
堕天使 〜Prinzipal der Finsternis〜
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文成は風呂場で森田老監督の背中を流していた。ゴシゴシと流すのではなく、ゆっくりと撫ぜるように上下にさすっていた。老監督はそれが気に入らないのか、
「文成、もうちっと、力入れて流せんのか?」
と、文成にこぼした。
「あのなぁ、じじぃ。ただでさえ皮膚が歳取ってるのに、これ以上ボロボロにするつもりか? 皮膚を守るにはゆっくりと擦るのが常識なんだぞ」
「今更、この年老いた皮膚を労ってどうするんじゃ。そんな暇があるならもっとやるべき事がたくさんあるわい」
「皮膚の手入れすらできん人間に何ができる。何一つとしてできるわけが無い」
「フン! いっぱしの口を利きおってからに」
そう言ったが、文成の言う事にも一理あるとは思っているようだ。
「文成……、家族を亡くして、何年になる?」
「何を唐突に……」
「ちと気になることがあってな、おまえに訊きたくなっての」
「オレが10歳の時だから、6年かな」
「そうか、もう七回忌じゃな。だれか法事を執り行うものはおらんのか?」
「………たぶんいないだろう。親戚らしき親戚もいなくなったし」
文成は複雑な気持ちになりながら老監督の質問に答えた。全く親戚がいないわけではない。父親の弟、つまり叔父がいるにはいるのだが、すっかり疎遠状態になっている。高校に入学してからは音信不通状態になっている。文成にしても老監督から七回忌の話が出るまで失念していたし、叔父からもそんな話が無かったから、おそらく文成の家族の七回忌は執り行われないだろう。
「……時に文成、おまえには祖父さんや祖母さんはいないのか?」
また唐突に老監督が質問した。
「随分と答えにくい質問ばかりするんだなぁ。なんか、あったんですか?」
「答えにくいなら無理に答えんでもいいが。別に何かあったと言うほどでもない」
「………みんな、とっとと死んだと思うよ。だいたい、祖父さん祖母さんが存在する事すら知らなかったし」
「そうか………」
そういうと老監督は黙りこくってしまった。文成も何も言わず、淡々と老監督の背中を流し続けている。
「文成、背中はもういいから湯船に浸からんか」
老監督に促されるままに文成は浴槽に入っていった。美少女のように華奢な文成だが、裸になると、背中にヴォリュームがあるのが見受けられる。胸板は貧弱ではない。それでも、全体的に細身である。
文成は湯に漬かった。腋から下を沈めず、背筋を伸ばして胡坐を組んで両手を股間の前で組み合わせるその姿は、まるで修行僧である。
「おまえ、ほんとに変わっておるのぉ。風呂ぐらいゆったりと躯を伸ばして浸かればよいのに」
「ここ最近、というか、中学3年くらいからずっとこんな感じで風呂入ってるんですよ。猫背になるとほんと気持が怠惰になって仕方が無い」
「今時そんなことを言う奴はすっかり払底してしまったがのぉ……」
「さっきから随分様子が変ですね、変に感慨にふけったりして。オレが監督にみっちり油を絞られる事を望んでいる奴らからすれば、こんな光景見たら嫉妬に狂いますよ」
「……おまえを見ていると、孫のことを思い出して仕方が無くてのぉ」
老監督は文成の茶々に答えずに嘆息するようにつぶやいた。
「生きていたら、オレと同い歳?」
「そうじゃ、生きていたらな。自慢の初孫じゃったが、そう、ちょうど6年前に事故で死んでしまった。おまえが家族を亡くしたのと同じ年じゃ」
