彼らの恋愛勝負



「深堂!! 勝負して! 勝負!!!」
「何の。」
付き合い始めてからも未玖は司に勝負をもちかけていたので、今回も未玖が勢い良く、むしろ余るくらいの剣幕でそう言ってきても、司はいつもの事だと冷静にそう返した。
が、続いた言葉はいつもとは違っていた。
「あたしとじゃなくて、バスケ部と!!」
「はあ?」


その後の未玖の言葉を無理矢理まとめるとこういう事らしい。
バスケ部の3年と話してたら、勢いというか売り言葉に買い言葉というか、未玖本人もよく分からないうちにとにかく勝負する事になった、と。

・・・あんまりまとまってない気がするが。
しかし、理由を聞いても

「何でそんな話になったんだよ。」
「だって!! ・・・言うのもムカつくから嫌!!」

こんな返事しか返ってこないのだから理解のしようがない。
人を巻き込んでおいて言える台詞かそれは、と思うが。

「勝負っつっても、何でバスケ部とバスケで対決しなきゃなんねーんだよ。不公平もいいとこじゃねーか。」
「深堂なら勝てる!! ていうか、あんなのに負けたら許さないんだから!!!」

んな滅茶苦茶な・・・

とは思うものの、フケようものなら機嫌を損ねる、どころか本当に怒って口をきかなくなりそうだ。

相変わらず突拍子のない事をする恋人に内心ため息を吐きながらも、結局引き受ける事になるのだった。



****



「惚れた弱みというか、見事に尻にしかれてるな。で、何で俺らまでそれに付き合わされなきゃなんないんだよ。」
「3on3だっつーんだから仕方ねーじゃん。」
不満そうな表情をしている涼に、悪びれずに答える司。
すぐ傍には蓮見もいる。
「第一、選んだの俺じゃないし。」
未玖が知らない間に決めていたのだ。
が、涼は転校してくる前はバスケ部だったし蓮見もバスケ経験者。
人選としては悪くないと言える。
未玖にその人選のアドバイスをしたのが誰とは言わないが。

「いやぁ。全くやる気が見られないわね。」
「・・・・・・」
体育館の隅っこでウォーミングアップをするでもなく、ただ喋っている彼らを見て藍がそう呟いた。未玖はその横で拗ねたような表情をしている。
そんな未玖に桂が声をかける。
「大丈夫。」
「・・・何が?」
「もうすぐ出るから。やる気。」
桂はそう言うと、どこかへ行ってしまった。
何でか桂が仕切ってるので、準備か何かあるのだろう。
桂の言葉に未玖は首を傾げる。
まあ、意味はすぐ分かったが。




「・・・何でお前がいるんだよ。」
「何でって頼まれたから?」
不機嫌そうな司の言葉にいたって軽く答えたのは長谷川慎。
未玖に告白してきた一件以来、司は慎をかなり嫌っていた。
どうやら、敵チームとして参加しているらしい。
「この試合、勝った人には好きな子とのデート権がもらえるんだよね?」
「は?」
そんな話は聞いていない。
「こういうときでないと応じてくれそうにない人がいるからね。」
そう言いながら、視線は明らかに未玖の方を見ていて。
「・・・ぜってぇ負けねぇ。」



桂の言うとおり、司はこれでやる気充分だろう。
しかし司の場合、やる気と言うよりも殺気立っている気がする。
「深堂はいいとして、後の2人はやる気ないことに変わりないと思うんだけど。」
「・・・・ちょっといってくる。」
未玖はそう言うと、司達のいる方に近寄っていった。
「涼。」
「ん?」
「あっちのチームの少年Aね、名を飯塚君というんだけど。」
「はあ・・・」
相手の名前なんてどうでもいいのだが。
何が言いたいのか良く分からない未玖の言葉に、涼は適当に相槌を打つ。
「桂狙いなんだって。」
「は?」
「藍がそう言ってたもん。桂、変なとこ律儀だから、誘われたら多分受けるよ?」
涼も、司と慎の話は聞こえていた。
つまり、デートがどうのこうのというのも聞いていて。
未玖が言っているのは間違いなく少年Aが勝ったら桂をデートに誘うという意味で。
「・・・・・・・」

「おいこら。」
「わっ!?」
手を引かれてよろめきそうになりながらも振り返ると、目の前には何だか怒っている様子の司がいた。
「デートっつーのは何のことだ。」
「な、何の事って?」
今さっき自分で、しかも涼のやる気を出させようと利用するために言ってたくせに誤魔化そうとしてみる。
「そんなの聞いてないぞ。」
「言ってないもん。」
未玖派そう言い返しつつ、目も泳いでいるというか、怖くて目が見れないというか、司から発されている負のオーラのせいで逃げたい気持ちでいっぱいだ。
「な、何さ。勝てば問題ないじゃない。」
「そういう問題じゃないだろ!」
「そういう問題なの! ・・・負けたら絶交だからね!!」
小学生か、と思うような捨て台詞を吐いて、未玖はさっさと逃げていった。


「・・・・・司。」
「あ?」
「この試合、勝つからな。」
「ああ・・・」
「絶対あんな奴に負けねぇ!」
涼のスイッチも入ったらしい。

「へー。やっぱり涼ちゃんってそうなんだ。」
何だか一気に意気投合しだした2人を見て藍は感心したように言った。
「昔から桂バカだから。」
「あんた他人事だと鋭いわよね。となると残るは一人やる気無さそうなあっちゃんをどうするかだけど・・・大丈夫そうね。」

「という訳であっちゃん。勝ちに行くから明後日くらいに筋肉痛になるくらいの勢いでしゃきしゃき動いてね。」
「俺はそんな年じゃない。第一、何で俺がガキの揉め事に巻き込まれなきゃならないんだよ。」
「あっちゃん教師のくせにそんな暴言吐いていいの?」
「ガキってのはお前ら限定だ。」
「あっそう。でも負けたらペナルティだからね。」
「何でだよ?!」
「その方がやる気出るでしょ? 負けたら俺が知ってる限りのあっちゃんの過去をバラすから。」
「お前転校してったんだから俺らといたの小学生とかまでだろ。何を知ってんだよ。」
「そりゃ、甲斐くん経由でいろいろと。」
どうやら思い当たる節があるらしく、蓮見の顔がひきつる。
「それなら俺もある。おばさんがうちで嬉々として敦の不幸話を語ってたからな。」
「・・・・・・・」
撃沈である。
幼馴染と従兄弟、というかいらん事をぺらぺら喋る悪友と母親に勝つすべはないらしい。


そんなこんなで、試合開始。





  index next

top