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門司〜大阪(3) -- 危機一髪(2)


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「ボッボッボッボッボッボッボッボッボーーー」

何の前触れもなく汽笛が鳴り響きました。
その音の大きさにびっくりして、一瞬動きがとまります。

「おーりろーー!」「マストからおりろーー!」

ボースンが、サードオフィサーが走りながら叫んでいます。
私はミズンマストのロイヤルの根元で、そのまま動けなくなっていました。

日本丸の左舷前方から船がやってくるのが目にはいります。
それは霧の中から突然現れたように見えました。
船が見えたときには、もう日本丸までの距離はその船の長さ程度しかありません。

私と同時に左舷側から第1登檣員として登っていた高専のY君と目が合いました。
右舷側から登ってきた2人は少し下、ゲルンヤードあたりにいるのが目に入りました。
彼らは急いでゲルン台まで降りて、何か固定したものにつかまりしゃがみこみます。
私たちは近くにそういった場所がありません。Y君が言います。「降りれないですよねぇ。」
私が答えます。「おぅ。でもヤードには渡らん方がええやろ。」
Y君はさらにつぶやきます。「何でこんなところでつかまっているんや。」
それは、私も同じ気持ちでした。
そして、シュラウドを持っている手にさらに力が入ります。

その後はTVを見ているようでした。
船は日本丸の船幅くらいを残して、かろうじて通過していき、霧のためすぐに見えなくなりました。
スローモーションのようでした。
私たちは、しばらく動けずにいました。

昔、海王丸だったか日本丸だったかが神戸で錨泊していたとき、走錨(錨が海底からはずれて船が動き出すこと)してきた船にバウスプリットを折られたことがあったそうです。帆船はマストを支えているワイヤーが1本でも切れるとマストは傾きます。
そういうことは、私たちの知識にもありました。
霧の中から船が近づいてきたとき、その話しが頭の中をよぎりました。

「マストが倒れるかも知れない。でも、絶対に振り落とされはしないぞ!」
なにか、そのようなことを考えていたような記憶があります。
とにかく、この朝の出来事は強烈でした。
このあとの作業のことはあまり覚えていませんが、しばらくしてまた「第2登檣員登り方用意!」の号令がかかり、入港の準備をしたように思います。

その後、出港までのあいだ、日本丸は法律に基づき一定間隔でドラを鳴らしていました。
停泊灯も再度つけなおしました。
準備が終わったとき、時計は8時を過ぎていました。

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