ギルマスの許容量  .

執政院の監視の目をくぐり抜けて世界樹の浅い層をうろうろすることは日常茶飯事だった。
ギルドって大層な名前付けて名乗ってるやつら程クズばっか。
ほんとにしみったれた連中ばかり。
そんな奴らと一緒に冒険するくらいなら、非公認で潜り込んでるほうがよっぽど有意義だと思ったね。
その分、見つかった時はこっぴどく叱られたけどさ。

執政院でギルド加入を推奨されても、まともなギルドがないって言って飛び出した。
それ以来更に監視の目が多くなって、樹海に挑めてない。
失敗したなー…って後悔したのは生まれて初めてだった。
そんなこんなで共犯してたアルケミストとは別れて、暫くは大人しくすることにしたってわけ。

普通のつまらない日々を送って一ヶ月。
度々とあるギルドの名前を聞くようになった。
"カルジェリア"。
樹海探索を目的とした、珍しくまともなギルドらしい。
創設されたのは一ヶ月程前だと聞いた。
今ではすでに第三階層に挑んでるって噂がある。
半ば信じていなかっただけに、昔馴染みのアルケミストからの"カルジェリア"についての手紙は決定打だった。
おれはその手紙を握り締めて、そのギルド員をよく見かけると評判の金鹿の酒場へ駆け込んだ。

「あらあら、どうしたの?そんなに慌てて」

ここの女将さんは優しい。
つい甘えそうになるが、今はそれよりも。

「そこの赤毛ッ!あんたがカルジェリアのギルドマスター?」

アルケミストからの手紙の一文。
『背の低い赤髪のソードマンがギルドマスターらしい。』
その通り、カウンター席に着いている三人の中でも座高が一番低い赤い髪の男。
間違いないだろう。
樹海から帰ってきたばかりらしく、あちこちにできているまだ生新しい傷をメディックが癒していた。
男の傍に立てかけてある使い込まれた剣は、その男の強さを如実に表している。
そいつに向かって話しかけたが、まだ息が整ってなくて苦しい。

「ああ。…なんだ?」

男はこちらを向くように座り直すと、メディックに向けて片手を挙げる。
それを見たメディックは一つ頷いて他の仲間の治療に移った。
どうやら話を聞いてくれるらしい。

「おれもギルドに入れてくれ!最近入り口の監視がきつくて入れねーんだよ腹立つ!」

まくし立てるように言うと、男の顔はきょとんとしている。
しまった、と思って自分の口を塞いでもも後の祭り。
つい感情的になってしまった。

「へえ。…ってことは、執政院の許可なしに潜ってたんだな?やるなーお前」
「へ?」

予想外だ。
そういうことには厳しそうに見えたから、てっきり断られるかと。

「要は樹海探索がしたいんだろ?歓迎するよ」
「マジか!話分かるじゃん、あんた!」

あまりの嬉しさに、男の手を取ってはしゃぐ。
これでもうこそこそと樹海に入る必要もなくなったって事だ。

「但し、」

あからさまに喜んでる俺を見て、ギルドマスターは申し訳なさそうに条件提示をしてきた。
おれは飛ぶのを止めて、大人しくなる。

「今カルジェリアには五人しかいなくてな。探索したいのならもう四人ほど仲間が必要だろ?」
「…一応、一人だけ当てはあるけどさ」
「それじゃ、その一人と。あと三人だな…。とりあえずお前にパーティーリーダーを任せる。俺の方でもギルド員を募集してみるよ。頑張ろうな」
「お、おう…!ありがとッ、マスター!」

おれは今猛烈に感激してる。
世の中にこんな良い人が居たなんて。
思わずマスターに抱きついてたけど、それくらい嬉しかった。
あのアルケミスト誘って、このマスターに迷惑掛けないようになるべく自分達でメンバーを探そう。

「はーい、これ僕たちからの奢りね。探索、頑張って」
「あ、うん。ありがと」

一人のウェイターが近づいてきて、俺の前にオレンジジュースを置いた。
何故にオレンジジュース。
話しから察するに、このウェイターもカルジェリアの一員なんだろう。
確かに、一人足りないと思ってた。

「君、名前は?」
「そうだ!自己紹介してなかった!」

ウェイターに指摘されて気づく。
同時に、名乗りもしない人間を容易くギルドに入れたマスターの寛容さに敬服した。
後にメディックが、考えていないだけだと溜息を吐いていたけど。

「おれはガッシュ。十八歳で職業はダークハンター。よろしく!」

マスターのソラッドさん、パラディンのゼロ、
メディックのハークス、ウェイター…じゃなかった、…バードのカナタ、アルケミストのクロノ。
人の名前を覚えるのは苦手だけど、とりあえずこの時点でソラッドさんだけは覚えれた。

その後、樹海で手に入れたけど使わない武器やら防具を譲ってもらったり、向こうの面々も新人の加入が嬉しかったらしく、たくさんスイーツを奢って貰ったりした。
冒険者ってそんなに儲かる仕事じゃないはずなんだけど。
やっぱり深く潜るほど良い素材が手に入るのかな。
随分と余裕があるみたいだ。
思いっきり好意に甘えてるおれが言うのもなんだけどさ。

久しぶりに食べる目の前のチョコDXパフェのうまさに感動しながら、心の中でスイーツ仲間でもあるアルケミストに謝っておいた。
07.07.17




>>TOP    >>NEXT