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全員(とはいえハークスは留守番、カナタはバイトだから実質3人だ)でガッシュたちの所へ行くとは言ったものの、効率を考えればクレハたちの所へも手分けして向かったほうが良いだろうということになり、僕がガッシュたちの所へ、ソラッドとクロノはクレハたちが拠点を置くヒメリさんの研究所へと向かう事になった。

古臭くて埃だらけの蔵の中、地下への階段を下りていく。
降りた先の薄暗い地下通路の壁に転々と取り付けられている灯りが、目的地への道のりを教えてくれた。
やがて見えてきた彼らが拠点とする錆びれた扉を数回ノックする。
薄い壁からは時折楽しそうな声が聞こえてきた。

「ガッシュ、居る?ゼロだけど」

そう言うと、中からガタガタと大きな物音が聞こえ始める。
この中の散らかり具合は半端ないのだから、動く度に何処かが崩れるのは日常茶飯事だ。

「ゼロ!いらっしゃい!…あれ、一人?」
「うん。とりあえず、中に入れてよ」
「いーよ!なあ、クリーム!ゼロの座る場所作って!」

振り向いたガッシュにクリイムは頷くと、隣の椅子の上に高く積み上げられた書物を蹴り落とした。
中にはエトリア一の図書館にすら置いていない程の大変珍しい書物もあるらしいのだが、彼の手に掛かればそんなレア物でさえ紙切れだ。
何故なら、読んでも理解できないのだから。
そうして衝撃で舞った埃は、クリイムが作ったという換気扇へと吸い込まれてゆく。

「どーぞ」
「どーも。それで、話なんだけど」

先程から準備をしていたのだろう、5人分と、追加された1人分の冷たい水がテーブルの上に置かれた。
普段から使われているテーブルの上は埃もなく綺麗なまま保たれている。
冷水を配り終えたキサラギが席に着いたところで、僕は本題に入った。

「カナタが猫を拾ってきてさ。飼えないよね?じゃ、僕帰るから」
「何しに来たんだよあんた!」

返事を聞くまでもなく本題を切り上げる。初めからこのつもりだったし。
そんな僕にクリイムがつっかかってきた。まあ、当然と言えば当然かもしれないけど。

「だって、一応行ったっていう証言は欲しいし。こんなところで猫飼われたら気が気じゃないよ」
「そうですね。鼠という食料は豊富ですが衛生面は不十分も甚だしいでしょう」

今も、ヂュッと不運にもキサラギの傍を駆け抜けようとした鼠が彼女の刀の餌食になる。
その動きはもう手馴れたものだ。

「クレハのところはどうだ?あのパーティーは探索が目的ではないし、最適だと思うが」
「今ソラッドとクロノが向かってる。まあ、有力候補だと考えていいだろうね」
「ねえねえ、ゼロちゃん。その子どんな猫なの?」

テーブルを挟んで僕の前に座っていたポエムが身を乗り出す。

「長毛種で人懐っこくて鳴き声が変」
「変…?」
「気になるんだったら飼い主が決まってから引き渡す時に見に来なよ。僕はもう帰るよ」

席を立って扉へと向かうと、不意に後ろから良い匂いが漂ってきた。
甘いお菓子の匂い。

「へっへー、実は今パイ焼いてたんだ。ゼロも食ってくよな?」

そういえば話をしている間ガッシュが居なかった気もする。
そこで思わず振り返ってしまったのがいけなかったんだ。
五対の視線に中てられて、僕は成す術もなく再び席に着く破目に陥ってしまった。

ああでも、美味しい。
07.08.20




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