この世界に来て四日、街に来るようになってから三日しか経っていなかったがアスカは結構知り合いが増えていた。というのも、あまりの暇さに城内ではメイドに混じって喋ってたり(仕事も手伝おうとしたが流石に断られた)ヘリウスに許可を貰って警備騎士の稽古に混じってたり、街に出ては店の店員と喋ったり仕事を手伝ったりしていたからだ。
アスカはもともと人見知りをしない性格だったし、城の人も街の人もみんな気のいい人達だったので打ち解けるのには大して時間がかからなかった。

ちなみに、街には無断で行っていた。
リズに「城の外に出たい」言ったら即効で却下されたからだ。
リズとしては「何かあったら困るから」という気持ちからの事なのだが、アスカはそれで大人しくしているような性格をしていない。リズも四六時中アスカといるわけではない。しかも、城内は広く、簡単には探せないし見つからない。要するに、ちょっとくらい抜け出しても分からないのだ。

「こんにちはー」
「いらっしゃい。また来たのか?」

アスカが来たのは街にある食堂。
店に入ったアスカに声をかけたのはフィナという名の少女。ここの店主の娘だった。
街で最初に仲良くなったのが彼女なのだ。
フィナは美人なのだが、顔に似合わず、なかなかきつい性格をしている。おまけに口も悪い。
良くも悪くも飾らない少女だ。
そんな所がアスカは気に入っていた。

しばらく店でフィナと話していたアスカだが外が騒がしいのに気付いた。
店の外に出て見てみると、女の子が男4人に囲まれている。
その光景を見たフィナはアスカの肩をぽんと叩いて言った。

「行ってらっしゃい。」
「あたし!?」
「だって、警備騎士呼びに行くよりも速いだろ。」
「そりゃそうだけど」

フィナがそう言ったのにはフィナとアスカとの出会いに原因がある。
今と同じようにフィナが男に絡まれてるのをアスカが助けたのだ。
もっとも、目の前で絡まれている少女とは違い、フィナは大人しくナンパされているような性格ではなく、思いっきり文句を言っていた為に男はきれて殴りかかろうとしていたが。
男が掴みかかろうとした手がフィナに届く前にアスカが通りかかり、男を投げ飛ばしたのだった。
ちなみに、この時魔法は一切使っていない。
アスカは合気道をやっていたため魔法を使わずともそこらの男よりかなり強かった。

アスカとしても困っている女の子をそのまま放っておく事など出来なかったので騒ぎの元へ向かったのだった。



「はーい。そこまで!」

アスカはそう言いながら少女と男達の間に割って入った。

「何だ? お前」
「無理強いは良くないわよ。断られたらさっと退く。それでこそ一流のナンパ師じゃない。」
「何の話だ!?」
「ナンパの話?」

緊張感なくそう言うアスカに男たちは一瞬言葉を失ったが、すぐに気を取り直したのかアスカの顔をじっと見た後言った。

「何なら、この子の代わりにお前が相手してくれてもいいぜ。」
「いいわよ別に。」

男の台詞にアスカはあっさりと答えた。

ここで暴れたら周りに被害が出るかもしれない。
要するに、アスカは暴れる気満々なのだった。

それに、男たちがキレて周りの人間に被害を及ぼさないとも限らない。
・・・ていうか、フィナに怒られる気がする。
ここはフィナの店のすぐ近くなのだ。
店の前で騒ぎを起こすな!とか言いそうだ。

「あ、あの・・・」

もともと男たちに絡まれていた少女が
その少女を見たアスカの抱いた感想は

ふわふわ。

だった。髪型もそうだが、雰囲気がほわっとしていて可愛らしい。
アスカより2つ3つ年下だろうか。
アスカの身を案じているのだろう。不安そうに涙目になってアスカを見ている。
ナンパしたくなる気持ちも分からないでもないが、だからと言って無理強いしたり、ましてや泣かせるなんて論外だ。

「大丈夫。」

アスカはそう言うと少女を安心させるように微笑んだ後、男たちについて行った。


***


・・・増えてる。

さっきまで四人だったはずなのに、今は明らかにその二倍はいる。
途中で逃げてまいても良かったのだが、こういう奴らは放っとくとまた同じ事をするだろうと思い、とりあえずついて行ったのだが。

「・・・最低ね。」
「何?」
「女の子口説く前に鏡でも見て出直してきた方がいいわよ。自分の行いを振り返ってみなさいよ。いかにみっともない事してるか分かるから・・・って分かるならこんな事してないか。そもそも女の子一人に何人掛かりよ。だからもてないのよ。」
「なっ・・・!!」

ずばっと言ってのけたアスカに、かっとなった男がアスカに掴みかかろうとしたが難なく避ける。

「調子に乗るなよ!」

どっちがよ、とアスカは内心で思ったがいちいち口には出さなかった。
というか、口に出す暇がなかったのかもしれない。
男がそう言ったすぐ後に、男からオレンジ色の閃光が放たれた。
もちろん、避けたが。