文成はただただ黙って聞いていた。何一つ身動きせずに聞いている。
「無鉄砲なところはあったが、素直な子じゃった。何と言っても笑顔が可愛くてのぉ……、あの笑顔を見るだけで幸せじゃった。それが突然……、消えてしまったんじゃ」
「オレの家族も突然消えたよ。事故でな。未だにオレは信じられないが、信じざるを得ないから受け入れようとしている。監督の孫って、そんなにオレに似てるのかい?」
「よく似ておるわい。初めておまえを見たときは、孫が還って来たかと思うたわ。よく神様の思し召しとか何とか言うが、あの時は本当にそう思ったわい。これはしっかりと立派な人間に育てなければならん、と心底思うた……」
老監督はまさに孫に言って聞かせる感覚で、しかも一語一語噛みしめるように言った。今の老監督には文成と自分の孫が重なって見えているのだろう。
「文成、ワシはおまえを、これ以上ないくらい誇りに思える立派な人間になるよう育てあげるつもりじゃ。つまらない事でおまえの人生を損ねるような事は、ワシが命に代えても防いでみせる。だから、おまえがつまらない揉め事を起こして将来を棒に振るような真似は、絶対に許さん。それが不満と言うのなら、是非も無い」
文成は胡座の体勢を崩さず、瞑目して老監督の話に聞き入っていた。見ようによっては聞こえぬふりをしているようにも取られかねない。
「親爺、オレは妥協して生きていく事が一番嫌いなんだ。いくらつまらない揉め事を起こすなとか、意味もなく暴力の種を蒔くなと言われても、オレをズタボロにしようという奴らの思い通りにさせる程、オレはお人好しでもマゾでもないんで。オレを捻じ伏せようとする奴は徹底的に叩き潰す気でいるので。そんなオレをどうしても認められないなら、是非もありません」
文成は己の残虐な信念を包み隠さず明かし、最後に老監督の言葉を真似て言った。
「おまえ、コロコロ呼び方が変わるのぅ……、監督か親爺かどっちかにせい!」
老監督は文成の決然とした言葉を敢えて聞き流した。正確には、聞きはしたものの文成の意思を抑えつけることを言わなかったのかもしれない。だから、自分の呼び方について突っ込みを入れた。
「“老教授”なんてどうですか、ケーシー・ステンゲル監督?」
文成がややマニアックなギャグを老監督にカマした。
「田淵幸一も知らんかった優男(やさおとこ)に、老教授じゃケーシー・ステンゲルじゃ言われたくないわい」
さすがにこういう昔話だとこの老監督は負けない。文成が最初、田淵幸一を知らなかった事を引き合いに出して言い返した。
「あれから猛勉強してね、いろんな本を読み漁ったよ。メジャーリーグの本もね。田淵幸一も尊敬しているけど、一番好きな選手はミッキー・マントルだね。あの豪快さは何とも言えないよ」
「ほう、それでミッキー・マントルのように豪快な場外ホームランを打ってみせた訳か」
「そういう訳でもないが……、ただ、憧れているんだ。5分も空を舞うようなホームラン、一生に一度は打ってみたいと思うもんさ」
「そうか。そろそろ出るぞ、文成。あんまり喋っていると茹でダコになってしまうわい」
そう言う老監督は、ざあっと音を立てて湯船を出た。文成も胡座を解いて後から続いた。
「ああそれからな、文成。今夜からおまえはワシと同じ部屋で寝起きせい。大会が終わるまでワシの話し相手をやってもらう。勝手な真似は許さんからな」
老監督は振り向かずに決然として文成に命じた。声はさほど大きくなかったが、まるで文成の目を覚まさせるかのような厳しい声だ。
「どうあっても抑えてやる、と言うんですか?」
