プロローグ 彼女の事情と彼氏の事情



成績優秀、スポーツ万能、顔も良くておまけに優しい生徒会長。
これが周囲の人による彼の評価。
でも、私は知っている。
彼がそれを演じているということを。
簡単に言えば、彼は猫をかぶってる。
彼は気付かれてないと思っているみたいだけど、甘く見てもらっては困る。
まあ、私も気付いてて何も言わないのだから同罪かもしれないけど。

最初から分かってた。
知ってて彼と付き合っているのだ。
言ってしまおうかと思うときもあるけど、やっぱり彼のほうから言ってほしい。
だから私からは何も言わない。
でも、本当の自分を見せてほしいと思う。

彼が無理をしているとは思わない。
むしろ彼自身も優等生な自分を楽しんでると思う。
本当の彼はなかなかに腹黒い。
一番分かりやすいのが、私に告白して来た男子への対応。
仮にも自分に好意を寄せて告白してきたはずなのに、数日後には私の姿を見ると逃げ出している。
心の中でごめんね、と謝ると同時に考える。

・・・一体、何があったんだろう。

想像できないこともないが、あまりしたくないというか、確実に身のためにならない気がするのでしない。
とりあえず相手に同情してしまう。
しかも、藤夜には告白されたことなんて話した覚えは全くないのにいつの間にか知っているのだから、その情報網はすごいと思う。

だけど、このままではいけないと思う。
これでは、狐と狸の化かしあいだ。

"パーフェクトな優等生"

それも彼だ。
だけど、いくら人間にはいろんな面があるとはいえ、その本性はひとつだ。
そして、それは私に見せている優等生な彼ではないと思う。
何でそんなことをしてるんだろう。
どうして本当の事を言ってくれないのだろう。
本当の彼を知れば私が逃げるとでも思っているのだろうか?

私から言う気はない。なら、彼が地を出さざるを得ない状況にすればいいのだ。
さて、どうしようか。


***


成績優秀スポーツ万能、顔も良くておまけに優しい生徒会長。
これが周囲による俺の評価。
本当の俺の性格を知ってる奴には「詐欺だ」とか言われるけど、周りが勝手にそう思ってるんだから仕方ない。
まあ、優等生やってれば都合が良いことが結構あったし、面倒だからわざわざ訂正する気もない。
でも根っから優等生なわけではもちろん無い。
笑顔で話をしながらも心の中で悪態をついていることも少なくない。
けど優等生な自分も今じゃ生活の一部になっていて、今更変えられるものでもないし、むしろ楽しんでやっているところもあるので問題ない。

この生活で困ることがあるとすればひとつだけだ。
それは、彼女の存在。


俺の彼女である相川美咲は、はっきり言って人気がある。
本人にあまり自覚は無いらしいが。
俺と付き合うようになってからその数は減らしたものの、完全になくなったわけではない。
そいつらに対して手は打ってあるものの、誰かが彼女に告白したと聞くたびに気が気じゃなかった。

彼女が付き合う気になったのは優等生といわれる、学校での俺だから。
本当の俺ではない。
けど、それでも良かった。
本当の自分を見せて、嫌われるのが怖かったのかもしれない。

本当は告白するつもりはなかった。けど、気付いたら言っていた。
他の奴にとられたくなんか無かったから。


彼女が優等生である自分を好きならそれを守ろうと思った。




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