強敵  .

「で、これが噂の猫か」

里親を探すにも、知り合いは全て冒険者。唯一のエトリア出身であるハークスは我関せず。
迷い猫だと仮定して張り紙を貼ったとしても、ほぼ毎日樹海に出かける彼らには飼い主が見つかった時の対応も満足にはできないだろう。
かといって、同様の理由で飼えるはずもなく。とはいえ、また外に放り出すのも忍びない。

だからこうして、無茶だとは分かっていながらも、ちゃんと世話をするから!という泣き落とし作戦を決行すべく、人員確保にクロノの部屋へ三人でつめかけたのだ。

つぶらな瞳の猫は、んーなっ、と鳴くと、ぺろりとクロノの頬を舐めた。

「…なるほど。可愛いな。動物というものは」
「ハークス曰く、僕らも動物らしいけどね」

何気なく根に持ってるらしいゼロを、事情を知らないクロノは不審に思いつつ、猫を抱き上げて頷いた。

「協力しよう。キャットフードの研究というのも面白そうだ」
「…毎回思うけど、どっかズレてるよねえ。クロノの研究題材って」

あえてその話題は掘り下げずにスルーして、ソラッドとゼロでクロノをがしっと掴むと、そのままずるずると引き摺ってハークスの扉の前までやって来た。
ソラッドは扉をノックする前に振り向いて仲間の顔を順番に見やる。
そして、部屋の中の主に聞こえないよう、小声で叫んだ。

「さあ、この先がボスだ。FOEだ。ケルヌンノスより強敵だと思え!」
「リーダー、指示を」
「ああ。カナタ、お前はまず安らぎの子守唄を歌いつつ猫を見せろ。ゼロ、お前はカナタをフロントガードだ。クロノ、マシンガントークという名の雷の術式だ。俺はチェイスショックで追撃しよう」
「了解した」
「この戦いにこの子の運命が掛かってるんだね…!」

素直に頷くクロノとカナタを横目に、一人冷静なゼロは具体的に自分にどうしろと。と一人嘆息した。

(というか、そんなに強敵だっけ、ハークスって…)

口で説得しようものなら、それは時間が掛かることだろうが、それでもハークスが頑なに断るとも思えない。
どっちにしろ結果が同じなら、強行突破した方が早そうな気もするのだが。
そう思いつつも、ソラッドたちは着々と準備を進めていく。

「よし、それじゃあ、全員戦闘配置につけ!いいか、開けるぞ?1、2の…」
「何してんだ人の部屋の前でさっきからごちゃごちゃと!」
「あだッ!」

開ける前に開け放たれた扉に、ソラッドは見事に額をぶつけた。
不意打ちの、扉によるヘヴィストライクか。小気味良い音と共に床に沈んだ彼に、誰ともなく合掌した。
07.08.02




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