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 ハサミゲージ製作の機械化について



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 ハンドラップ技能の機械化



機械化という「隘路」

 ハサミゲージ製作の機械化の試みは随分昔から構想されていたのであった。
 旧い教科書では、鋳物製の円盤を垂直に回転させて、その円盤面にはラップ油とラップ砥粒とが塗布されていて、そこにハサミゲージの測定面を直角に押し当てるというものが図持されていたりする。しかしながら、このようなメカニズムでは、鋳物製円盤の外周速と内周速との差によってラップ力が異なってくるし、円盤それ自体が摩耗して直線度が変位してくるし、あるいはまた、ワークたるハサミゲージ測定面の縁垂れや傾きや平面度・直線度というものが不定なものとなるから、結局のところ、最終的にはハンドラップで是正していかざるを得ない。余り効率が良くなるというものではない。
 もちろん、さまざまな障害事象を一つ一つ解決を図り、機械化によるラップ仕上げを可能とするメカニズムが開発できるかも知れない。それを期待して、ひたすら機械化を試行するというのもあり得る話である。

 しかしながら、そのようなメカニズムを開発できたとして、その償却に何年かかるかを考えた場合、3年や5年で償却できそうならば本気で取り組むべき価値はあるだろうが、しかし、それが10年どころか20年経ても30年経てもとても償却できそうにもないだろうと考えられる場合、機械化を考えることは経済的にはほとんど無意味で、手作業に依拠した方が遙かに経済的であるし、品質的にも確実で信頼性が高い。
 そういった単純明快な理由によって、ハンドラップの技術と技能は、手作業の世界としていつまでも残っていくことになっている。
 それ以前に、ハサミゲージの仕上げということはワークの「内側」の仕立て上げであって、このこと自体が機械化・自動化にはそぐわないことなのである。

 同じような事情は、例えば、マシニングセンターでワークを切削加工した場合のその切削痕を消除するという場合、また、ワイヤーカット加工機で加工したワークの加工痕を消除するという場合、それらの「最終仕立て上げ工程」が機械化できているかどうかという問題がある。私らはその外部にいる人間だから、現場の内部的な状況はよく分かっていないのだが、機械加工のレベルを超える加工痕の消除という問題は、やはり手作業に頼っている部分が大きいのではないかと推察できるのである。


機械加工に伴う変形と変性

 例えば、キー溝幅ゲージを製作する場合、ゲージ測定部の片面をオプチカルフラットで光筋が出ない程度にまでへー面を仕立て上げて基準面とし、もう一方の側で寸法仕立てをしていこうとする場合、取り代が大きければ平面研削盤で必要な研削を行うのだが、その加工代が0.01〜0.02mm程度であったとしても、基準面の側をオプチカルフラットで再検定してみると、光筋が2〜3本現れる程度に平面度が劣化していることが分かる。性格に言うと、加工部位であるゲージ測定部全体に「変形」をもたらせているのである。そのため、基準面を再度仕立て上げ直して、その基準面を元にゲージ部の寸法精度を仕立て上げるという作業が必要になる。平面研削盤による平面研削作業では、全体の形状が維持保全されないということであり、平面研削に際してワークに賦課された力によって応力変形がもたらされるということなのである。
 従って、ゲージの最終的な寸法仕上げに際しては、「手による力以上の力をワーク表面に賦課してはならない」という「鉄則」が産まれる。
 一般的な「常識」として、平面研削盤で平面研削した結果は平面であると主張される場合がほとんどであるのだが、それは2μm以下での平面の「歪み」や「曲がり」や「傾き」が検出できないという測定能力の限界を意味しているだけで、ゲージ製作の場合のような0.2μmの寸法差を意識して製作するような場合とは同列には論じられない。
 先に、キー溝幅ゲージでの例を採り上げたのは、そのワークが焼き入れ工具鋼であるからなのだが、焼き入れ工具鋼は決してニュートン力学でいうところの「剛体」ではなくて、固有の応力変形をきたすものである。これが焼き入れをしていないナマ材のものであれば、それ以前の加工履歴に伴い内部応力を蓄積してきているわけだから、へー面研削に伴い変形ももう少し複雑な現れ方をするだろう。従って、例えば、その平面研削盤の加工精度をいっそう高度化したものを使うという場合でも、それで問題が一切解決されるということにはならないだろう。

 最近よく語られることのようなのだが、ワイヤーカット機でゲージ形状を切り出せば、その加工痕を消除さえすれば、それでゲージが出来上がる、という。
 そんな話が本当であるならば、ゲージ業界への新規参入が相次ぐだろうし、ゲージ価格も随分と安価になるだろうから、「画期的な」話になるだろう。
 しかしながら、私の立場から言えば、局所的に非常な高エネルギーを賦課するような加工方法によれば、それでワークが無事に済むわけがないだろうということなのである。
 
機械加工でハンドラップ技法は代替可能か

 手作業には手作業が必須となる独自な加工世界があるのだから、それをそっくり機械化するということはできないことなのである。



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