First・・・?
「未玖早いわねー。まだ待ち合わせの30分前じゃない。」
「どうせ、また漫画か何か読んだんでしょ。」
「なるほど。」
街角でそんな会話をしているのは藍、桂、涼の三人。
そして三人の視線の先には未玖がいた。
本日は未玖と司の初デートだ。
二人のデートを見守るという名目のもと集まったわけだが、野次馬根性全開なのは否定しない。
そもそも三人がこんな事をすることになった原因は三日前に遡る。
「え!? あんた達まだデートした事ないの!?」
「ないけど。何で?」
未玖と司が付き合い始めて二週間が経つ。
週末も二回挟んだ。
なので、とっくにデートくらいしてるだろうと思っていたのだが、まだ行ったことがないらしい。
「放課後一緒に帰ったりとかは?」
いわゆる制服デートというやつだ。
「ない。だって部活あるし。」
「・・・メールとかは?」
「しない。ていうか、やり方分かんない。」
そう言えば、未玖はメールとか苦手だった。
携帯は一応持っているが、まさに持っているだけ。
自分からメールしないし、電話も滅多に使わない。
使わないから、メールの使い方も知らない。
ゲームは出来るくせに。
まあ、単に興味がないだけなんだろうけど。
「デート・・・した方がいいの?」
「いや、あたしに聞かれても困るけど。」
「そういう話したことないの?」
「うーん。ないなぁ。」
「それって付き合う前と何も変わってないんじゃない?」
未だに勝負とか挑んでるし。
「・・・そうかも。」
藍の言葉を未玖もあっさりと認めた。
「未玖はともかく、深堂は何やってんのよ。くっつく前もじれったかったけど、付き合ってからもそうなの!?」
「藍、落ち着いて。」
しかし藍は桂の言葉にも止まることは無く、むしろますます勢い込んで言った。
「あたしだって好きで気にしてるんじゃないし! でも気になるんだからしょうがないじゃない!!」
どう付き合おうが二人の問題なのだから放っとけばいいのだが、気になるものは気になるのだ。
見てる方が苛々する。
我慢は体に良くない。
自分の中でそう結論を出した藍は、ふと思いついたように言った。
「そっか、未玖から言えばいいんじゃない。」
「へ?」
「だから、未玖が深堂をデートに誘えばいいのよ。」
「藍?」
「未玖だってデートしてみたいとか思わない? 思うでしょ?」
「まあ。それなりには・・・」
「だったら誘えばいいのよ。別に深堂から言い出さなきゃいけないわけでもなし。」
とまあ、こんな調子で未玖と司の初デートが決まったのだった。
ちっとも尾行の理由になっていないが、まあ、藍は自分が言い出したから見守るという名目で、桂は付き添い、涼はおもしろそうだから、と藍とほぼ似たような理由で同行していた。
要は単なる娯楽ということだ。
そんなこんなで覗きを続行していた三人は、不意に声を掛けられた。
「・・・お前ら何やってんだ?」
「あ。あっちゃん! 何でこんなとこいんの?」
「俺が聞いてるんだよ。何見て―――」
彼らの視線の先を見て、蓮見は呆れたような表情を浮かべた。
「お前ら、暇だな・・・」
「あっちゃんだって休日に一人淋しく出歩いてるじゃん。」
「淋しいとか言うな!!」
「丁度いいわ。あっちゃんも参加してよ。」
涼の「淋しい」発言に激しく突っ込みを入れた後で藍がそう提案した。
尾行をするのなら人数は少ない方がいいのだが、遊びは多い方がいい。
「は? つーか、お前まであっちゃんとか言うな。」
「いいな、それ。どうせ暇だろ?」
「暇じゃない! 何で折角の休日をそんな事して過ごさにゃならんのだ。」
「んー、おもしろそうだから?」
「悪趣味・・・」
そう言った蓮見に、桂がぽつりと付け足した。
「心配だから。」
「そう。心配してるのよ。鈍い未玖がちゃんとデートできるかどうか。」
「そういうのを余計なお世話だって言うんだぞ?」
「ノリが悪いわねー。いつもなら乗ってくれるじゃない。やっぱ独り身だから、あてられそうで嫌だとか?」
「お前、俺に喧嘩売ってるのか?」
「勝てる喧嘩しか買わない方がいいわよ?」
何だか言い争いを始めた二人の仲裁をするべく、涼が口を挟んだ。
蓮見にとっては嫌がらせ以外の何者でもなかったが。
「何でもいいけどさー。参加しないならあっちゃんの昔の数々の奇行を校内でいいふらすよ?」
「奇行?」
「俺はそんなバラされて困るような行動はしてないぞ。・・・多分。」
「ならいいけど? 帰れば?」
そういう風に言われると帰りにくいのが人の心。
というか、本当に妙な噂を流されでもしたら困る。しかも、涼ならやりかねないのがまた嫌だ。
そう考えた蓮見はため息をつきながらも了承の言葉を口にする。
「・・・分かったよ。」
それに、何だかんだ言いつつ、蓮見も未玖たち・・・というか司の動向は気になるところでもあったのだ。
「あ! ナンパされてる!!」
蓮見と話がついたのでふと視線を未玖に戻すと、未玖は見知らぬ男性に声をかけられていた。
少し話していたが、やがて諦めたのか離れていった。
「あいつにもナンパをかわすなんて芸当が出来るんだな。」
「ていうか、ナンパされてた事にすら気付いてないんじゃない?」
「ああ・・・そんな感じ。」
そんなけなしているのか何なのかよく分からない。
「まあ、普段より女の子っぽい格好してるしね。」
未玖は普段、常にジーンズにTシャツだ。
らしいと言えばらしいのだが、初デートはこういう格好をするものだと言いくるめて今の格好になった。未玖のスカート姿なんて制服以外で見ることは滅多に無い。
黙ってれば清楚なお嬢様に見える。
「深堂ってああいうのが好みなのか?」
「ギャップには弱そうじゃない? それに自分の為にお洒落してきたら嬉しいでしょ? しかも、あの未玖が。」
「確かに。」
「あ。またナンパされてる。」
また未玖は声を掛けられていた。
今度はさっきと違ってしつこく、肩に手を回してどこかに行こうと言っているようだ。
が、しかし。
未玖が連れてかれるより早く、未玖の体がナンパしてきた男から引き剥がされた。
今待ち合わせ場所に着いたらしい司が自分の方へ未玖を引き寄せ、相手の男を思いっきり睨んでいる。
明らかに負のオーラを放つ司の威圧感に押されたのか、男はさっさと逃げていった。
「うーわー。かっこいー。」
明らかに茶化している口調で藍がそう言った。
「どっかで見てたんじゃないかってくらいのタイミングの良さだね。」
「でも深堂ならナンパ男が未玖に触れる前に助けに来そうだけど」
「あー。あいつ何気に独占欲強いからな。」
四人にそれぞれ好き放題言われている司。
本人が聞いていたらさぞかしからかい甲斐のある反応が返ってきただろう。
「何かいい雰囲気よねー。深堂でもあんな表情するのね。」
「俺なんか、前すっげー睨まれたのに。」
「それは涼が余計な事言ったからだろ。」
「あっちゃんだって人の事言えないじゃん。」
ようするに、全員司にちょっかいをかけてるということだ。
類は友を呼ぶ。
ことわざ通りというか、所詮、皆似た者同士だった。
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