文成は低く静かな声で監督に尋ねた。腹の底から出たバリトンが風呂場に響き渡る。
「どう捉えるかはおまえの問題であって、ワシの責任ではない」
老監督は文成の口癖を真似て、あえてまともに答えなかった。自分の言葉を文成がどう捉えるか、わかっているつもりでいるらしい。
「監督がどうあっても抑えるというのなら……、大歓迎です。つまらないことに煩わされたくありませんから」
さっぱりと文成は言ってのけた。文成にしてみれば、監督がこのときどう考えているかは、はっきり言ってどうでもよい。自分の都合の良いように方向が向かえばいいわけである。この場合、監督が渡辺以下、部員すべてが文成に害をなさないように抑えてくれば文成にとって都合が良いわけだから、つまらないことに煩わされたくありません、と答えたのである。
「わかっているなら、それで良い」
文成の思惑を読み取っているのか、そうでないのか? とにもかくにも、老監督は文成の答えに満足して、風呂場を出た。60歳をとっくの昔に越えた老人にしては気魄溢れる背中が、文成には印象的だった。
ちなみに、ケーシー・ステンゲルとは1949年から60年までの12年間、ニューヨーク・ヤンキースの監督を務め、その間、10度のリーグ優勝、7度のワールド・シリーズ優勝を成し遂げた名将である。“老教授”と呼ばれ、独特の語録を残した事でも有名。文成が言った、5分も空を舞うようなホームランとは、1953年4月17日のヤンキース対ワシントン・セネタース(現在のミネソタ・ツインズ)戦でミッキー・マントルが放った場外ホームラン(推定飛距離、172mとも180mとも言われる)のことで、ケーシー・ステンゲルは大袈裟に、
「5分間ぐらい打球が飛んでいるようだった」
と言ったのである。
ミッキー・マントルは今なお「史上最強のスイッチヒッター」として名高い大打者で、MVP3回、1956年には三冠王に輝くなど数々の栄光を築き上げ、通算536本(右打席:163本、左打席:373本)のホームランを放った。左右両打席本塁打を10度記録しているが、これはメジャー史上2位である(1位はボルティモア・オリオールズなどに在籍した、エディ・マレーの11度)。背番号7は永久欠番となっている。
風呂場で文成は何気なくミッキー・マントルを好きだと言ったが、のちに自分がミッキー・マントルのようにスイッチヒッターへ転向する事になろうとは、この時点では夢にも思っていない。そして、豪快なホームランを連発する事も……。
夕食を適当に済ませた文成はやおら立ち上がって大広間を出た。
「平井、どこへ行くんだ?」
中村がなぜか、不安そうに文成に尋ねた。
「ん? 監督の部屋。説教の続きだよ」
文成は事もなげに言ってそのまま出て行った。
監督の部屋の前に立った文成は一拍置いて挨拶した。
「平井です。監督、失礼します」
文成が気だるさの全くない、きびきびとした声で呼びかけると、中からすぐに声があがった。
「おぅ、入れ」
ふすまを開けて入ると、座卓の前で老監督がマネージャーの平野絵理子に給仕してもらいながら茶を飲んでいた。
「親爺、なにしとんねん?」
思わず文成の口から関西弁のツッコミが出た。愛知でも関西弁が浸透しているのだろうか。
「今さっき、監督と言った奴がもう親爺呼ばわりか? コロコロ気の変わる奴じゃのぉ……」
呆れた声で老監督は言うと、文成を座らせ、絵理子に、文成にも茶を入れるよう示した。文成は正座して老監督に向き合う。
「文成、足を崩せ。何も説教するわけではないからの」
そう言って老監督はニヤリと笑った。老監督に言われ、文成は正座の形を崩したが、胡坐にはせず、座禅の形を取った。
