職権濫用  .

「ダメだっつったろ」
「絶対?」
「ダメなものはダメだ」

先ほどからかれこれ10分ほど、ハークスとカナタの全く進まない質疑応答が繰り返されていた。
あれだけ意気込んでいたメンバーも、これにはついて行けない。よく飽きないものだと思う。

「なあ、そろそろ結論を出さないか?」

ハークスのベットに仰向けに寝て、額に氷嚢を乗せたソラッドがぽつりと呟いた。
この二人のやり取りを遮ってはいけない、と無意識に感じ取って黙っていたゼロとクロノは、またソラッドが床に沈むんじゃないかと目を見張った。

「「じゃあ、ソラッドは良い解決法思いついたの(か)?」」

声を揃えて詰め寄る二人に、さすがのソラッドも苦笑いを零した。

「こういうのはどうだ?俺らは片っ端から知人を当たって里親を探す。それでも見つからなければここで飼う」
「あ。いいね、ソレ」
「俺は反対だ。そんな事で寝不足にでもなられてみろ。探索に影響が出る」

すんなりと受け入れたカナタに対し、ハークスは尚も食い下がる。
最も、彼の言う事が正しいので誰も反論は言えない。

「今日から一週間、受領クエスト以外の探索を休みにする。ギルマス権限だ」
「職権濫用じゃん」

きっぱりと言い切ったギルドマスターに、ゼロは呆れたように半眼で見詰める。
しかしそんな視線を気にした様子もなくソラッドはハークスに確認を取った。

「これで問題はないだろ?」
「んーなっ!」

ハークスが返事をする前に、猫の元気な一声。
一気にその場の空気が和む。

「ねえ、ハークス。やっぱり此処で飼おうよー、この子」
「一瞬決心が揺らいだが、それはない。絶対ない。ほら、里親探すんだろ?こいつ捨てられたくなかったら早く行って来いよ」

またもやカナタにしっしっと追い出すように手を振ったが、カナタは頬を膨らますばかりで一向に動こうとしない。
見かねたゼロがカナタの首根っこを掴んで部屋を出て行った。
あのまま放っておいたらまた冒頭のような無意味な質疑応答が繰り返されかねないと判断したのだろう。
次いで、ソラッドとクロノも、ハークスの部屋を後にする。

「それで、言っておいてなんだが、俺にははっきり言って当てがない」
「同じく。…というわけで一週間の間、キャットフードの研究でもしておこう」
「待て、嘘をつくなクロノ。お前別のギルドにアルケミストの知り合いが居ただろ」
「そんなことを言うなら、ソラッド。君はギルドマスターだろう?ならば当てがないという前にギルドメンバーに聞きまわったらどうだ?」

既に人脈がないとかそういう話ではなく、ただの押し付け合いになっている。
まったく自分の発言には責任を持って欲しいと思いながら、ゼロは二人の間に割って入ってデコピンを食らわせる。
特に、先ほど扉でヘヴィストライクを受けていたソラッドには効果抜群だったらしい。

「くだらない言い争いはいいよ。まずはガッシュたちの所に行ってみよう。今から行けば夕食には間に合うだろうし」
「賛成ー。ああ、でも僕は今からバイト入ってるから、酒場でお客さんとかに聞いてみるよ」
「その間、猫はどうする?」

「「「もちろん、ハークス行き」」」
07.08.02




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