3PT  .

「あれ?ソラッドさんに、クロノさん。どうかされました?」

俺とクロノは他愛ないことを話しながら、クレハがリーダーを務める3番目のパーティーと合流するため、彼らが拠点とするヒメリの研究所へと向かっていた。
エトリアの郊外にある彼女の研究所への道は、上り坂の一本道がひたすら続いている。その道を歩いていると、丁度研究所へと戻るところだったのだろう紙袋を抱えたクレハに出会った。

「全員に少し話がある。中へ入れてもらっていいか?」
「…ええ、構いませんよ。どうぞ」

案内された先は綺麗に整頓されたリビングで、この清潔さは毎日掃除を欠かさないクレハの几帳面さの賜物だ。
ローテーブルの近くに設置されたソファでくつろいでいたイロハが軽くこちらに会釈し、ヒメリが嬉しそうに微笑む。
クレハが部屋中に響くように手を二回叩くと、どこからともなくアレアヴィスが現れ、クレハからきっちり5メートルの場所で座り込んだ。

「これで全員です」
「なんていうか…犬だな」
「犬の方がマシですよ…?」

本当にその方が良かったというように重く告げるクレハに俺は掛ける言葉を失う。
とりあえず、とイロハとヒメリの座るソファの反対側のソファを薦められ、クロノと隣り合って腰を降ろした。

「クレハ、お茶はいい」

キッチンへ行こうとしていたクレハを呼び止めて、改めて第3パーティーの面々を見やる。
もちろんヒメリとは目を合わせないようにして。

「それで?何の用なの、ソラッドちゃんv」
「ヒ、ヒメリ…っ!離してくれないと話せないだろ!」

反対側に座っているにも関わらず、ヒメリの長い腕は俺の頭を捕らえて豊満な胸の中に引き込む。
…これについてどう思ってるかはノーコメントとさせて欲しい。

「俺が話そう。単刀直入に言うが、猫を飼えないか?カナタが拾って来たのだがハークスが許してくれずに困っている」
「猫!?」

クロノの説明に、クレハが珍しくも素っ頓狂な声を上げた。
ヒメリの腕の中からなんとか様子を窺うと、彼は目を見開いて立ち上がっている。

「…取り乱してすみません。僕は猫が苦手なので…お力にはなれそうにないです」
「ちょっとクレハちゃん。此処は一応あたしの研究所なのよー?貴方が猫嫌いじゃなかったら飼っても良いみたいな言い方じゃないの」
「クレハの猫嫌いは筋金が入ってるからねー。猫ちゃんのためにもやめといた方がいいと思いますー」
「クレハが嫌がっておるのなら我も断る」

満場一致で反対意見を出され、さすがのクロノも閉口してしまう。
俺はいまだに抱き締めてくるヒメリの腕を引き剥がして脱出すると、ぼさぼさになった髪を直しながら場を収める。

「とりあえず、飼えないことは分かった。もし他に当てがあったら聞いてみて欲しい」
「分かりました。出来る限りのお手伝いはさせていただきます」
「ありがとう。それじゃ、採集の方、良い物が見つかるといいな」
「はい。エトリアの発展のためにも頑張ります」

玄関に行き着くまで別れを惜しむヒメリから本気で走って逃げ、クロノを盾にしながら研究所を後にする。
二人で長い下り坂を下りつつ、今後の事を話し合う。
ゼロの方は多分あの環境から考えて無理だろう。

「参ったな。探索を主としてない分、最適だと思ったんだけど」
「嫌いなものを無理矢理飼わせる訳にはいかないだろう。残念だが他を当たろう」
「…他って?」
「『ファウンス』。あそこは気さくな連中が多い。きっと猫くらい受け入れてくれる」
「…ルーンのところか。ここから近いし、このまま向かおうか、クロノ」
「ん」
07.08.20




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