二匹目 .
「…なんだ?腹が減ったのか?」 先ほどまでアリアドネの糸で遊んでいたと思ったのだが、猫は何かを思い出したかのようにとてとてと走ってきて、ハークスの腕に頬を擦りつけながら、んーなっ!と鳴いた。 ふわふわとした毛並みを触りながら、そういえばウチには犬二匹と鳥と、金ハムは居るが、猫は居なかったななどと考える。 とはいえ、いつこの家に戻れなくなるか分からない身だけに、絶対に飼うことはできない。 「ちょっと待ってろ」 クロノが研究したらしいキャットフードの資料はスルーして、今朝出掛けた時に買って来た市販の猫缶を開けてやる。 半分ほどを小皿に盛ると、猫は勢いよく食べ始めた。 それを尻目に見ながら水も用意してご飯の隣に置く。 ハークスは餌をあげ終えると、ベットに腰掛けてまたギルドの所得と出費の計算に戻った。 回復薬をケチっているおかげか、目立った出費はないが、その中で特に目を引く一項目に頭を抱える。 ”外食代”だ。 樹海探索の帰りは、よっぽど元気でない限り金鹿の酒場で夜食を取る。 動かした体はよく食べ物を消化し、自然と皿数も増えていった。それはまだいい。 問題なのは休日の外食代だ。 休日の夕食はハークスの家で食べると決まっているのだが、それまでが自由行動のため、各自で昼食をとっているのだ。 毎回、それぞれに100エンを渡して、それぞれが食べた物を事細かに明記させている。 (時々カナタだけ釣りがない。それどころか自腹をしてるって言うんだからどうしようもねえっつーか…) 100エンでも、物を選べば二人前は食べられる筈なのだ。 オレンジジュースだって20杯も飲める。 (それにリンクするように、ソラッドは100エンを使わずに返してきやがるし…) 涼しい顔して、使わなかった。 と返してくるのだから、こちらも何も言えずに閉口してしまう。 昼ごはんを食べたのか、という問いに対しても去り際に手を振るだけだ。 そこまで考えて溜息をつくと、一旦ペンを冊子の間に挟んで、それを閉じる。 すると、計算するのに夢中で気がつかなかったが、どこからかカリカリという音が聞こえる。 「げ。待て待て待て!んなトコで爪を研ぐな!」 見ると、猫が爪でカリカリと木製の扉を引っ掻いていた。 これには家の持ち主であるハークスも焦り、慌てて引き剥がす。 「んーなっ!んーなっ!」 「…なんだ?」 この家に来てからというもの、鳴くのは甘える時か餌が欲しい時ぐらいだったものだが、今は激しく鳴いて、部屋の外に出たいと訴えている。 仕方なしに扉を開けて出してやると、猫は一目散に玄関の方へと駆けて行った。 そのあまりの速さに、ハークスは気になって後を追い、尚も激しく鳴いている猫を気にしながら玄関の扉を開けると。 「んーな?」 「勘弁してくれよ…」 兄弟らしい猫が再会を喜ぶように鳴き合う。 …どうやらもう一匹増えてしまったらしい。 |
07.08.30 |