第1話 それぞれの恋心



放課後の体育館裏へのお呼び出し。
『好きです。放課後、体育館裏に来てください』というお約束というか、まあ、かなり率直に用件を述べた手紙をもらった。
寒々しい表現を使った、長ったらしいものよりはかなり好印象だと思う。
無記名だったのが玉に瑕だ。
誰が来るか分からないし、一瞬すっぽかそうかなとも思ったが、それは相手に失礼だと思ったし何より興味があった。
興味があると言っても、もちろん恋愛感情じゃない。
勇気あるチャレンジャーがどんな人が見てみたかったのだ。
言っておくけど、この台詞は「この私に告白してくるなんて身の程知らずな」なんて思うような自惚れた阿呆な考えからでは決してない。
じゃあ、何故あたしに告白してくる人が勇気があるということになるのかと言うと、原因はあたしの彼氏である桐原藤夜の存在だ。
藤夜と付き合う以前は告白されたりしたことが何度かあったけど、藤夜と付き合いだしてからはほぼなくなった。
理由は「相手があの桐原藤夜なら仕方ない」というものだったらしい。
まあ、それはいいんだけど、以前、顔も良く知らない三年の先輩に告白された。当然断ったんだけどこの人がまたしつこかった。適当に無視してたら、それが気に入らなかったらしく、突然キレだし、壁側に押し付けられ迫られた。
思いっきり蹴りを入れてやろうかと思ったらその前に目の前にあった勘違い男の体が吹き飛ばされた。
何事かと思ったけど、すぐ傍にはにっこりと笑みを浮かべた藤夜がいた。
藤夜はその後勘違い男を掴み耳元で何やら呟くと男の顔色はみるみる悪くなっていき逃げ出していった。藤夜が何を言ったのか気になったものの、聞かない方が身のためのような気がしたのでやめておいた。

以来、桐原藤夜を敵に回してはいけないという暗黙の了解のようなものができたらしい。
こんな事をしてたら優等生でない彼の本性がばれそうなものだが、相手の弱みを握っているのか妙な噂がたつこともなかった。
そんなこんなであたしに告白する人もぱったりといなくなったから、告白なんてされたのはかなり久しぶりだった。

今あたしの目の前にいるのは、女子によって行われている校内人気ランキング二位、競争率は校内一高いと言われている水瀬だ。ちなみに校内ランキング一位は藤夜。
ランキング二位である水瀬の競争率が校内一なのは藤夜が彼女持ちだからだ。まあそんな彼から告白されたわけだけどこの事が女子にばれたら、あたし水瀬ファン――というかほとんどの女子を敵に回すんじゃないだろうか。
校内ランキング1位の藤夜を彼氏に持ち、2位の水瀬に告白される――。
藤夜の時も散々騒がれたのだから今回の事が分かればまた騒ぎになるに違いない。でも、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。
水瀬は真剣に言ってるのだから、あたしも真剣に答えなければいかない。
どっちにしろ、自己防衛の手段くらいちゃんと心得てるし。

とは言え、あたしには藤夜という彼氏がいるので水瀬の気持ちには応えられないし、彼氏がいようがいまいが水瀬の事は友達としてしか見た事がない。

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、付き合ってる人いるから。」

あたしがそう言って断ると、彼は事も無げにこう返してきた。

「知ってる。桐原だろ。」

 そりゃ知ってるか。前に友達に校内一有名なカップルだとか言われたし。
 けど・・・

「水瀬、藤夜嫌い?」

人には好みというものがあるのだから彼を嫌いだと言う人がいてもおかしくないのだが、何かそういう意味とはまた違うような感じを今の言い方から感じたような・・・

「昔から嫌い。」

 うわぁ、即答だ。

「昔・・・?」
「小学校から同じだったから。あの頃から嫌いっつーか、苦手っていうか」
「何で・・って聞いていい?」
「彼氏の悪口を仮にも彼女の前で言っていいの?」
「別にあたしの悪口じゃないし。」

 そう言うと水瀬は笑顔でこう言った。

「嘘くさいから」
「は?」
「絶対あいつの本性あれじゃないと思うんだよな・・・」
「水瀬もそう思うんだ・・・」

初めて同じ意見の人を見たわ。

「え?」

 水瀬がきょとんとした顔であたしを見る。
 しまった。思わず口に出してしまった。

「ってことは相川もそう思ってんのか?」

 まあいっか。

「・・・内緒だよ?」
「分かっててよくあんなのと付き合う気になったな。」
「分かってたから、かな。ギャップがおもしろいなーと思って。」
「物好きだな」
「あたしもそう思う。でも本人は気付かれてないと思ってると思うけど。」
「案外抜けてるんだな、あいつ。」
「そこがいいんだよ。完璧な人なんていないんだから。」

言ってから気付いたが、告白してきた人と彼氏について語っていていいんだろうか。
かなり無神経だった気がするが、でも言ってしまったものは仕方ない。
あたしの言葉に水瀬は苦笑しながら言った。

「相川が桐原の本性知れば、ひくかと思ったんだけど。そしたら俺にもチャンスあるかと思ったのにな。」
「残念でした。」
「まあ、お前が男を外見で選ぶようなやつだったら好きにはならなかったけどな。男の趣味はどうかと思うけど」
「ありがとう。」

最後のは褒められてるのかどうか微妙だったが、褒め言葉だと受け取る事にしておいた。





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