Over The Trial



その4


 結局あの後、シャオが別のメニューを作り直して事なきを得た。キリュウはあれから口を閉ざしたままだ。

「へえ〜、そんなことがあったんだ。ハハハ…」

 そう言って笑ったのは、唯一被害に遭わなかった那奈だ。

「笑い事じゃないよ、那奈姉。ホントに大変だったんだからな」

「悪い悪い。でもキリュウはなんでそんなことしたんだ?」

「まだキリュウだと決まったわけじゃないんだけど…でもここのところキリュウは少しおかしいんだ」

「太助、何か心当たりある?」

「う〜ん…」

 考えていると不意に呼び鈴が鳴った。

「あ、は〜い」

「新聞の集金です」

「あ、ちょっと待ってくださいね」

 太助はお金を取りに行き、料金を支払った。いつもならこれで終わりなのだが…

「はい、七梨さん。これ」

 と言って集金人が渡したのは何かのチケットのようだった。

「これは?」

「いつもご購読いただいているので感謝の気持ちです。ご家族で出かけられてはいかがですか? では、これで失礼します」

 彼が渡したのは東京ラッキーランドの4名さま分のフリーパスだった。

「ずいぶん遅かったな。何かあったのか?」

 太助が部屋に戻ると、那奈が聞いてきた。

「こんなものもらって…」

「まあ、太助様。何ですか、それ?」

 台所仕事を終えたシャオがパタパタと入ってきた。

「何? 何?」

 それにつられるかのように、ルーアン、キリュウ、フェイが次々と部屋に入ってきた。

「遊園地のチケットだよ。どう? 今度の日曜にみんなで行かないか?」

「行く、行く!」

「まあ、楽しそうですね」

「あたしは遠慮しとくよ。別の用事があるから」

 そう言って断ったのは那奈だ。

「じゃあ5人で行くか。フェイの分だけチケットを買えば…」

「私はいいから4人で行ってきたらどうだ?」

「キリュウ…」

「あんたねえ、せっかくたー様が誘ってくれてるんだから、少しは付き合ったらどうなのよ」

「そうですよ、キリュウさん」

 珍しくシャオがルーアンに加勢した。

「みんなで行きましょうよ。楽しそうですよ、ほら」

 そう言ってシャオはキリュウに東京ラッキーランドのパンフレットを見せる。

「だが私は… …!?」

 キリュウは食い入るようにパンフレットを見つめている。その様子を驚いた顔で見守る一同。

「気が変わった。私も行こう」

「よし、これで決定だな。フェイも行くだろ?」

「もちろん」

「日曜日が楽しみですね、太助様」

「そうだな」

 これが新たな事件の幕開けとなることを、太助たちは知る由もなかった。



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