ハサミゲージの耐摩耗性

 

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 〔5〕ハサミゲージの耐摩耗性について


 
摩耗とは

 「摩耗」とは、その言葉通り、ワーク表面とゲージ測定部面とが相互に擦れ合うことによってその接面が摩滅する現象を言う。

 通常、ハサミゲージの測定部の焼き入れ硬度はHRc60もしくはそれ以上と定められているから、ワークの硬度がそれ以下の場合、ゲージ測定面が摩耗するとは考えにくいはずなのだが、実際にはなかなかそういうことにはならないようで、だからこそ問題として指摘されることに至る。従って、摩耗ということをもう少し掘り下げて考えないといけない。

 
焼き入れ硬度と耐摩耗性耗

 通例では、ハサミゲージはSK工具鋼によって製作されているから、その鋼種範囲で考えていくことにする。
 SK5の場合、その焼き入れ硬度はHRc58程度とされ、SK4の場合はHRc60,SKS3の場合はHRc60〜62となる。これに対して、SK3の場合には、その焼き入れ硬度はHRc64になる。従って、焼き入れ硬度が高くなるに従ってその耐摩耗性はアップしていくという「通念」に従えば、SK3を用いれば、SK工具鋼中で最高の耐摩耗性が実現されるはずということになりそうである。しかしながら、SK3製によって画期的に耐摩耗性が向上するということにはならない。硬さは硬いが、しかしながら「粘り」に欠けるということなのである。その点を踏まえて、SKS2製ではどうかということになると、この鋼種にはタングステンが含まれるから、かなりの程度で耐摩耗性は向上する。一昔前には、「タップ」等の切削工具に採用されていた鋼種であるから、その点での信頼性はあると言えるだろう。
 しかしながら、問題は鋼種選択の問題に尽きるわけではないのであって、従前よりのハサミゲージの仕上げ方法、すなわち、鋳物製ラップ工具+WAラップ砥粒+ラップ油といった道具立てでSK3やSKS2製のハサミゲージを製作しようとすると、ひどくてこずることになる。ラップ技法がこれらの鋼種のラップ加工には適合しないのである。従って、製作に難儀するこれらの鋼種でのハサミゲージ製作は、メーカーからは忌避されることになる。敢えて製作した場合でも、耐摩耗性が画然と改善されることにもならないことは実証例に事欠かない。そのため、SKS3製であれば、それ以上のことを望むべくもないという結論に至っているのが現在なのである。
 このような事態は、実は、ハサミゲージの製作史を反映している。
 第二次世界大戦中の大量のゲージ需要に対して、その需要に対応するために多くのゲー工が養成されたのであったが、鋳物製ラップ工具+WAラップ砥粒+ラップ油といった道具立てが最も容易にゲージ王を養成できる技法であった。ゲージ素材としてはSK5どころかS45CやS55Cといった素材も広く使われていたのであって、国策としてゲージ製作技法が採用され履践されてきたから、この技法が唯一正当な技法であるという通念が出来上がってきた。戦後にいたって、SK4がゲージの標準材質とされ、さらには、SKS3の採用が当たり前になってきた時代の趨勢に対して、ゲージ製作技法は改善と変革が企図されてきたとは言い難い。
 旧JISでのハサミゲージの製作公差の最も厳しく定められた時点で、SK4では力不足であると考えて新たな材質規定がなされるべきであったのだが、それに対応できるメーカーがなかったならば、旧前の材質規定を継承していく以外には無い。
 そうこうしているうちに、従前よりゲージ鋼を供給していた日立金属(株)のSK工具鋼・薄板材製造からの撤退が現実のものとなり、結局、ハサミゲージ素材としてはダイス鋼へ転換していく以外にないという事態に至った。ダイス鋼の採用によって、ハサミゲージの耐摩耗性の問題はほとんど解決されるという見通しだ立ったのであった。

 ダイス鋼の焼き入れ硬度は、実務上は、HRc58〜64とされている。焼き入れ硬度だけを見ると、SK工具鋼の場合とさほどの違いは無いように見えるのだが、焼き入れ硬度のみが耐摩耗性を規定する要件ではないのであって、12%クロム、1.5%カーボン、プラスしてバナジウムという合金は、「硬さ」と「粘り」と「滑り」によって耐摩耗性が実現されるものである。


摩耗の原因をどう考えるか?

