「あー、頭痛い・・・」
「どうした、千里。元気ないな。」
「誰のせいだと思ってんの!?」

千里は机を叩きながら勢いよく立ち上がり、呑気に声をかけてきた智也の胸倉をつかんだ。

「あんたがあたしを役員に推薦なんてするから、あたしまで生徒会なんてしなきゃいけなくなったんでしょ!?」
「いいじゃん。どうせ中学の時もやってたんだし。」
「だから、それで懲りたのよ!」
「俺はおもしろかったけどな。」
「じゃあ、あんた一人でやりなさいよ!!」
「つまんねーから嫌。」
「そりゃあそうでしょうよ。あんたの言動にいちいちついていける人なんてそうそういるわけないじゃない」
「だから推薦したんだよ。」
「だから、するなとあれ程言ったのに・・・!! あたしの都合は無視!?」

この学校の生徒会は会長だけは先代の会長による任命制だったりする。
先代の会長が知り合いだったこともあり、見事会長の座を獲得した智也は千里を始めとした四人を生徒会に推薦したのだった。
ちなみに他の役員は立候補を募ってはいるが、生徒会長の推薦の方が強い力を発揮する。
まあ、それがなくても千里には役員に当選するだけの人気はあったのだが。

「ち、千里ちゃん落ち着いて・・・!」

今にも智也に殴りかかりそうな千里を見て、亮が仲裁に入る。が、全く効果がないのも毎度の事である。
胸倉を掴まれている智也には全然慌てた様子がないのもこの2人のこういったやりとりが一度や二度ではない事を表している。ともあれ、このまま放っておいたらいつまでたっても喧嘩しているという事も分かりきっているのでそれまで横で雑誌を読んでいた夏杞も一応仲裁に入る。視線は相変わらず雑誌に向けられたままだが。

「諦めなよ、千里。もう決まったものはしょうがないじゃない。」
「何で夏杞はそんな平然としてんの!?」
「あたし達はあんたと違って吉岡から事前に知らされてたもん。」

それを聞いた千里はますます胸倉を掴んでいた手に力を込める。

「何であたしには何も言わないわけ!?」
「言ったらお前嫌がるだろ。」
「当たり前じゃない。」

即答した千里に智也はしれっと返した。

「だからだよ。」
「・・・・・・・っ!!」
「千里」

いつの間にやら傍に立っていた少年が、今にも爆発寸前といった感じで拳を震わせていた千里にコーヒーを差し出した。
コーヒーは千里の好物でたいてい彼女へのご機嫌取りの時に使われる。

「彩斗君・・・。」
「流石、彩ちゃんは用意がいいねー。」

ようやく雑誌から目を離したらしい夏杞がそう言った。

「そろそろ収拾つくころだと思ったからな。」

つまりそれまでは、コーヒーを買いに行く事を理由に避難していたのだ。



「さて、全員揃ったしそろそろ始めるか。」
「でも、一回目の活動って普通は顔合わせでしょ? 今更よね。」

夏杞が生徒会室に集まったメンバーの顔を見ながらそう言った。
ここに集まった五人の目的は一応生徒会メンバーの顔合わせである。
ここにいる5人は中学の時からの付き合いなので別に今更紹介するまでもない。

「それ以外にも新入生歓迎会の計画立てなきゃいけねーけどな。」
「また花火上げたいとか言い出したら殴るわよ。」

半眼になって智也を睨みながら千里がそう言った。

「何でだよ!?新入生歓迎会だぞ!?派手な方がいいじゃん!!」
「4月初めのイベントからそんなお金のかかるような事ができるか。」
「初めだからだろ! 何事も最初が肝心!!」
「予算がないの。だいたい、智也が言ってる打ち上げってコンビニとかで売ってるやつじゃなくて花火大会とかで上げるような本格的なやつでしょ?」

こめかみを押さえながら言う千里に対し、智也は胸を張って言い切る。

「当然っ」
「そんなお金がどこにあるのよ!? 花火って高いのよ?!」
「二人とも落ち着いて・・・」

言い争う2人の中断に入るのは中学の時から決まって亮の役目になっている。
まあ、仲裁が入ったからといって、二人の言い争いがすぐに収まるわけではないのだが。

「智也、今予算使い果たしたら体育祭中止になるぞ。」

ぼそっと言われた言葉に智也が一時停止する。
学校イベントが大好きな智也にとって一番効果的な台詞である。
そもそも彼が生徒会長なんかやっているのも学校イベントを自分の手で作りたいからなのだ。

「彩ちゃん、それもうちょっと早く言ってほしいんだけど・・・。」
「ある程度騒いだ後じゃないと聞く耳もたないだろ。」
「じゃあ、花火上げるのは体育祭で妥協する・・・」
「だからお金がないって言ってるでしょ!?」

再び下らない応酬が繰り広げられようとしていたが、今度は長く続かなかった。

「吉岡、体育祭は無理だけど文化祭でなら花火上げられるわよ。」

夏杞がそう口をはさんだからだ。

「本当かっ!?」
「あたしは嘘は言わないわよ?」
「ちょっと、夏杞?どうやって――」
「大丈夫だって。」

夏杞はにっこりと微笑んでそう言った。


“黙っていればかっこいい”と言われる今期生徒会長の吉岡智也、生まれ持った顔で女子からの絶大な支持を得る“クールでかっこいい”生徒会副会長の上條彩斗、“可愛いけど怖い”と観賞用との評価を受けている会計の暁本千里、普段は大して効果がないが2人の喧嘩の仲裁役であり上級生のお姉さま方に“可愛い”と評判の書記である水野亮、“きれいな外見騙されてはいけない”と言われている書記の生田夏杞。
今期生徒会は校内の生徒に圧倒的な人気を誇る美形揃いだと何かと話題になっている。


しかし、同時に曲者揃いの生徒会でもある。智也は“黙っていればかっこいい”と評される通り、口を開けばお馬鹿だし、“クールでかっこいい”と評される彩斗は無口というよりもめんどくさがって自らはあまり喋らないというのが事実だし、“可愛い”と評される亮は実は一度切れたら手に負えない。というか普段からなかなかすごい性格をしている。千里は唯一真面目な人間かもしれないが“あの智也の保護者”という本人が聞けば確実に嫌がるであろう事を言われている為、変わり者の部類に含まれてしまうらしい。そして夏杞は、実は中学時代から彼らの写真や情報を売ったりすることで小遣いを稼いでいるのだから彼女が一番の曲者である事は言うまでもない。


だが、常にふざけているとしか思えない彼らは以外に有能だったりする。
事実、文化祭では花火を上げることが出来、開校以来最高と言われるほどの盛り上がりを見せる。
しかし、智也が言い張った花火など金のかかる道具のお金が夏杞が彼らの写真を売りさばく事で捻出された事などまだ知る由もなく。



こうして、生徒会の幕は開かれたのだった。




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