまるユニオンショップ制は、積極的団結権の保障に根拠をおく適法かつ有効な制度と見るわけである。

2.ただし、学説上は少数ながら、今日ユニオンショップを無効とする見解も現れている。その理由としては、団体に加入するか否かは個人の自己決定によるべきであって原則として加入を強制されてはならない。そのことを含む個人の尊重(憲法13条)や結社の自由(憲法21条)の原理は、労働組合にも当然妥当すると解すべきであるという。この無効説は、あくまで労働者個人の主体的決断を通じて組合加入の可否を決めるべきであって、強制は労働者個人にとっても組合にとっても利益にならないと見るのである(西谷敏・労働組合法・有斐閣法律学大系95頁以下)。

3.今日、欧米諸国では、ユニオンショップないしクローズドショップの制度を明確に禁止したり(ドイツ、フランス、イタリア)、厳しく制限する国(アメリカ、イギリス)が増えつつある。法制度の中身には国によってそれぞれ多少の違いがあるものの、いずれも個々の労働者の自由や権利を尊重すべきであるという理念に発するものと判断される。最近のわが国におけるユニオンショップ無効説も、同様の発想に基づくものと見ることができよう。

4.このように、ユニオンショップ制の効力それ自体についても、これを疑問視する意見が登場するに至っているけれども、従来の学説・判例の大勢は、これを一応有効な制度と認めてきた。しかし、一企業内に、ユニオンショップ協定を締結している組合と、その締結組合とは別個の組合(別組合)が併存しているような場合は、その協定の効力が及ぶ範囲につき問題が起こる。そして結論時に言うと、組合併存や組合分裂の場合にユニオンショップを適用して、別組合の組合員を解雇したり、除名・脱退者のうち別組合に加入した者を解雇することは許されないと見るのが、今日ではもはや動かしがたい定説になっていると認められるのである。

5.とりわけ、先に挙げた二つの最高裁判決、すなわち三井倉庫港運事件判決(最高裁一小平元・1214判決)と日本鋼管鶴見製作所事件判決(最高裁一小平元・1221)、及びいすず自動車事件判決(最高裁三小平4428、労働判例6086頁)なども、この定説となった法理を確認したものと判断することができる。

6.右の三判例のうち、最も詳しく法理を展開する三井倉庫港運事件判決の判旨を要約して述べると、次の通りである。ユニオンショップ協定は、組合員資格を取得せずまたはこれを失った労働者を使用者が解雇することによより、間接的に組合組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、労働組合を選択する自由があり、また、ユニオンショップ協定の締結組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、同協定によって解雇の威嚇の下に特定組合への加入を強制することは、労働者の組合選択の自由及び他の組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。したがって、ユニオンショップ協定のうち、他組合加入者及び締結組合からの脱退・被除名者で他組合に加入した者または新組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法90条の規定により無効と解すべきである(憲法28条)。そうすると、ユニオンショップ協定に基づきこのような労働者に対してした解雇は、解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観時に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であるといわざるを得ない、と。

7.ここで銘記すべきことは、これらの最高裁判例は、それまでの下級審判例の流れを確認するという形で打ち出されたものであるという点である。古くはこのような場合に、ユニオンショップ協定の効力を肯定する裁判例が登場したこともあるけれども、昭和30年代後半以降は下級審判例も、労働者の団結選択の自由及び別組合の団結権の尊重を理由に、その効力を否定する方向で固まってきた。最高裁判例も、格別に独自の見解を打ち出したというわけではないのである。

8.ただ、最高裁は、脱退の場合のみならず、除名の場合でも、新組合を結成したり、別組合に加入した者については、ユニオンショツア脇定の効力は及ばないとしている。従来、下級審判例では、締結組合からの除名がからむ場合は、まず除名の効力を否定し、そのうえでユニオンショップ協定に基づく解雇の効力を否定するという形をとったが、最高裁は、除名が真にやむを得ない場合であるかどうかにかかわりなく、被除名者が別組合に加入した場合には、もはやユニオンショップ協定の効力が一切及ばないと見るかのごとき見解を示している。これは、従来の下級審判断よりも一歩踏みだし、組合併存・分裂の場合の協定の効力を一段と消極的に見る立場を明らかにしたものと認めざるを得ない。

五.本意見事の考え方

(T)前提となる諸事情

1.以上に述べた学説や判例の動向を踏まえながら、この間題に関する私見を以下に展開したい。とくに海員組合側は、本件除名・解雇が通常のユニオンショップ制(以下、ショップ制と表現する場合もすべてユニオンショップ制をさす)に基づくものとは異なり、本件のもつ特殊性を基礎にして実施されたものであることを殊のほか強調するので、その点にもなるべく配慮しながら、その特殊性なるものが果たして法理論として根拠があるものかどうかを検討していきたいと思う。

