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ホノルル〜東京(1) -- 悪夢のブラックダウン


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最後の航海です。
この航海では大イベントがあります。
ホノルル〜シアトルで縦帆のアンベンディングを行ないましたが、今航海では残りの横帆をアンベンディングすることになります。したがって、帆走は1日だけです。

ホノルルを出港後、まず行なったことは、もらったレイを海に流すことです。
これは、あちらの人に聞いたのですが、レイは島の見えているあいだに海に流すと、もう一度ここに来ることができるという伝説があるのだそうです。

本題に戻ります。
丸1日、機走した後、セールをあげて帆走。
1日後、横帆をアンベンディング。
次の日、セール水洗いした後、乾かすためもう一度セールをつけて帆走。
さらに次の日、すべてのセール、ロープ、滑車、シャックルなどを取外します。

アンベンディングにはセールを外す以外に、別の目的もあります。
それは、ブラックダウンといって、マストを支えているステイ(金属のロープ)にタールを塗りこむ、ということを行なうためです。

先代の日本丸や海王丸が何故約60年も現役で活躍できたかというと、実習航海のたびに実習生がステイにタールを塗りこんだり、マストの塗装を塗り直したりしていたためです。通常は夏の航海でステイにタールを、冬の航海でマストにペンキを塗るようにしているようです。

このブラックダウンはすっごく大変なんです。
マストの一番上に滑車をつけて、ブランコのようなもの(ボースンチェアー(右上))に座り、反対側のロープをゆるめつつ、ブランコを少しずつ降ろしながら、タールを塗りこんでいきます。
しかし、タールは肌には有害なので、真夏の亜熱帯にもかかわらず、長袖長ズボンのスタイルで、露出部分(顔など)にはオリーブオイルをぬり込んでの作業になります。
上の方から塗っているとタールが下へポタポタ落ちます。
すると甲板に染みが残るので下では海水で洗い流す係りがいて、せっせと働いているのです。(私はタールを塗り込む役でした)

また、この作業中は雨にあうわけにはいきません。
海上では晴れと雨の区別がつけやすいので、遠くからでもすぐにどこで雨が降っているかがわかります。
したがって、雨を避けるような航海ができるのです。
しかし、急に船が方向をかえるとマストにぶら下がっている人間は、遠心力で大変恐い思いをすることになります。(この航海でも1度ありました。一応下から「船がまわるぞ!」と声がかかり、ステイに捕まりはするのですが、多分そんなに急な旋回ではなかったのでしょうが、上ではすごく恐い思いをしました)
ボースンチェアー
ボースンチェアー


ブラックダウン後の作業服
ブラックダウン後の作業服


熱い中、1日がかりでこの作業は行なわれ、作業服は真っ黒になりました。(右下)

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