しばらく固まっていた出雲は、ハッと我にかえった。
出雲「はあ、私は別にかまいませんが…。ずいぶんと積極的な方ですね」
離珠「そ、そうですか?」
出雲「別に悪いと言ってるわけじゃありませんよ。とりあえず外に出ましょう」
そう言って出雲は店の外に出た。それに続く離珠。
出雲「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名前は宮内出雲。宮内神社で神主をしています」
知ってると心の中で思いながら離珠はそれを聞いていた。
出雲「ところであなたのお名前は?」
離珠「へ?」
突然名前を聞かれた離珠はすっとんきょうな声を上げた。そんなことを聞かれるとは考えていなかったのである。
離珠「えっと、離…じゃなくってりかです」
慌てて本名を言いそうになったが、とっさにこの名前が出たのだ。
出雲「りかさんですか。どんな字を書くんですか?」
この質問に対して離珠は声も出なかった。
離珠(どうしよう…ひらがなは読めるんでしが、漢字なんてわからないでし)
どう答えたものかと辺りを見回した離珠はあるところに目が止まった。そこはさっきまで離珠たちがいた本屋のドアだった。そこに貼られている1枚のポスターには、一人の少女が写っていた。彼女の名前は「田中 梨果(たなか りか)」。最近人気が出てきたアイドルだった。子供にも人気があるため、そのポスターには読みがながついていたのだ。
離珠「あれと同じ字です」
離珠はポスターを指差して言った。
出雲「変わった字ですね。でもかわいいあなたにぴったりだ」
離珠「私もこの字は気に入ってるんです」
出雲「そうなんですか。では梨果さん、どこに行きたいですか?」
離珠「ゲームセンターに行ってみたいです」
出雲「ゲームセンターですね。わかりました」
実は離珠は前からゲームセンターに行ってみたかったのだ。花織がよく太助を誘っていたので、名前だけは知っていたのだ。名前しか知らなかったが、なんとなく楽しそうなところだと思ったのだ。
しばらく歩いた二人はゲームセンターに到着。離珠はその雰囲気に飲まれていた。
離珠(ちょっとうるさいでしけど、とても楽しそうでし!)
その後二人はしばらくの間、さまざまなゲームを楽しんだ。離珠が遊び方を聞くと出雲は一つ一つ丁寧に教えてくれた。流行の音楽ゲーム、ホッケーゲーム、UFOキャッチャーなどを楽しんだ二人は少し休憩に入っていた。
出雲「はい、どうぞ、梨果さん」
離珠「あ、ありがとうございます」
飲み物をやさしく差し出す出雲とそれをぎこちなく受け取る離珠。端から見たら初々しいカップルに見えただろう。
出雲「梨果さんがとても楽しそうにしてくれるので、私もうれしいです。まるで初めてここに来たかのように熱中してましたね」
離珠「そ、そうですか?」
離珠が少し気まずそうにそう言ったので、出雲は申し訳なさそうに、
出雲「すいません。何か悪いことを聞いたみたいですね。もし私でよろしければ相談に乗りますが」
離珠「え? そんなことないです。それよりどこか他のところに行きましょう」
これ以上話をしているとボロが出ると思った離珠は、途中で話を切り上げてゲームセンターの外に出た。