2.ユニオンショップ協定の効力について、これを全面的に否定する見解さえ現れるに至っていることについては、先に一瞥したとおりである。しかしここでは、この問題に触れるつもりはない。ここで論じたいのは、一企業内に労働組合が分裂・併存という形で複数存在する場合のショップ制の効力についてである。

3.わが国においては、労働者の団結(労働組合)は、憲法上の団結権保障の理念に適合する自主的な団結である限り、すべて等しい法価値をもつものと認められている。それが、一律かつ無条件に勤労者の団結権を保障した憲法28条の法意にかなう見方にほかならない。団結構成員の数が相対的に多いか少ないかとか、構成員(組合員)の職種、性別、企業内における地位・身分等のいかんによって団結の法的評価に差異が生じるなどという考え方は、憲法の団結権保障が前提とする労働組合平等の原理に反するわけである。

4.この点、たとえばフランスにおける組合複数の原理(le principe de la pluralite syndical)の下では、組合相互間の関係は組合員数の多少にかかわらず絶対に平等であるという考え方が確立されている。それは、同一職業部門内で労働者はいくつかの競争組合を結成する自由をもつこと、競争組合相互聞の関係は組合員数の多少に閑わらず絶対に平等であること、労働者はいずれかの組合を選択する完全な自由をもつこと、などから成り立っている。

5.これに対しアメリカでは、極めて厳しい条件付きでユニオンショップが認められている。その条件とは、締結組合が交渉単位内の代表組合であること、秘密投票で従業員の過半数がショップ協定を支持していること、組合からの除名・脱退につき解雇が認められるのは組合費や組合加入費の滞納が理由になっている場合にほぼ限られること、などである。ショップ制はこのように、組合内の規律保持の機能を失って、組合費徴収の手段と化していると言われるようになった。そのうえ、今日多数の州に登場している勤労権立法(right to work law)では、個人の働く権利を保護するためショップ制を禁止するという措置をとるに至っているのである。

6.このほか、イギリス、ドイツ、ベルギー、オランダ、デンマークその他の諸国では、法律上または事実上ショップ制が禁止なされるか、または厳しく制限されている。とりわけ、対立する複数の組合が併存する場合は、組合相互間の組織化争いの手段としてショップ制が利用されることを防ぐために、ショップ制を違法無効とする傾向が強い。ショップ制が使用者によって、一方の組合の御用組合化と自主的な組合の排除のために利用される危険性が高いことも指摘されてきた。このような取扱いは、組合不加入・除名・脱退が使用者の解雇権と結びつくという、ショップ制の−般的・普遍的な構造に由来するものであって、この構造の上に立つショップ制である限り、それぞれの国の特殊性を超えた共通普遍の機能に関わる問題点として捉えなければならないのである。(以上に述べた諸外国の状況については、本多淳亮・ユニオンショップの研究・有斐閣昭和39年刊第1章〜第7章参照)。

(TT)組合の分裂・併存とユニオンショップの効力

1.ユニオンショップ制はもともと、使用者との労働力取引に関し、組織労働者に対する競争者としてあらわれる未組織労働者を排除する狙いをもって設けられた制度で、ある。未組織労働者が労働力の安売りをして、組織労働者の賃金や生活を脅かし、ひいては組合の団結を切り崩す効果が生じるのを防ぐことを目的とするものと言えよう。つまり、対使用者の関係で、産業・職業・企業内の労働市場を独占してその交渉力を強めることを意図する制度なのである。

2.このことは、ショップ制の目的が、対使用者との関係において組合の団結を強化する点にこそあり、組合間の組織化争いの道具として利用されるべきではないという課題を裏打ちするものと判断される。組織争いにこれを利用することは、ショップ制の本来の目的から逸脱していると言うべきであろう。先に述べたとおり、労働者の団結(労働組合)は、憲法上の団結権保障の理念に適合する自主吋な団結である限り、すべて等しい法価値をもつというのが、労働基本権の保障を確立した憲法の根本原理である。ある団結が他の団結との組織上の競争のためにショップ制を利用することは、団結相互間の平等の原理に反するし、対使用者の関係で細結を強化するというショップ制の目的に背くと言わなければならない。

3.このことをさらに、団結権の構造から論じてみよう。およそ団結権には、労働者個人がもつ権利であると同時に、労働組合という団体がもつ権利でもあるという二つの側面が存在する。権利の主体という点から見て、団結権のもつ個人的側面と団体的側面という二重の構造を捉えることが、問題把握の出発点である。憲法28条は「勤労者の」権利という表現で個人の基本権として構想しているかのごとくであるが、現実には団結権は、労働組合などの労働者団結の機能をとおして初めて現実に具体化される.その意味では、団結権はすぐれて団体的権利であることを見失ってはならない。