 ワーク表面とゲージ測定面トン硬度差によって、どちらかか一方の面が他方の面を傷つけることによって摩耗が進行するという理解がある。そのような理解を背景にして、摩耗対策の方法として先ずゲージ測定部の焼き入れ硬度が問題にされるのであるが、もう少し詳細に事態を見ていかないといけない。

 通例、IT5〜7級のハサミゲージで寸法検定されるワークというものは、焼き入れ硬化処理されて研磨仕上げされるものが多い。その研磨仕上げというものがいわゆるWA砥石(あるいは、「セラミック砥石」)で検索・研磨されるのだが、砥石砥粒が鋭利な鋭角状を呈しているから、その対応面は鋭利な凹凸を呈しているのであって、決して平坦・平滑に仕上げられているわけではない。同様の事はゲージ測定面についても言えるわけで、従って、ゲージでワーク寸法を検定するという作業は、相互に鋭利に切り立った凹凸面を擦り合わせるということになっている。その場合、例えワーク表面の硬度が相対的に軟らかなものであったとしても、その表面凹凸が鋭利なものであれば、他方の面を傷つけるのである。
 このことの例証として、ガラス粉末をラップ砥粒としてSKS3製ハサミゲージの測定面(焼き入れ硬度はHRc60であることは言うまでもない)をラップしてみると、そのゲージ測定面には容易にキズが入る。
 つまり、摩耗を考える場合、その「硬度」のみが考えるべき要件であるのではなく、その「形状」と「力の賦課」を見ないといけない。
 その点を更に追究すると、焼き入れ硬度がHRc60であるワーク(あるいはゲージ測定部)の表面においてHRc60がそのまま確保されているのかどうかという問題がある。加工に際して表面に賦課される加工力が内部応力を生み出し、内部応力によって結晶構造が揺さぶられて「軟化する」という点点、あるいは、加工に際して発生する加工熱によって「焼きが戻る」、言い替えれば「軟化する」ということが指摘できるだろう。
 この点は、その逆方向では日常的に経験することで、単純な炭素鋼の場合、コンターマシンで材料切断した時にその切断面は硬化する、あるいは、グラインダーで端面を削った場合、その研削面が硬化する、・・・といった事態に遭遇する。これらの点を指称して「熱感応性が高い」と言っているのだが、要するに「力が賦課されることに起因する材質(結晶構造)の変化・変位」ということである。
 これらの点は、私らでは、「ヤスリ掛けをしてみる」とか「「砥石で擦ってみる」とか「ラップしてみる」という作業を通じて、《体感的に》感知SK出来得る変化なのだが。

 ワークが、SK工具鋼ではなくて、いっそう「粘り」の強いクロム鋼の場合には、ゲージ測定面の方が負けてしまって一方的に摩耗するという結果になりそうではある。 


摩耗対策をどう考えるか

 ハサミゲージの耐摩耗性を考える場合、SK工具鋼製という現在の通例の範囲内で考えると、HRc60以上というJIS規定を前提にする限りは、多少とも高めの焼き入れ温度となるように配慮するという点と、焼き入れの際の冷却速度を多少とも早くなるように配慮するという点を指摘したい。焼き入れ硬度を規定するのはこの冷却速度なのであって、冷却速度が速すぎれば「焼き割れ」を生じてしまうのだが、冷却速度が遅ければ充分な焼き入れ硬度は確保されない。焼き入れ速度の「遅さ(遅効性)」という問題は随分と昔から意識されていて、加熱したワークを焼き入れ油に浸漬けした時に泡立つと焼き入れ油の冷却性能は著しく損なわれる。また、やい要れ油の流動性が悪ければ冷却能力は発揮され得ない。この2点の「改善」で、焼き入れ硬度はかなり納得のいくものとなるだろう。
 焼き入れ硬度の問題の次は、ゲージ測定面の仕立て上げの技法を考えると、通例の遊離砥粒(WA)ラップ/湿式の場合、遊離砥粒同士が相互に潰し合い(共摺り)を行って相互に破砕され、砥粒粒径が微細なものとなって、言うなれば、砥粒の粒径が不揃いなままその仕上がり面のラップ痕も不均等になる。この点が、ゲージ測定面がワーク面を損耗させるし、あるいは、ワーク表面からのダメージを被りやすくもする。これを抑止しようとする場合は、ラップ砥粒の粒度をいっそう微細なものとする必要があるし、WAではなくGC砥粒でのラップに変更することも考慮されるべきである。cBN砥粒を採用することはいっそう効果的ではあるだろう。

