ブラッド・ナイト


必要なのは、行動を起こすための情報だ。
手っ取り早く情報を集める為に、リーファは酒場に来ていた。
色んな場所から人が集い、酒のおかげで口が軽くなっているため、情報を手に入れやすい。
酔っ払いの言う事だから全部を真に受けることも出来ないが、こういう場所では噂話は尽きない。冗談のような噂話でも、元を辿っていけば案外真実に近い事だったりするのだ。

要は、情報を活用する側の問題。それと、情報をどうやって聞きだすか。
駆け引きは嫌いだが、出来ないわけじゃない。

・・・目の前にいる男さえいなければ。

「何でここにいるの」
「ここはお店でしょ? いちゃいけないの?」
「お酒なんて飲むの?」
「飲めるよ。それに、リーファに変な虫がつかないか心配で」
「あんたに言えた台詞じゃないと思うけど」
「俺はちゃんと働いてるよ。役に立つと思うけど?」
「今のところ邪魔しかしてないんじゃない?」

人が聞き込みをしていると、後ろでリーファが話している相手に笑顔で威嚇しているのだ。
おかげで、話を聞く前に逃げていってしまう。
これを邪魔と言わずに何と言うのか。

「左から三つ目のテーブルにいる男」

リーファの視線をものともせずに、レインは涼しい顔をして言った。

「前に見たことあるよ。吸血鬼と手を組みたがってた馬鹿」
「あんたも人間と契約なんてしたがる馬鹿でしょう」
「一緒にしないでほしいね」

リーファはレインを一瞥し、男から必要な情報を吐かせる手段を頭の中で考えながら、レインの言った男に近付いていった。



考えた手段を実行に移すまでもなく、事は簡単に進んだ。
男は既にかなり酒を飲んでいた事もあってか、警戒する様子もなく、口も軽い。
目的を果たすのにそう長くかからなかった。

「吸血鬼と随分仲が良いそうね」
「誰から聞いた?」
「噂で。けど、その様子からすると本当みたいね」
「奴らは俺たちよりも身体能力が高いからな。利用価値があると思ったんだ」
「集まったの?」

男は嘲るような笑みをもらした。

「確かに、集めたさ。けど、持ってかれたんだ、全部」
「誰に?」
「吸血鬼に。そもそもこの話を持ちかけてきたのはそいつだからな」

つまり、吸血鬼を利用しようとしていたこの男は、反対に吸血鬼に利用されたらしい。
集めた吸血鬼だけ持っていかれて、自棄酒。
簡単に喋ったのも、誰かに愚痴を言いたかったからなのかもしれない。

「その吸血鬼の名前は?」
「さあ、リードとか言ったか」
「どこにいるかは?」
「知るか。分かってたら、こんなとこにいないさ」

それもそうだ。

「・・・そんな事より、もっといい話をしないか?」

そう言って、男はリーファの肩に手をまわそうとしてきた。

一瞬、何か取引でも持ちかけて来たのかと思ったが、男はしこたま飲んでいる。既に正体不明になっているただの酔っ払いなので単純にリーファを口説こうとしているらしい。

もう聞きだせることはなさそうだと判断して、男から離れようとする前に男が視界から消えた。
正確に言えば、一瞬の間に床に倒され、意識を失っていた。

「聞きたい話は聞けた?」

男を床に蹴落とした張本人は、笑顔でリーファに問いかける。

聞け出せることは聞いたけれど。
たとえ聞けてなかったとしても、しばらくは聞けないだろう。

リーファはレインを睨みながら尋ねた。

「あんた、知ってたの?」
「何を? こいつの事?」
「全体的によ。アイラが探してる吸血鬼のことも知ってるんじゃないの?」
「そりゃ、会った事ある可能性は否定出来ないけど。その組織のことは知らないよ」

疑わしい視線を投げ掛けるリーファに、レインは事も無げに言った。

「それに、ここに来たのはリーファだよ」

少なくともあの男に出くわしたのは偶然、と言いたいらしい。
釈然としないながらも、これ以上ここにいても無駄に注目を浴びるだけだと判断し――レインのせいで既に十分目立っていたが――酒場を後にした。








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