4.このような労働組合の権利としての側面に目を向けると、その団結権の機能には、当該組合の構成員に対する対内的な統制権能だけではなく、組織外の労働者を組織に組み入れようとする対外的な働きかけの権能が存在す。つまり団結権は、対内的・対外的な二つの権能を併せもっているのである。ショップ制が組織の外部にいる労働者の組合加入を強制する点は、団結権の対外的権能を制度的に確立しようとするものであり、除名・脱退の場合の解雇を要求する点は、団結権の対内的権能を強化せんとするものにほかならない。

5.ところで、同一企業内に2個の組合が併存する状態のもとで、新規採用の労働者に両組合が同時に組合加入を勧誘する場合は、両組合がそれぞれもつ団結権の対外的権能が衝突することになる。また、一方の組合に属する組合員が当該組合を脱退して他方の組合に移るような場合は、一方の組合のもつ団結権の対内的権能と他方の組合のもつ団結権の対外的権能とが衝突する。両組合がいずれも自主的な組合である場合は、ここに団結権の競合の問題が生じることになるのである。

6.この場合の競合とは、労働組合という団結体のもつ団結権がその機能面で衝突するということであって、労働者個人のもつ団結選択の自由という角度からは事態を的確に捉えることが難しい。組合併存の場合における団結権としては、従来主として個人の団結選択の自由という立場から論じられてきたが、むしろ、先に挙げた最高裁判決も指摘するように、「労働者の組合選択の自由」及び「他の労働組合の団結権を侵害する」かどうかという双方の観点から問題にすべきである。そしてここではとくに、後者の、別組合の団結権を侵害するかどうかを判断することが、重要な課題であると言えるだろう。

7.そうすると、事態は二つの組合がもつ団結権相互間の問題として捉えることができる。労働者が一方の組合を脱退して他方の組合に加入するような場合は、一方の組合から見ると団結権の対内的権能を害される現象と言えるだろうが、他方の組合から見ると団結権の対外的権能の発現形態と認められる。しかも両者の団結権は、その法的評価において本質的な差異はあり得ない。

8.それゆえ、一方の組合がユニオンショップ協定を結んでいても、当該組合を脱退して他方の組合に移る者については、この協定の存在を理由に使用者が解雇の義務を負うことはないと言える。もしも彼を解雇するならば、一方の組合の団結権の対内的権能を守ることにはなっても、他方の組合の団結権の対外的権能を無視し蹂躪するという結果を招き、この面において団結権侵害の問題を引き起こすからである。

9.ユニオンショップ制は本来、労働組合の団結を強化し拡充することを目的として設けられた制度であることは疑いがない。ただ、この制度の顕著な特徴は、組合不加入者や組合からの除名・脱退者が出た場合、使用者によって解雇してもらうこと、つまり使用者の解雇権を借用することによって組合の団結や統制を強化するという側面をもつ点にある。言い換えれば、使用者の助力によって団結を強制することが、この制度の内包する重大なアキレス腱なのである。

10.このことは、次のような問題を引き起こす。使用者が一方の組合から他方の組合に移る労働者をショップ制を理由に解雇することは、他方の組合の団結権を侵害するという結果をもたらすゆえに、それは当該使用者による他方の組合に関する支配介入(組合組織に対する介入)の不当労働行為(労組法73号)、及び被解雇労働者に対する不利益取扱(他方の組合への加入を理由とする差別待遇)の不当労働行為(労組法71号)になると認めざるを得ない。組合が一つしか存在しない場合のショップ制解雇は、被解雇者個人の団結しない自由(消極杓団結権)を侵害するにすぎないから適法と言えても、併存する組合間を移動する労働者に対するショップ制解雇は、使用者が一方の組合のもつ団結権を侵害するとともに、その解雇権行使により被解雇者個人に対する不利益取扱という不当労働行為をも必然的に引き起こす。われわれはとくにこの点に注目しなければならないと考えているのである。

11.ただ、これらの場合、労働組合がすべて団結権の保障を受けるに値する自主的な組合であることを自明の前提とする。団結権によって守られる団結は、主として使用者に対向するという性格をもつべきであって、組合が使用者に対向せず、もっばらこれと提携し協調するという方向に傾き、あるいはすでにその支配を受けているという状態にあっては(いわゆる御用組合の場合)、団結権を保障すべき理由を見いだしがたい。従業員の懇親団体や非自主性のあらわな第二組合などは、自主的な多数組合の結ぶユニオンショップ協定の適用下にさらされると見るべきであろう。しかし一般に、組合の自主性の欠如を立証することは困難を極めるため、わが国ではその立証に成功した例は皆無に等しい。