 SK工具鋼に替えて、それよりも耐摩耗性が遊泳な素材としては、ダイス鋼製ということになる。耐摩耗性はSKS3に比べて3倍とされており、実務的に採用すべき素材としてはダイス鋼以外には考えられない。
 ゲージ素材の耐摩耗性という場合、ハイスも採り上げられてよい素材なのだが、局部焼き入れが可能であるかどうかの点の見極めが必要で、未だに一定の見通しを付けて開発に着手するまでには至っていない。
 ダイス鋼製を考えた時、耐摩耗性に優れた素材ということは、ハンドラップでゲージに仕立て上げる手業で対応できるかどうかの「壁」にぶち当たる。摩耗しにくい素材であるということは、ラップ仕上げが困難であるという、いわばトレード・オフの関係に立つ。結論的には、遊離砥粒ラップ/湿式の技法よりも遙かにラップ能力が高い固定砥粒ラップ/乾式の技法に至ったのであったが、この固定ラップ/乾式の技法というのは、その出発点からこの技法では(実務的に)ゲージ製作ができない全く不適合な技法とされてきたものであるから、改めてこの技法に転換すべしとされても困惑されるだけだろう。

 SK工具鋼製ゲージの耐摩耗性の「改善」方法として割合に広く考え出されたのは、ゲージの仕様についてJIS仕様に変更を加えるということで、具体的には、ゲージ厚さ(ゲージ測定部の幅)を大きくするということがある。7〜12mm厚の板材からゲージ形状を切り出すというのである。一見するとゲージ厚さに比例してその耐摩耗性は向上するように思えそうなのだが、例えば、4mm厚のゲージで2μm摩滅するものであるなら、8mm厚に「変更すれば、その2分の1の1μmに抑制できるという理屈なのだが、ワーク面とゲージ測定面との間での力の加わり方について言えば、単位面積で考えれば、4mm厚のゲージで2μm摩滅するものであるなら、8mm厚に「変更しても、やはり2μm摩滅するものである事が分かる。

 摩耗ということを考える場合、その摩耗するというゲージの使い方についても注意が向けられるべきなのである。
 ハサミゲージの使い方として、ワークを加工盤から下ろして測定台上に置いて、手でゲージを操作して合否判定するというのを常態とするという考え方に私らは立っているのだが、実際には、加工盤上でその稼働を止めることなくゲージをあてがうという使用法でおられるユーザーがあるそうである。このような事例では、ワーク表面は加工砥粒や加工滓が残置されたままであるから、ゲージ測定面でワーク表面をラップしているのと同然になるから、当然、ゲージ測定面は魔損される。このような場合、ゲージ測定面の磨損と同じ程度にワーク表面も魔損しているだろうことは当然予想されることである。仮に摩耗しないゲージをあてがった場合、その分はワークの側をそれだけひどく損耗させていくだろうということだから、いっそう事態は難しくなるだろう。
 ゲージ測定面を損耗させず、まして、ワーク表面をいささかも損耗させないようなもの・・・ということは、現在では、夢想に近い。

 耐摩耗性という問題は、上記以外にも、防錆の問題との絡みでいろいろと試行されてきてはいる。
 一つには、硬質クロムメッキをゲージ測定面上に施すことによって、防錆と耐摩耗性の問題を同時に解決しようという試みである。最近では、硬質クロムメッキ以外に、無電解ニッケルメッキに硬化処理を施して硬質クロムメッキに比肩する硬度を持たせた表面処理技法も実務化されている。更には、その極め付けの技法として、ダイヤモンドで必要な部分をコーティングするという話まで出ている。当然、いろいろな問題が解決されるべき問題として俎上に上がってくるわけなのだが、どこか引き受け手があれば・・・の話に帰結していく。



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