「おまえ、まるでヨガ行者みたいじゃの。苦行マニアかなんぞか?」
老監督のツッコミに文成は、
「こんばんは、ヨギ・ベラです」
と、また訳のわからないマニアックなギャグで返してきた。
「もう、ええわい! 平野君にわからんギャグをかますんじゃない!」
老監督は叱ったものの、顔は笑っている。
「ヨギ・ベラって、誰ですか、監督?」
絵理子がきょとんとした顔で尋ねてきた。
「ほれ見ろ、文成、おまえが訳分からん事を言うから、平野君が訊いてきたじゃないか。おまえが答えるんじゃ」
老監督は自分で答えず、文成に説明するよう振ってきた。
「ヨギ・ベラと言うのは、1946年から65年まで活躍したヤンキースの名捕手で、最後の年はメッツだったけど、その間にリーグMVPを3回受賞したし、ワールド・チャンピオンは10回勝ち取ったんだ。背番号8は先輩の名捕手、ビル・ディッキーとともに永久欠番だよ」
「なんで、“ヨギ”と呼ばれたの?」
絵理子が疑問を口にする。
「“ヨギ”と言うのはヨガ行者という意味で、歩き方がまるでヨガ行者みたいだったからだそうだよ。口の悪い奴はヨギ・ベラの風貌から“類人猿”と言って貶したけどね。でも、ケーシー・ステンゲルから“マイ・マン”、つまり、秘蔵っ子と呼ばれた彼は見事に悪評や逆境を撥ね返して歴史に残る名捕手になったのさ」
文成の解説を黙って聞いていた絵理子は感心してささやき声のように言った。
「文成君、すごく詳しいのねぇ。舌を巻くとはこのことね」
「ま、いろいろ勉強したから。もういいかな、解説は。監督、今夜は何の話です? 沢村栄治の球は早かったとか、ヴィクトル・スタルヒンの球は速かったとか?」
文成は絵理子に入れてもらった煎茶を一口啜ってから、まだ監督にマニアックなギャグをかまし続ける。
が、監督はそれには答えず、逆に文成に、
「文成、おまえ、ワシに話さなければならんことがあるじゃろ?」
と、質問してきた。
「なんです? そんなもんありましたっけ?」
文成はすっとぼけた。わざとなのか本気でとぼけているのか、わからないような文成の貌と表情だった。
「忘れたのか、それともとぼけているのか? 武蔵学院の岩田君と二人で何の話をしていたんじゃ?」
老監督はニヤニヤとした顔で文成に問いかけてきた。どうやら、この監督は文成が武蔵学院の岩田とどんな話をするのかが知りたくて、説教と称して文成を呼びつけたらしい。
「ん? あ、あれね。すっかり忘れてたよ。オレが岩田さんに、ウチの部員は美人マネージャーにうつつを抜かしていつもオナニーのおかずにしているから、今まで県大会の決勝にすら進めなかった、と言ったら、岩田さんは、ウチも親の脛を齧って当たり前と思っている部員が多くて、しかも監督や部長の目を盗んではソープ通いしているから、いつも優勝候補と言われながら優勝できないでいる、と暴露してました」
文成が出まかせの話をすると、二人とも仰天したのか、双眸を大きく開けた。絵理子は、オナニーのおかずと言われて顔を真っ赤に染めたがすぐに眦を上げて文成をにらみつけた。監督は驚いたもののすぐに笑い出した。
「わはははは。文成、もう岩田君とはそういう話をする仲になったのかね」
監督は豪快に笑ったが、絵理子は面白くないらしく、
「監督、笑い事じゃありません! 文成、どういうつもりなの、他所の高校の生徒に本当にそんな話をしたの!?」
と、呼び捨てで文成を問い詰めた、というより、半ば非難していた。自分をネタに猥談をされたのが許せないようだ。(誰でもそうか?)
