名曲座・メジャー篇

VOL.4  「CARRY ON WAYWARD SON」/KANSAS  (from “LEFTOVERTURE”/1976)

Leftoverture [Bonus Tracks]
 商業性と芸術性を融合させ、高次元にまで昇華させた偉大なるバンド(このフレーズが似合うなぁ・・・笑)KANSASが1976年に発表した4枚目のスタジオ・アルバム“LEFTOVERTURE(永遠の序曲)”の1曲目に収録されている名曲中の名曲。これは全音楽ファン必聴の名曲と言っても過言ではない。
 
 1974年、スティーヴ・ウォルシュ(Vo,Key)、ケリー・リヴグレン(G,Key)、リッチ・ウィリアムズ(G)、ロビー・スタインハート(Vio,Vo)、デイヴ・ホール(B)、フィル・イハート(Ds)の六人によって結成されたKANSASはKirshner Record(カーシュナー・レコード)より“KANSAS(カンサス・ファースト・アルバム)”でデビュー。翌1975年、“SONG FOR AMERICA(ソング・フォー・アメリカ)”を発表するが、イギリス・プログレッシヴ・ロックに影響された音楽性、アメリカのバンドらしからぬ大仰で大胆な曲展開が強く、セールスは伸びなかった。まもなく発表された3rd、“MASQUE(仮面劇)”では楽曲をコンパクトにしつつも、ハード色を濃くするなど試行したが、思うような成果は得られなかった。
 が、1976年、“LEFTOVERTURE”において、プログレッシヴ性とハード・ロックを融合させ、なおかつ、コマーシャルで優れたメロディを彩らせたKANSASサウンドが完成するのである。このアルバムは、全米アルバムチャート最高5位、300万枚以上も売り上げ、まさにKANSASの出世作となった。そして、今回取り上げるこの‘CARRY ON WAYWARD SON(伝承)’は全米シングルチャート最高11位にまで上昇、KANSASの代表曲となったのである。ちなみにこの4枚目がKANSASの日本デビューアルバムとなった。

 さて、肝腎の‘CARRY ON WAYWARD SON’だが、ほんとに素晴らしい。アカペラ・ハーモニーで幕を開けるや、ハード・ロックに展開、そこに美しいメロディが奏でられるのだからたまらない。5分22秒と程よい時間だが、それでいて、ドラマティックでハイ・テンションな曲構成は心奪われるばかりである。
 しかし、最大の良さはなんと言っても、彼らのアンサンブルであろう。これほど優れたアンサンブルは他に数えるほどしか(私には)思い浮かばない。ハード・ロックにクラシック、ジャズ、カントリーを取り込み、独自のKANSASサウンドを作り上げることができたのは、その卓越した演奏能力、特にアンサンブルの高さにある。それゆえに、「商業性と芸術性を融合させ、高次元にまで昇華」させることができたのであろう。
 その背景には、カンサスという、アメリカ中部に生まれながら、血の中に眠るヨーロッパ人としての感性が息づいているからかもしれない。かつて、メンバーは、「自分達の身体の中には、ヨーロッパ人である先祖の血が流れているから、KANSASの音はその血が作り出したものである。」と説明したことがある。それを考えると、KANSASは「移民の国」アメリカの美しい面、良い部分を表現したバンドと言ってよいのではないだろうか。
 
 なお、このKANSASの大ブレイクにより、「アメリカン・プログレッシヴ・ハード・ロック・ムーヴメント」(これは日本人が勝手につけた名称だが)が本格化。“LEFTOVERTURE”が発表された同じ年、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身のトム・ショルツ率いるBOSTONがデビュー。1st、“BOSTON(幻想飛行)”はいきなり1000万枚を売り上げる大成功を収めた。翌1977年にはSTYXが“THE GRAND ILLUSION”を大ヒットさせ、さらに1978年には、ヴォーカルにスティーヴ・ペリーを迎えたJOURNYが“INFINITY”を発表して人気バンドに成長することになる。(ただ、この頃になると、アメリカン・プログレッシヴ・HRと言うよりはAOR〜アダルト・オリエンテッド・ロック〜の色合いが帯びてきたと言うべきか?)

 ‘CARRY ON WAYWARD SON’、音楽が好きだという人には是非とも聴いてもらいたい曲だ。スタジオ・ヴァージョンも素晴らしいが、ライヴ・ヴァージョンも聴いてもらいたい。KANSAS全盛期のライヴ・アルバム、“TWO FOR THE SHOW(偉大なる聴衆へ)”も良いが、個人的には、オリジナル・ラインナップではないが、現・DEEP PURPLEのギタリスト、スティーヴ・モーズが参加していた1989年のライヴを収めた“KING BISCUIT FLOWER HOUR PRESENTS”(1999年)のヴァージョンをお勧めしたい。この頃はかなり、へヴィ・メタル的なので、結構かっこよい。
 いずれにしろこの曲は、後世にまで「伝承」すべき曲であると、私は思っている。(ヴァレーリエ)


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