「意外と普通よね。」
「何が。」
「2人のデート。」

2人が来た場所は水族館。
場所も普通だが、行動も普通だ。

「何を期待してるんだよ。」
「えー。だってあの未玖がいるから何か面白いこと起こらないかなーって思って。」

わざわざ覗きに来たのはこれが目的なのだ。

「でも未玖の態度って普通だし。深堂の甘い顔なんて見てもおもしろくもなんともないし。・・・売ったら儲かるかしら。でも2人の付き合い始めの頃は面白かったじゃない。未玖が深堂を避けまくっててさー。」
「あー。あれな。」

未玖と司が付き合いだしたばかりの頃。
クラスの女子がおもしろがって未玖に男女交際の仕方なるものを教えていた。
大体、ベタなものが多かったのだが。
お弁当作ってくるとか。
未玖は料理は出来るのでこの辺は問題なかったのだが、素直に実践する未玖とそれに対する司の反応がおもしろく、調子に乗ってあることないこと、あり得ないことまで未玖に吹き込むものだから、何がなにやら分からなくなり、無駄に意識してしまい、逃げる。という行動に出ていた時期があった。
3日くらい経ったら元に戻っていたが。
詳しいことはよく分からないが、とりあえず司が苦労して説得したんだろうということだけは容易に推測できた。無駄に溜息ついてたし。

「あいつ事あるごとに俺んとこ逃げてくるんだよな。どうにかなんないのか、あれ。」
「未玖にとっては駆け込み寺みたいね。別にいいじゃない。生徒から信頼されてて嬉しいでしょ?」
「嬉しいっつーよりも、司が怖いんだよ。」
「いい年した大人が何を情けないことを。」
「お前が言ってる"おもしろい"は見てる分にはおもしろいって意味だろ。そりゃ俺だって見てるだけなら同意見だが、巻き込まれるほうはたまったもんじゃないんだよ。」
「仕方ないじゃん。あっちゃんはそういう宿命なんだから。」
「そんな宿命あってたまるか。勝手に決めるな。」


「未玖がいない・・・」
「え?」

桂の声に、さっきまで未玖たちがいた場所を見ると、確かに姿がない。

「ねえ。」
「ぅわっ!?」
「み、未玖・・・」

振り向いた先には、未玖の姿があった。

「一緒にご飯食べに行かない?」

未玖は4人に向かってそう提案してきた。
特に驚いてるような様子も見られないところから、随分前から気付いていたのではないだろうかと思う。さっき気付いたばかりなら一言目に来るのは「何でこんなとこにいるの?」だろう。

「いつから気付いてたの?」
「水族館に入って割とすぐ。ガラスに映ってたよ。」
「・・・・・・」

なんて初歩的な。
何となくきまりが悪くて話を逸らす。

「ていうか、あんたデートしてるくせにあたしら呼んでどうすんのよ。」

確かにそろそろ夕食時ではあるが、デートに来ているのだからそのまま2人で行けばいいことだ。

「・・・・・行かない?」
「・・・・・・」

窺うようにそう言った未玖を藍がじーっと見ると、未玖は目を泳がせ、視線を逸らした。
普通なら決まり悪げに目を逸らすのは尾行していた藍たちの方だと思うのだが。
その様子を見た藍はにっこり、というかにやりと笑みを浮かべて問いかけた。

「何があったのかな?」
「なっ何もないもん!!」

そう言う未玖の顔は赤い。

「・・・馬鹿正直。」
「だな。」

「桂ぁ・・・」

三人の態度に、未玖は助けを求めるように桂を見た。

「・・・行く。」
「ほんと!?」

ぱぁっと未玖の表情が明るくなる。
おもしろいくらい素直だ。

「仕方ないわねー。付き合ってあげるわ。」

藍はそう言いながら未玖に抱きつく。

「お前ら、それくらいにしとかないとそこで黒いオーラ出してる奴のオーラがますますどす黒くなるぞ。」
「いいの。わざとだから。」

藍はあっさりとそう答え、司を見た。

「悪趣味なことしてんじゃねーよ。」
「何のことかしら?」
「覗きって犯罪なんだぞ。」
「のぞかれて困るような事でもしてるわけ?」
「別に。暇だなお前ら。」

未玖と違って司は簡単に動揺は見せない。
だからこそ未玖が逃げてきたのだろうけれど。
司の反応がつまらなかったからか、藍は未玖を放し司に押しつけて、いつの間にやら少し離れてこちらを見ていた涼たちのところへ近付いていった。

「何でちょっと離れてるのよ。」
「触らぬ神に祟りなしっていうだろ。」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずっていうじゃない。」
「こういう時に使う言葉じゃないと思うよ。」
「一歩進んだと思えば半歩下がる、というか後退さるのね。」
「普通は三歩なんじゃ・・・」
「三歩も進んだら脱兎の如く逃げ出すわよ。多分。」
「確かに。」

今の未玖の様子からも容易に想像できる。

「まあ、いかに逃げられないようにするかよね。」

さらりと物騒なことを言う。

「藍ちゃん・・・?」
「まあ、それを見るのと邪魔するのがおもしろいんだけどね。え? 思わない?」
「・・・・・・」

心当たりがあるような無いような・・・いや、あるか。
苦労するなぁ。いろんな意味で。
とは思うのだが、一緒になって後をつけてた自分たちに言えた台詞ではない。

「・・・お前ら人の恋愛に首突っ込んで楽しいのか?」

涼と藍の会話を聞いて蓮見は呆れたようにそう呟いた。

「恋愛っていうか、人の反応を見るのがおもしろいのよ。」
「あっちゃん若さが足りないよ?」
「んなの性格の問題だろ。お前は何でそんなに俺を年寄り扱いしようとするんだ。」
「四捨五入したら三十路じゃない。」
「するな!」
「年のこと言われて怒るようになったら年をとった証拠・・・」
「そのうち筋肉痛が二日後に来たり、風邪が治りにくくなったりするんだよ。」
「ぐっ・・・」

筋肉痛はともかく、風邪には若干心当たりがあるらしい。まあ、年というよりは体質のせいなのだが。

「そんな訳で、夕飯はあっちゃんの奢りね。」
「何でだよ!?」
「ご馳走様です。」

未玖たちの動向を見るのと同様に、こうやって蓮見を弄るのも習慣になりつつある。
要は自分たちが楽しければいいのだ。



そんな友人に囲まれた未玖と司、ついでに蓮見の前途はまだまだ多難らしい。





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