「そんな話は一切していない。今とっさに作った与太話でね。でも、真実でないとは言い切れないだろう。美人マネージャーに思い焦がれて、夜な夜なオナニーにひた走る奴は幾らでもいるだろうし、ふざけるなと言いたくなるくらい、親から金をしこたまもらってるガキどもがこっそりソープ通いをしても、不思議ではないからね」
文成はニヤニヤ笑いながら、絵理子に向かって悪戯っぽく言った。随分と楽しそうである。
「もう、変な揶揄(からかい)かたしないで!」
絵理子は文成をなじって、そっぽを向いた。相当恥ずかしかったらしく、半袖のブラウスから剥き出しになった両腕が真っ赤に染まっていた。今時珍しいなぁと、文成は苦笑混じりに感じた。
「冗談はそれくらいにして、本当のところはどんな話をしてたんじゃ、文成?」
老監督が文成に促した。
「いろんな話をしましたよ。あの場外ホームランの話や、人間は好物を食べられなくなったら終わりだという奇妙な哲学、あとはなんだったっけ? あぁ、そうそう、あの時もし山崎さんが打席に入っていたらどうだったと訊いたら、点を入れられる事はあっても、逆転されなかったと、自信持って言われました」
文成が言い終えた途端、老監督は大いに笑った。絵理子に至ってはその場にしゃがみこんで躯を震わせていた。あまりにも可笑しいのだが、笑いを堪えようとする為、悶絶しかけているらしい。
「わはははは。な、文成。ワシの言った通りじゃろ! あの時、おまえを出して大正解じゃ! いくら4番を張っても、3打席ノーヒットじゃ使う気にならん。ワシの見立てが当たっていることを、相手方のキャッチャーがしっかりと認めておるわい!」
得意げに老監督は自分の見立ての良さを自慢した。よほどオレを使ったことがうれしいのだろうかと、文成は思った。
「岩田さんも言ってましたよ、よくあの場面でオレを代打に送ったなって。相当食わせもんだとまで言ってましたよ」
「ははははは。そうかそうか、そんなことまで言ってたか。それで、岩田君から何か励ましの言葉とかなかったのか?」
老監督がそう言うと、文成はすこし瞳を広げて間を置いた。
「励まし、ですか?」
「そうじゃ、何も無いわけではないだろう。散々二人で盛り上がったはずじゃ。なんか一言あったじゃろ?」
文成はなぜか腕組みして、うーんと唸ったあと、思い出したように言った。
「そういえば、必ずこの大会優勝しろ。そして、高校三年間で春と夏の甲子園に必ず出て優勝してくれ。君がどれだけ高く昇りつめていくか、この目で必ず見届けるなんて、言いました」
文成の答えを老監督は満足そうに聞いた。何度もうんうんと頷いて完爾として笑っている。
「そこまで言ってくれたのか、いい人間ではないか。で、おまえはなんと答えたんじゃ?」
「はい。たとえ、5回とも違う高校で甲子園に出たとしても、5回とも優勝して金メダルを5つそろえると……、約束してしまいました」
文成がこう言った途端、それまで大笑いしていた老監督が笑うのをやめ、真剣な表情になった。絵理子も顔を上げて驚いた表情を文成に向けている。
「……文成、5回甲子園で優勝するのは良いが、5回とも違う高校と言うことは、この大会が終わったら弘成高校を出て行くというのか?」
老監督がゆっくりと静かに、そしてやや重く言った。大概のことでは応えないこの監督も、今の文成の発言はずっしりと心に響いた。孫のように思っているこの少年は大会が終わったら、自分から離れるというのか。
「そりゃ、ここで3年間ずっと居たいですよ、離れるのは面倒くさいし。ただ、オレが離れたくないと思っても、どうにもならないことがありますから。今はこの大会で優勝する為に努力しますし、この学校を離れないで卒業できる事を祈っています」
「絶対、離れないでね。約束よ」
絵理子が文成に迫って約束を求めた。でもその約束は弘成高校から離れないでではなく、自分から離れないで、という意味なんだろう。文成は、来年の3月に君は卒業するんだろう、と思いながらも、
「約束します。この高校を優勝させて、卒業まで居続けるよう努力します」
と、答えた。それで老監督も絵理子も納得したようだ。
だが文成は、
(絶対にこの高校から離れるだろうなぁ……、オレ自身がよその高校へ移りたいのもあるけど、あの人はオレによそへ移るよう指示するだろうなぁ。表の存在であるオレではなく、裏の存在のオレになぁ………)
と、一人考えていた。自分はただの高校生ではない。たった一人で生きている。だが、その為に必要な収入(みいり)は表で稼いだ必要最小限の金ではなく、裏というより、闇で稼いだ莫大な金なのだ。とても人に言えるような仕事で稼いだ金ではない。そしてその仕事は自分の欲望である、すべてを闇に戻すことに繋がるのだ。そんな闇の貌を誰にも知られたくはないし、知られるわけにはいかない。今の自分は、光の貌で闇の貌を隠す “堕天使”なのだから……。
第6話へ続く
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