「・・・魔法?」

どんな種類の魔法があるか全てを把握しているわけではないのではっきりとは分からなかったが今のはおそらく魔法だろう。アスカの中では不思議な現象=魔法だった。多分、間違ってないだろうし。
アスカはそれを見て納得していた。
なるほど、だから周りの人達が手を出せなかったのか。
あの辺の店の人達はフィナを始めとしてそんなに薄情ではない。
普段なら、女の子が絡まれていれば誰かが助けに入っているはずだ。
しかし、魔法を使えない人間と使える人間とでは、ある程度以上の実力の差がない限り使える人間の方が有利だろう。

・・・・・場所移動してよかった。
あのまま暴れていたら確実に被害が出る。
アスカはそんな事を考えた後、目を閉じて集中力を高めて呪文を詠唱し始める。

アスカが呪文を放つと同時にアスカの手の平から炎が生み出され、炎は男達のもとへ派手に炎を上げながら向かっていった。
とは言え、かなり加減してある上に見た目の割には被害が少ないため、こけおどしには丁度いいだろうという位の威力しかないのだが。
案の定、脅しは成功したらしく男たちはかなり取り乱している。
が、すぐに熱くも何ともない事に気付く。

さすがにこれだけじゃ逃げ出さないか。
まあ、可愛い女の子を泣かせた責任は取ってもらわないとね。
アスカはそんな事を考えて笑みを浮かべ、男たちを見た。

「こいつ・・・!」

アスカの表情を見て馬鹿にされていると思ったのか、男がさらに何か呪文を詠唱し始めた。

その時。

「そこまで。」

声と共に、呪文を詠唱していた男の後ろに一人の少年が立っていた。

「てめぇ、いつの間に・・・邪魔する気か!?」

少年は男の言葉を気にする様子もなく、男の耳元に一言二言、何かを囁いた。
すると、男はさっきまでの勢いはどこに行ったのか、真っ青になって少年を見た。
少年は男のその様子を見て笑みを浮かべる。

「まさか・・・・」

男はそう言うと、仲間の男たちに声をかけ、さっさと逃げて行ってしまった。
その様子を見ていたアスカに少年は声をかけた。

「大丈夫か?」
「何ともない。けど・・・」
「けど?」

アスカは少年の顔をじっと見て言った。

「―――もっとはやく助けに入ろうっていう気は?」
「あ。やっぱり気付いてたか。」
「当たり前じゃない。」

ここに来たちょっと後から人の気配が増えたのを感じていた。
また仲間が増えたのかと思ったが、ただ見てるだけのようだったのでとりあえず無視していたのだが。

「強い魔力を感じたから気になって見てたんだけど。まあ何とも無かったからいいじゃねーか。ところで、さっきの魔法、自己流か?」
「え? 何で?」
「呪文詠唱とかほとんどしてなさそうだったから。もし力の制御出来なかったら危ないぞ、あれ。」
「むしろ制御するために詠唱してないんだけど・・・。」

ぼそりと呟いた言葉は少年には聞こえなかったようだ。

普通、魔法を使うときは無駄に長い呪文を詠唱する。
呪文は集中力を高め、魔法の威力を高めるためのものだそうだ。
長い呪文を唱えているうちに集中力が増し、魔力が術者の下に集まってくる。
しかしアスカの場合、まともに呪文を詠唱するともともと強い魔力がさらに増大し、威力がものすごいことになる。
魔法の破壊力を抑えるために呪文を省略して唱えるように、とヘリウスに言われていた。
その省略した呪文もヘリウスが考えたものなので暴走する危険性はないと言っていいだろう。

しかし、大した魔力のない人間がやれば暴走する危険性もある。

だから見るのをやめて中断させに来たのか。
アスカは少年の顔を見ながら一人で納得していた。

「ん?」
「何でもない。気をつけるわ。」

いちから説明するのも面倒だし、世界主だという事もあまり人に言って回らない方がいいだろうし。

「ところであんた何でこんなところにいたの? 明らかに通りかかったって感じではないでしょ。」
「ああ、さっき女の子に頼まれて・・・」
「女の子?」
「髪の色が茶色で肩までの長さのふわふわした感じの可愛らしい子。」
「ああ。」

さっきアスカが助けた少女だろう。

「その子は?」
「きれいな顔の男前な性格した子が連れてった。あんたの知り合いっぽかったけど。」
「・・・フィナね。」

フィナは可愛いものに目がない。
恐らく、様子を見に来た後、あの少女を見て一目ぼれしたに違いない。
こういう言い方をすると誤解されそうだが、フィナにはそういう趣味はない。
単に可愛いものが好きなのだ。

「あの女の子、ものすごい戸惑った顔してたけどな。」
「そっちを助けてあげた方が良かったんじゃ・・・」
「まあ、悪いようにはしないだろうと思って。」
「そりゃそうだけど。・・・様子見に行って来るわ。」
「その方がいいかもな。心配してたみたいだし。」
「そうする。あ。助けてくれてありがとう。」
「いいって。助けとか必要なさそうだったしな。むしろ俺に助けられたのはあいつらだろ。」

確かに、少年が止めに入らなければアスカは彼らを叩きのめしていたはずだ。

「かもね。」

アスカはそう言って笑うと少年と別れ、今度はフィナから少女を救出すべく走って行った。




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