5.

「お姉ちゃんの彼氏は誰であろうとみんな気に入らないと思うけど、藤夜くんなら友達くらいになら認めてあげてもいいわよ」

帰る前に言ったみずほの台詞。

お兄ちゃんにみずほを迎えに来てもらおうと連絡をとっていた間に何か話してたみたいだけど。
あたしのいない間に何があったのやら。

どうやら、藤夜のことがけっこう気に入ったらしい。
みずほは素直じゃないからあんな言い方しかしないけど。

『品定め』が済んだみずほは、「もう邪魔はしないわよ」と言ってあっさりと帰っていった。



けど、あたしにとってはむしろここからが大変だった。

藤夜がいきなりこんなことを言ってきたのだ。

「前の彼氏ってどんな奴だった?」

聞いた瞬間、むせそうになった。
何にも言ってないのに、どんどん不機嫌になる藤夜に、余計に何て言えばいいのか分からなくなる。

みずほの馬鹿―――!!!
お姉ちゃんが心配だから、とか言ったくせに、みずほのせいでお姉ちゃん大ピンチじゃない!

「そんなに好きだった?」
「そ、そんな話聞きたいの?」

思わず後退さろうとするあたしに、藤夜はにじり寄ってくる。

「・・・聞きたくないけど、中途半端に聞かされると気になる」

真剣な表情に、観念して答える。

「そりゃ、好きだったけど・・・」

好きじゃなきゃ付き合ったりしない。

何で好きな人に前に好きだった人への感情を説明しなきゃいけないのか。
しかも、どんどん機嫌が悪くなっていくのがありありと分かるのに。
でも、誤魔化したりすることは出来なくて。

でも、今思えば―――

「好きっていうか、憧れのが強かったのかも」

付き合えたことが嬉しくて。付き合うまでのことしか考えてなかったし。付き合いだしても地に足がついていなかったっていうか・・・何ていうんだろ。恋に恋するお年頃ってやつだろうか。相手のいいとこしか見えてなかった気がするし。

「藤夜は、何か腹黒いし、強引だし、無駄に要領良くてむかつくし、独占欲強いし、迫ってくるし――」

藤夜への悪口とも言える言葉がすらすらと口をついて出てくる。
そう言えば、元彼の時は欠点らしい欠点なんて思い浮かばなかった。

「でも、好きなの。どんな藤夜でも気持ちは変わらないから・・・わっ!」

いきなり藤夜に腕を引かれ、気が付いたら藤夜に抱きしめられていた。

「そういうの、反則。」
「何がよ! 藤夜が言えって言ったんじゃない!!」
「そういう事言うから、独占欲が強くなるし、迫りたくなるんだよ」
「・・・根に持ってる?」
「さあ? 何せ腹黒いから」
「やっぱりそうなんじゃない!」
「まあ、でも間違ってないけどね」

何だか身の危険を感じたので離れようともがいていると、反対に更に引き寄せられてキスされた。

「離すつもり、ないから」

みずほちゃんの言葉を借りるなら「どんな手を使っても」ね。と、藤夜がさらにそんな空恐ろしいことを呟くのが聞こえた。
・・・みずほ、何言ったのよ。



でも、あたしだって離れてあげる気なんてないんだからね。






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