(V)本件のもつ特殊性の検討

1. ところで、本件・本四海峡バス事件では、会社側がとくに事件内容の特殊性を強調している部分が、他の事案とは異なる点として目を引く。その特殊性として挙げられているのは、本件ユニオンショップが、一般の企業内組合におけるものとは異なり、唯一の産業別組合たる全日本海員組合のショップ協定であること、しかもそれは、海員組合による本四架橋離職船員のための会社設立と離職船員の就業受け皿確保のためという、通常とは全く異なる目時をもったショップ協定だということである。そしてその点において、一般のショップ協定を前提とする最高裁判例の射程外の事業であり、かつ、ショップ制を違法なるものとして扱うヨーロッパ諸国の場合とも異なることを力説する。 

2. さらに、次のような点も強調されている。会社は、その設立目的自体が離職船員の職場確保にあり、海員組合は組合員の雇用確保のため組織ぐるみのたたかいを組んできたこと、会社内に二組合が併存することになれば、そこはもはや離職組合員のためのみの職場ではなくなり、新規雇用にあたっても離職組合員を優先させることはできなくなること、これらの事情から、本件ユニオンショップはまさに公益目的のための協定であることを理解せよ、とも述べる。あるいは、本件ショップ協定は、海員組合が本四海峡バス会社という職場を確保するためのものであるから、それは労働法上の契約でありながら、民法上の職場確保契約でもあるという主張さえ行われている。

3.このほか、本件ショップ制の中身が、企業別組合の締結する通常のユニオンショップ協定といかに異なるかを、贅言を尽くして論証しようとしている。そこに論じられているような、会社設立をめぐる特殊な事情が存在することは、第三者時な立場から見ても一応理解できないわけではない。しかし他方、そこで主張されている特殊性は、海員組合のみが唯一の正当な組合であるかのごとき妄想の上に立った、全く独善的な見解と見ることもできるだろう。おそらく海員組合は、船員・海員労働者に関する日本の労働市場を独占してきたという歴史的経緯が長いので、その市場に海員組合以外の労働組合が参入することは我慢ならないと見る思いが強すぎるのではなかろうか。

4.しかし、先に−言したとおり、欧来諸国のユニオンショップやクローズドショップが今日厳しい禁止や制限の措置を受けているのは、ショップ制が複数組合間の組織化争いの道具として利用され、その弊害が顕著になってきたことに主要原因の一つがある。欧米では産業別・職種別の企業横断的組合が主流を占めているけれども、この種の組合のショップ制も、使用者の解雇権という助力を借りて他の組合ないし組合員の団結権を侵害するという要素を伴うゆえに、制限禁止措置の対象になってきたという経緯があるのである。産業別組合のショップ制としてその特殊性を強調する日本の海員組合だけが、この制度のもつ構造的弊害と無縁であるとはとうてい言えないことを認識しなければならない。

5.そしてとくに、会社側の主張で理論的な難点と認められるのは、二組合併存の場合に組合間を移動する労働者の行動が、組合相互間の団結権の衝突という観点で捉えられていないことである。それは、海員組合という団体の団結権と、そこから脱退して他組合(全港湾)に移る労働者の団結選択の自由という個人の団結権との衝突・抵触の問題としてのみ把握されている。しかしこの現象はまず、海員組合という団体の団結権と全港湾という団体の団結権との抵触関係、つまり団体的な団結権相互間の衝突の問題と見なければならない。言い換えれば、海員組合の団結権の対内的な権能と、全港湾のもつ団結権の対外的な権能との衝突の問題にほかならない。そしてそこに、組合間を移動する労働者個人の組合選択の自由という団結権の侵害の問題が絡むわけである。

6.さらに法理論として敷衍すれば、海員組合からの脱退、全港湾加入を理由とするショップ制解雇は、会社の全港湾に対する団結権の侵害、つまり支配介入の不当労働行為の問題を引き起こす。それと同時に、全港湾加入の労働者個人に対する差別待遇の不当労働行為をも構成する結果になる。いかに会社設立の特殊事情を強調しても、使用者の解雇権という助力を借りて組織強制を行うというショップ制の構造自体に変りがない限り、このような問題は避けられないことを知るべきであろう。しょせん、ショップ制を組合間の組織争いに利用することは、国内外の経験や教訓に照らしても、絶対的に断念すべきであると言わざるを得ないのである。


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