危険なベルダの広場 .
はっきり言っておれは知人のアルケミストがどこにいるか知らない。 ちっさい頃からの悪友なのに、だ。 何故なら、あいつが地下に潜ってるから。 エトリアの地下はありえないほど広い。 それこそ、樹海と比べてもいいくらいに。 昔は一緒に探検ごっこで遊び場にしてたんだけど、おれはいつの間にかやめてた。 でもあいつはむしろ住み着いて日夜ずーっと研究ばかり。 地下はもう庭みたいなものらしい。 外には滅多に出てこず、食べ物は宅配便。 たまに、生きてるぞと生存確認のような手紙が届くくらい。 そんなあいつを地下で探そうものなら絶対迷う。 おれだってそこまで馬鹿じゃない。 あいつが出てきたら真っ先におれの家に来るだろうし、一応あいつが出入り口に使ってるあいつの家の、地下室のある倉庫を気にしながら、おれは一人で仲間探しすることにした。 仲間ができるのが早いか、あいつが出てくるのが早いか。 とりあえず『出て来い』とだけ書いたメモ用紙を、あいつが地下に勝手に設置した一番近場のポストに放り込んできたけど、それもいつ見るか分からない。 「あ!」 特に行く当てもなく、人通りの多いベルダ広場をのんびり歩いていると、反対側にソラッドさんたちの姿が見えた。 ちゃんと装備を整えているあたり、きっと樹海へ潜るんだろう。 少しででいいから奥に連れて行ってくれないかと思って、郊外へ去っていく後姿を慌てて追いかける。 が、 「ぎゃッ」 べちゃ。 広場中央の噴水広場を突っ切ろうとしたら、小さな段差につまづいて見事に顔面を打った。 自分のドジさに呆れつつも、鼻を押さえて顔を上げる。 鼻は曲がってないだろうか。 「だ、大丈夫か?」 一部始終を見ていたらしい一人の男が心配そうに近寄ってきた。 金色の長い髪が太陽に照らされてきらきらと光っている。 きれいだ、と思った。 「鼻血、出てない?」 「ああ。大丈夫だ」 「そっか!よかったあー…」 顔面はまだひりひりと痛かったが、鼻血さえ出てなければそれでいい。 「妙に急いでいたようだが、どこかへ?」 男に手を差し出され、それに甘えて立ち上がらせてもらう。 服についた砂埃を払ってから、ソラッドさんたちの姿を探したけど、もういない。 「うん。樹海に行こうと思ったんだけど、やっぱいいや。てか、仲間ボシュー中ってやつ!」 「…私でよければ協力しようか?」 え、こんな都合の良い展開アリ? おれは驚いて改めて男を見た。 確かに体躯はしっかり鍛えられていて、背中には弓矢を携えている。 レンジャーかな。 「マジ!?すっげー助かる!けど、いいのか?樹海だぜ?」 「構わない。一人で潜り込んでいた身だしな。いつかはどこかのギルドに籍を置こうと思っていた」 「一人でって…執政院公認?」 「当たり前だろう」 まあそうだよな。 無許可で潜り込むのは俺とあいつくらいか。 二人してあの空気がどうも耐えられなくて許可どころか敬遠してたからなあ。 「ま、いいや。おれはガッシュ!」 「リヒトだ。ところで、君の所属ギルドは?」 「カルジェリア!最近有名になってきたとこ!…ってあれ?リヒト?」 急に額を押さえて黙り込んでしまったリヒトに、おれは動揺した。 何かあったんだろうか。 「いや、すまない。名の挙がっているギルドに随分と簡単に入れてしまうものだと、拍子抜けしただけだ」 「有名どころっつっても、ウチのギルドマスターは心が広いからなあ。あんまそーゆーの気にしなくていいと思う」 「そうか…」 いまいち腑に落ちないらしいリヒトだったが、今更手放す気なんてない。 だからおれはリヒトの手を取って冒険者ギルドまでぐいぐい引っ張って行った。 リヒトも特に放してくれとは言わなかったから、着くまでずっと。 「ギルド長!仲間一人見っけた!」 「ほお、レンジャーか。マスターに話は通してあるのか?」 「まーだ。でもまあ、大丈夫っしょ!」 けらけらと笑ってギルド長からカルジェリアの名簿を受け取る。 「はい、リヒト。名前と歳と職業!これ書けばもうギルド員だから」 「ああ、分かった」 リヒトは名簿とペンを受け取ると、さらさらと綺麗な字で空欄を埋めていく。 あと二人、この調子で見つかるといいんだけどなあ。 「おい坊主。オレンジジュースでも飲むか?」 「へ?あ、うん。ちょーだい」 …だから、何故にオレンジジュース? |
07.07.18 |