魔法のクッキー

第2部

  乗っている机がいつもより小さいのだ。それだけではなく、ソファーも、テレビも、何もかも小さい。

離珠「変でしねえ。みいんないつもよりちいしゃいでし。キリュウしゃんの試練でしかねえ」

  その割には太助やキリュウが近くにいる様子はない。それに明らかに変である。周りのものを小さくしても特に試練になるとは思えないのだ。しばらく考えていた離珠は鏡を見て驚いた。明らかにいつもの自分の姿ではない。

離珠「これはもしかして…離珠が大きくなったんでしか?」

  そこにうつっていたのは人間サイズの離珠だった。さらに離珠はもうひとつの変化にも気づいた。

離珠「しゃべれるでし! 離珠は人間になれたでし! 早速みんなに会いに行くでし!」

  そう言って出て行こうとした離珠はあることに気づいた。シャオに留守番を頼まれていたのだ。

離珠「このまま出て行ってシャオしゃまに見つかったら怒られちゃうでし。そうでし! 服を着替えるでし!」

  このサイズなら他の人の服でも着れる。そう思った離珠は那奈の部屋に向かった。シャオの服でもよかったのだが、ばれる可能性があると思ったのだ。クローゼットの中を見る離珠。

離珠「那奈姉しゃんの服は派手なのが多いでしねぇ。あ、これなら着れそうでし」

  離珠はそう言ってその中では一番まともな服を取り出した。実はその服は太助がシャオと初めて買い物に出かけるとき、太助がシャオに選んだ服なのだが、離珠はそのことを知る由もない。

離珠「なんか離珠じゃないみたいでし。あ、髪形も変えないとばれちゃうでし」

  そう言って髪をほどく。普通の服にロングヘアーの離珠は、もはや離珠ではなかった。完全な人間の女の子だった。

離珠「さあ、出かけるでしよ」

  外に出た離珠は、あらためてサイズの違いを実感していた。いつも長く感じていた玄関前の道も短く感じる。

  家の前に出た離珠はどこへともなく歩き出した。

離珠「どこへ行こうかなあ。商店街もいいでしねえ。でも、シャオしゃまに会ったら…」

  いくら髪形や服装を変えているといっても、気づかれるかもしれない。離珠の足は自然と商店街から遠ざかっていた。そうしてしばらく歩いているうちに、繁華街に出た。離珠はその中の本屋に入ってみた。

離珠(うわ〜っ、いろいろな本がいっぱいでし!)

  離珠はさまざまな本を手にとって見た。漢字は読めなかったがひらがなは読むことができた。それより何より普通に本を読めることがうれしかった。うれしそうに本を読む離珠は、後ろにいる人物の存在にまったく気づかなかったのだった。 

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