§05 兵勢篇
兵勢篇では
集団心理を利用して勢いづける重要性を説いている。  

05-01
「衆を治(おさ)むること寡(か)を治むるが如(ごと)く
 なるは、分数(ぶんすう)是(こ)れなり」 
大部隊をあたかも小部隊のように指揮するには、
組織編成を簡明にしなければならない。

05-02
「衆を闘(たたか)わしむること寡(か)を闘わしむるが
 如(ごと)くなるは、形名(けいめい)是(こ)れなり」 
大部隊を小部隊のように整然と戦わすには、
情報伝達系統を簡明にしておかねばならない。

05-03
「三軍(さんぐん)の衆、必ず敵を受けて敗(やぶ)るること
 無からしむ可(べ)き者は、奇正(きせい)是(こ)れなり」 
全軍が敵の攻撃を受けて敗れないようにするためには、
正攻法と奇策との適切な使いわけが必要だ。

05-04
「兵の加わる所、碬(か)をもって卵に投ずるが
 如(ごと)くするは、虚実是(こ)れなり」 
石で卵を砕くように敵を撃破できるのは、
我は十分に態勢を整えて、敵のスキ衝いて攻撃するからだ。 

05-05
「凡(およ)そ戦いは正を以て合い、奇を以て勝つ」 
戦いというものは、正攻法を原則とし、
状況に応じた奇策を用いることで勝つ。

05-06
「色は五に過ぎざるも、五色(ごしょく)の変は
 勝(あ)げて観(み)る可(べ)からず」 
基本的なものを組み合わせることで、
新しいアイディアを無限に生み出せる。

05-07
「戦勢(せんせい)は奇正(きせい)に過ぎざるも、
 奇正の変は勝(あ)げて窮(きわ)む可(べ)からず」 
戦い方の基本は、正攻法と奇策の二つしかないが、
これを組み合わせることで無数のやり方が可能となる。

05-08
「善(よ)く戦う者は、其の勢い険(けん)にして、
 其の節(せつ)短し。勢いは弩(ど)を彍(は)るが如くし、
 節は機を発するが如し」 
名将の戦い方は、勢いが激しく、
好機を狙って力を集中して一気に攻め込む。
それは石弓を使う時に弦を十分に引いて
力を蓄えて、好機を狙って矢を放つようなものだ。

05-09
「紛(ふん)紛(ぷん)紜紜(うんうん)として闘い乱れて、
 乱す可(べか)からず。渾渾(こんこん)沌沌(とんとん)
 として形(かたち)円(えん)にして、敗る可(べ)からず」 
乱戦状態になっても、組織編成を保たねばならない。
混戦状態になっても、情報伝達系統を守らねばならない。

05-10
「乱は治(ち)に生(しょう)じ、怯(きょう)は勇に生じ、
 弱は強に生ず」 
万事順調な状態の中に乱れは発生する、勇気と臆病は
紙一重、強いものにも必ず弱さが存在することを
認識しておかねばならない。

05-11
「治乱(ちらん)は数(すう)なり、勇怯(ゆうきょう)は
 勢(せい)なり、強弱は形(かたち)なり」 
乱れるか治まるかは組織編成に左右され、ヤル気を出すか
無くすかは戦いの勢いにより、強くなるか弱くなるかは
目標に向っての態勢取りに左右される。

05-12
「善(よ)く敵を動かすには、
 之に形(かたち)すれば敵必ず之に従い、
 之に予(あた)うれば敵必ず之を取る」 
敵を動かそうと思ったら、敵がどうしても動かなければ
ならない状況を作り出したり、敵が手を出さずにおれない
餌や囮をチラつかせることだ。

05-13
「利を以て之を動かし、卒(そつ)を以て之を待つ」 
スキや利を見せて敵を誘い出し、待ち構えている部隊で
これを撃てばよい。

05-14
「善く戦う者は之を勢(ぜい)に求めて、之を人に
 責(もと)めず、故に能(よ)く人を択(えら)びて
 勢に任ぜしむ」 
名将は個人個人の能力にとらわれずに、全体の勢いを
重視する。従って、適任者を選抜配備して特性を発揮させ、
集団としての勢いづけをさせる。

05-15
「木石(ぼくせき)の性は、安(やす)ければ静かに、
 危うければ動く」 
木石は置かれた状態が安定していると静止したままだが、
不安定にすると動き出す。
(危機感を持たせることが大切)

05-16
「善く人を戦わしむるの勢(いきおい)、円石を
 千仭(せんじん)の山より転がすが如きは勢なり」 
個人個人にヤル気を出させれば、円い石を高い山から
転落させるような勢いをつけることが出来る。


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