Over The Trial



その5


 そして日曜日。七梨家の朝はいつもより早かった。午前7時には全員(キリュウ除く)が起きていた。いつもなら「休日は昼ごはんが朝ごはんなのよ!」と言ってなかなか起きてこないルーアンが、すでに着替えも食事も終えている。ちなみにシャオはそれより早く支度を済ませている(特に早いわけではなくシャオはこれが普通なのだ)。

「さあさあ、たー様、早く着替えてお食事して! そしてできるだけ早く行きましょう!」

「こんな時間じゃまだやってないよ。それにあせらなくても遊園地は逃げないって」

「何言ってるの、開園と同時に入って遊びまくるのよ! ほらほら、フェイも早く支度して! …シャオリン、キリュウは?」

「まだお休みになっていると思いますが。私たちが起こしてもなかなか起きられないので」

「まだ寝てるですって? 何やってるのよ、あの小娘は」

 そう言ってルーアンは2階へ上がっていった。

「ルーアンのやつ、相当気合入ってるな」

 普段のルーアンなら、フェイやキリュウを気にかけたりすることなどはまずない。実際フェイは驚いたような顔をしてルーアンの方を見ていた。

「ルーアンさん、とても楽しみにされているんですよ。ゆうべもほとんどお眠りになれなかったそうです」

「まるで遠足前日の小学生だな」

 太助は笑って言った。

「シャオ、ところで那奈姉は?」

「那奈さんは用事があると言って今朝6時には家を出られましたよ」

「ずいぶん早いな」

「何か大きなカバンを持たれていたようですが」

「もしかして、また旅に出たのかな」

 那奈は太助の親族の中では最も家に帰ってくる頻度が高い。ふらっと帰ってきたかと思ったら、いきなり旅に出てしまうこともある。

「まったく行動力があるというか、無計画というか…」

 太助が笑っていると、突然2階からものすごい音がした。思わずフェイと顔を見合わせる。

「キリュウ、起こされてもなかなか起きないから」

「ルーアンがキレて陽天心を使ったんだろうな」

 しばらくすると、ルーアンが寝ぼけ眼のキリュウをかついで下りてきた。キリュウは寝巻きではなくすでに着替えている。おそらくルーアンが陽天心を使って着替えさせたのだろう。

「まったく、手を焼かせるんだから」

 ルーアンがキリュウを椅子に座らせると、キリュウは大きなあくびをして、周りを見渡した。

「ん、主殿たち、おはよう」

「お、おはよう」

 つられて太助もあいさつを返す。

「のんきにあいさつしてる場合じゃないわよ。キリュウ、いったい何時だと思ってるのよ」

「7時30分だが?」

「そうよ、開園まであと1時間30分しかないのよ。家から東京ラッキーランドまでは1時間はかかるんだから」

「ではまだ大丈夫ではないか」

「何言ってるのよ。たとえ開園前に着いたとしても、すでに並んでるってことがあるでしょう。どうせなら一番乗りじゃないと」

「USJじゃないんだから…」

 太助は苦笑した。…と、思い出したように、そういえば、とキリュウに聞く。

「目覚ましはどうしたんだ? いつもの大掛かりな仕掛けとか」

 太助は以前キリュウが最後に巨大包丁が落ちてくるという一歩間違えば命の危険にさらされるような目覚ましの仕掛けを作っていたことを思い出したのだ。

「目覚ましを仕掛けるのをすっかり忘れていた。ちょっと考え事をしていたから」

「まったく、あたしが起こさなかったらいつまで寝てるつもりだったのよ」

 キリュウは以前、同じように考え事をしていて、起きてみたらすでに2時間目の授業中だったということがあった。

「まあいいじゃないか。きちんとみんな起きたんだから」

 太助が場をまとめるように言った。



 数分後、キリュウが食事を終えると一向はすぐに玄関に向かった。…と、この表現は正しくない。正確にはルーアンが全員の服に陽天心をかけて強引に玄関に「向かわされた」のだ(笑)。

「ルーアン、いくら早く行きたいからって…」

「ごめんなさい、たー様。ところでシャオリン、お弁当は持った?」

「はい、ちゃんとここに」

「そう、じゃあたくさん遊んでできるだけおなかをすかせないとね」

 ルーアンは遊園地もそうだが、このお弁当を楽しみにしているらしい。

「よし、じゃあ行こうか!」

「はい」

「うむ」

「は〜〜い」

「しゅっぱ〜つ!」

 ちなみに最後のはフェイだ。見た目より大人びているフェイだが、時々こういった子供らしい一面も見せるのだ。こうして、一行は開園1時間以上前にはりきって家を出たのだった。



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