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門司〜大阪(3) -- 危機一髪(1)


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日本丸の大阪港入港は1989年5月13日12:00の予定です。
入港後、歓迎式があり、その後すぐにセイルドリルが予定されています。
そのため、朝6時からその準備にかかります。
バンドライン(セールをヤードにくくりつけているロープ)をはずしておくのです。

その朝は大変深い霧が出ていました。
視界は百メートル強。船尾から船首が何とか見える距離です。
私はミズンマストで作業していました。

「第1登檣員登り方用意!」
私は左舷側のシュラウド(マストに登るための縄ばしご)にスタンバイします。
「登れー!」
早く登るのが別にえらくなんかないけれど、私たちは、はじかれたようにマストに登り出します。
私は左舷側のシュラウドを登っています。一番近くのライバル(?)は右舷側の実習生です。

トップ台のあたりで下から「第2登檣員登り方用意!」の声が聞こえました。ゲルン台近くまで登ったときには、船尾にいた士官が、何か大きな声を出して船首方向に走っていくのが見えました。フォアマストの下ではボースンも何かに気付いたようでした。

入港する日本丸
入港する日本丸
(セールが少し垂れ下がっているのがわかります)
私はすでにロイヤルの根元まで来ていました。
そのとき日本丸の汽笛が、突然なにかを警告するかのように発せられました。
マスト作業をしているときは、よっぽどのことがない限り汽笛を鳴らすことと、無線を発信することはしません。
なのに、このときは突然でした。
汽笛はメインマストにあります。
フォアマストやメインマストに登っていた実習生は、私なんかよりよほど驚いたことでしょう。

しかし、その後のほうがもっと大変でした。
私の記憶に残っているのは、ボースンとサードオフィサーの叫び声でした。
「降りれるものはマストから降りろー!」「おーーりろーーー!」
シュラウドにスタンバイしていた第2登檣員が、急いで降りていくのが目にはいりました。

そして、日本丸の左舷前方より499トンくらいの貨物船が、日本丸めがけてやってくるのが見えました。

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